聖書・ Bible(新 共同 訳・聖書から)を 読もう。  

       引用:聖書 新共同訳:(c)日本聖書協会 Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988
         (c)共同訳聖書実行委員 Executive Committee of The Common Bible Translationから

 【マルコによる福音 書、使徒言行録ダニエル書(講解メッセージ 用)   新 約聖書へ  旧 約聖書へ

マルコによる福音書 1章

 

◆洗礼者ヨハネ、教えを宣 べる

1:神の子イエス・キリス トの福音の 初め。

2:預言者イザヤの書にこ う書いてあ る。「見よ、わたしはあなたより先に使者を遣わし、/あなたの道を準備させよう。

3:荒れ野で叫ぶ者の声が する。『主 の道を整え、/その道筋をまっすぐにせよ。』」そのとおり、

4:洗礼者ヨハネが荒れ野 に現れて、 罪の赦しを得させるために悔い改めの洗礼を宣べ伝えた。

5:ユダヤの全地方とエル サレムの住 民は皆、ヨハネのもとに来て、罪を告白し、ヨルダン川で彼から洗礼を受けた。

6:ヨハネはらくだの毛衣 を着、腰に 革の帯を締め、いなごと野蜜を食べていた。

7:彼はこう宣べ伝えた。 「わたしよ りも優れた方が、後から来られる。わたしは、かがんでその方の履物のひもを解く値打ちもない。

8:わたしは水であなたた ちに洗礼を 授けたが、その方は聖霊で洗礼をお授けになる。」

 

◆イエス、洗礼を受ける

9:そのころ、イエスはガ リラヤのナ ザレから来て、ヨルダン川でヨハネから洗礼を受けられた。

10:水の中から上がると すぐ、天が 裂けて“霊”が鳩のように御自分に降って来るのを、御覧になった。

11:すると、「あなたは わたしの愛 する子、わたしの心に適う者」という声が、天から聞こえた。

 

◆誘惑を受ける

12:それから、“霊”は イエスを荒 れ野に送り出した。

13:イエスは四十日間そ こにとどま り、サタンから誘惑を受けられた。その間、野獣と一緒におられたが、天使たちが仕えていた。

 

◆ガリラヤで伝道を始める

14:ヨハネが捕らえられ た後、イエ スはガリラヤへ行き、神の福音を宣べ伝えて、

15:「時は満ち、神の国 は近づい た。悔い改めて福音を信じなさい」と言われた。

 

◆四人の漁師を弟子にする

16:イエスは、ガリラヤ 湖のほとり を歩いておられたとき、シモンとシモンの兄弟アンデレが湖で網を打っているのを御覧になった。彼らは漁師 だった。

17:イエスは、「わたし について来 なさい。人間をとる漁師にしよう」と言われた。

18:二人はすぐに網を捨 てて従っ た。

19:また、少し進んで、 ゼベダイの 子ヤコブとその兄弟ヨハネが、舟の中で網の手れをしているのを御覧になると、

20:すぐに彼らをお呼び になった。 この二人も父ゼベダイを雇い人たちと一緒に舟残して、イエスの後について行った。

 

◆汚れた霊に取りつかれた 男をいやす

21:一行はカファルナウ ムに着い た。イエスは、安息日に会堂に入って教え始めらた。

22:人々はその教えに非 常に驚い た。律法学者のようにではなく、権威ある者としてお教えになったからである。

23:そのとき、この会堂 に汚れた霊 に取りつかれた男がいて叫んだ。

24:「ナザレのイエス、 かまわない でくれ。我々を滅ぼしに来たのか。正体は分かっている。神の聖者だ。」

25:イエスが、「黙れ。 この人から 出て行け」とお叱りになると、

26:汚れた霊はその人に けいれんを 起こさせ、大声をあげて出て行った。

27:人々は皆驚いて、論 じ合った。 「これはいったいどういうことなのだ。権威ある新しい教えだ。この人が汚れた霊に命じると、その言うこと を聴く。」

28:イエスの評判は、た ちまちガリ ラヤ地方の隅々にまで広まった。

 

◆多くの病人をいやす

29:すぐに、一行は会堂 を出て、シ モンとアンデレの家に行った。ヤコブとヨハネも一緒であった。

30:シモンのしゅうとめ が熱を出し て寝ていたので、人々は早速、彼女のことをイエスに話した。

31:イエスがそばに行 き、手を取っ て起こされると、熱は去り、彼女は一同をもてなした。

32:夕方になって日が沈 むと、人々 は、病人や悪霊に取りつかれた者を皆、イエスのもとに連れて来た。

33:町中の人が、戸口に 集まった。

34:イエスは、いろいろ な病気にか かっている大勢の人たちをいやし、また、多くの悪霊を追い出して、悪霊にものを言うことをお許しにならな かった。悪霊はイエスを知っていたからである。

 

◆巡回して宣教する

35:朝早くまだ暗いうち に、イエス は起きて、人里離れた所へ出て行き、そこで祈っておられた。

36:シモンとその仲間は イエスの後 を追い、

37:見つけると、「みん なが捜して います」と言った。

38:イエスは言われた。 「近くのほ かの町や村へ行こう。そこでも、わたしは宣教する。そのためにわたしは出て来たのである。」

39:そして、ガリラヤ中 の会堂に行 き、宣教し、悪霊を追い出された。

 

◆重い皮膚病を患っている 人をいやす

40:さて、重い皮膚病を 患っている 人が、イエスのところに来てひざまずいて願い、「御心ならば、わたしを清くすることがおできになります」 と言った。

41:イエスが深く憐れん で、手を差 し伸べてその人に触れ、「よろしい。清くなれ」と言われると、

42:たちまち重い皮膚病 は去り、そ の人は清くなった。

43:イエスはすぐにその 人を立ち去 らせようとし、厳しく注意して、

44:言われた。「だれに も、何も話 さないように気をつけなさい。ただ、行って祭司に体を見せ、モーセが定めたものを清めのために献げて、人 々に証明しなさい。」

45:しかし、彼はそこを 立ち去る と、大いにこの出来事を人々に告げ、言い広め始めた。それで、イエスはもはや公然と町に入ることができず、 町の外の人のいない所におられた。それでも、人々は四方からイエスのところに集まって来た。

 

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マルコによる福音書 2章

◆中風の人をいやす

1:数日後、イエスが再び カファルナ ウムに来られると、家におられることが知れ渡り、

2:大勢の人が集まったの で、戸口の 辺りまですきまもないほどになった。イエスが御言葉を語っておられると、

3:四人の男が中風の人を 運んで来 た。

4:しかし、群衆に阻まれ て、イエス のもとに連れて行くことができなかったので、イエスがおられる辺りの屋根をはがして穴をあけ、病人の寝て いる床をつり降ろした。

5:イエスはその人たちの 信仰を見 て、中風の人に、「子よ、あなたの罪は赦される」と言われた。

6:ところが、そこに律法 学者が数人 座っていて、心の中であれこれと考えた。

7:「この人は、なぜこう いうことを 口にするのか。神を冒涜している。神おひとりのほかに、いったいだれが、罪を赦すことができるだろう か。」

8:イエスは、彼らが心の 中で考えて いることを、御自分の霊の力ですぐに知って言われた。「なぜ、そんな考えを心に抱くのか。

9:中風の人に『あなたの 罪は赦され る』と言うのと、『起きて、床を担いで歩け』と言うのと、どちらが易しいか。

10:人の子が地上で罪を 赦す権威を 持っていることを知らせよう。」そして、中風の人に言われた。

11:「わたしはあなたに 言う。起き 上がり、床を担いで家に帰りなさい。」

12:その人は起き上が り、すぐに床 を担いで、皆の見ている前を出�ト行った。人々は皆驚き、「このようなことは、今まで見たことがない」と 言って、神を賛美した。

 

◆レビを弟子にする

13:イエスは、再び湖の ほとりに出 て行かれた。群衆が皆そばに集まって来たので、イエスは教えられた。

14:そして通りがかり に、アルファ イの子レビが収税所に座っているのを見かけて、「わたしに従いなさい」と言われた。彼は立ち上がってイエ スに従った。

15:イエスがレビの家で 食事の席に 着いておられたときのことである。多くの徴税人や罪人もイエスや弟子たちと同席していた。実に大勢の人が いて、イエスに従っていたのである。

16:ファリサイ派の律法 学者は、イ エスが罪人や徴税人と一緒に食事をされるのを見て、弟子たちに、「どうして彼は徴税人や罪人と一緒に食事 をするのか」と言った。

17:イエスはこれを聞い て言われ た。「医者を必要とするのは、丈夫な人ではなく病人である。わたしが来たのは、正しい人を招くためではな く、罪人を招くためである。」

 

◆断食についての問答

18:ヨハネの弟子たちと ファリサイ 派の人々は、断食していた。そこで、人々はイエスのところに来て言った。「ヨハネの弟子たちとファリサイ 派の弟子たちは断食しているのに、なぜ、あなたの弟子たちは断食しないのですか。」

19:イエスは言われた。 「花婿が一 緒にいるのに、婚礼の客は断食できるだろうか。花婿が一緒にいるかぎり、断食はできない。

20:しかし、花婿が奪い 取られる時 が来る。その日には、彼らは断食することになる。

21:だれも、織りたての 布から布切 れを取って、古い服に継ぎを当てたりはしない。そんなことをすれば、新しい布切れが古い服を引き裂き、破 れはいっそうひどくなる。

22:また、だれも、新し いぶどう酒 を古い革袋に入れたりはしない。そんなことをすれば、ぶどう酒は革袋を破り、ぶどう酒も革袋もだめにな る。新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れるものだ。」

 

◆安息日に麦の穂を摘む

23:ある安息日に、イエ スが麦畑を 通って行かれると、弟子たちは歩きながら麦の穂を摘み始めた。

24:ファリサイ派の人々 がイエス に、「御覧なさい。なぜ、彼らは安息日にしてはならないことをするのか」と言った。

25:イエスは言われた。 「ダビデ が、自分も供の者たちも、食べ物がなくて空腹だったときに何をしたか、一度も読んだことがないのか。

26:アビアタルが大祭司 であったと き、ダビデは神の家に入り、祭司のほかにはだれも食べてはならない供えのパンを食べ、一緒にいた者たちに も与えたではないか。」

27:そして更に言われ た。「安息日 は、人のために定められた。人が安息日のためにあるのではない。

28:だから、人の子は安 息日の主で もある。」

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マルコによる福音書 3章

 

◆手の萎えた人をいやす

1:イエスはまた会堂にお 入りになっ た。そこに片手の萎えた人がいた。

2:人々はイエスを訴えよ うと思っ て、安息日にこの人の病気をいやされるかどうか、注目していた。

3:イエスは手の萎えた人 に、「真ん 中に立ちなさい」と言われた。

4:そして人々にこう言わ れた。「安 息日に律法で許されているのは、善を行うことか、悪を行うことか。命を救うことか、殺すことか。」彼らは 黙っていた。

5:そこで、イエスは怒っ て人々を見 回し、彼らのかたくなな心を悲しみながら、その人に、「手を伸ばしなさい」と言われた。伸ばすと、手は元 どおりになった。

6:ファリサイ派の人々は 出て行き、 早速、ヘロデ派の人々と一緒に、どのようにしてイエスを殺そうかと相談し始めた。

 

◆湖の岸辺の群衆

7:イエスは弟子たちと共 に湖の方へ 立ち去られた。ガリラヤから来たおびただしい群衆が従った。また、ユダヤ、

8:エルサレム、イドマ ヤ、ヨルダン 川の向こう側、ティルスやシドンの辺りからもおびただしい群衆が、イエスのしておられることを残らず聞い て、そばに集まって来た。

9:そこで、イエスは弟子 たちに小舟 を用意してほしいと言われた。群衆に押しつぶされないためである。

10:イエスが多くの病人 をいやされ たので、病気に悩む人たちが皆、イエスに触れようとして、そばに押し寄せたからであった。

11:汚れた霊どもは、イ エスを見る とひれ伏して、「あなたは神の子だ」と叫んだ。

12:イエスは、自分のこ とを言いふ らさないようにと霊どもを厳しく戒められた。

 

◆十二人を選ぶ

13:イエスが山に登っ て、これと思 う人々を呼び寄せられると、彼らはそばに集まって来た。

14:そこで、十二人を任 命し、使徒 と名付けられた。彼らを自分のそばに置くため、また、派遣して宣教させ、

15:悪霊を追い出す権能 を持たせる ためであった。

16:こうして十二人を任 命された。 シモンにはペトロという名を付けられた。

17:ゼベダイの子ヤコブ とヤコブの 兄弟ヨハネ、この二人にはボアネルゲス、すなわち、「雷の子ら」という名を付けられた。

18:アンデレ、フィリ ポ、バルトロ マイ、マタイ、トマス、アルファイの子ヤコブ、タダイ、熱心党のシモン、

19:それに、イスカリオ テのユダ。 このユダがイエスを裏切ったのである。

 

◆ベルゼブル論争

20:イエスが家に帰られ ると、群衆 がまた集まって来て、一同は食事をする暇もないほどであった。

21:身内の人たちはイエ スのことを 聞いて取り押さえに来た。「あの男は気が変になっている」と言われていたからである。

22:エルサレムから下っ て来た律法 学者たちも、「あの男はベルゼブルに取りつかれている」と言い、また、「悪霊の頭の力で悪霊を追い出して いる」と言っていた。

23:そこで、イエスは彼 らを呼び寄 せて、たとえを用いて語られた。「どうして、サタンがサタンを追い出せよう。

24:国が内輪で争えば、 その国は成 り立たない。

25:家が内輪で争えば、 その家は成 り立たない。

26:同じように、サタン が内輪もめ して争えば、立ち行かず、滅びてしまう。

27:また、まず強い人を 縛り上げな ければ、だれも、その人の家に押し入って、家財道具を奪い取ることはできない。まず縛ってから、その家を 略奪するものだ。

28:はっきり言ってお く。人の子ら が犯す罪やどんな冒涜の言葉も、すべて赦される。

29:しかし、聖霊を冒涜 する者は永 遠に赦されず、永遠に罪の責めを負う。」

30:イエスがこう言われ たのは、 「彼は汚れた霊に取りつかれている」と人々が言っていたからである。

 

◆イエスの母、兄弟

31:イエスの母と兄弟た ちが来て外 に立ち、人をやってイエスを呼ばせた。

32:大勢の人が、イエス の周りに 座っていた。「御覧なさい。母上と兄弟姉妹がたが外であなたを捜しておられます」と知らされると、

33:イエスは、「わたし の母、わた しの兄弟とはだれか」と答え、

34:周りに座っている人 々を見回し て言われた。「見なさい。ここにわたしの母、わたしの兄弟がいる。

35:神の御心を行う人こ そ、わたし の兄弟、姉妹、また母なのだ。」

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マルコによる福音書 4章

◆「種を蒔く人」のたとえ

1:イエスは、再び湖のほ とりで教え 始められた。おびただしい群衆が、そばに集まって来た。そこで、イエスは舟に乗って腰を下ろし、湖の上に おられたが、群衆は皆、湖畔にいた。

2:イエスはたとえでいろ いろと教え られ、その中で次のように言われた。

3:「よく聞きなさい。種 を蒔く人が 種蒔きに出て行った。

4:蒔いている間に、ある 種は道端に 落ち、鳥が来て食べてしまった。

5:ほかの種は、石だらけ で土の少な い所に落ち、そこは土が浅いのですぐ芽を出した。

6:しかし、日が昇ると焼 けて、根が ないために枯れてしまった。

7:ほかの種は茨の中に落 ちた。する と茨が伸びて覆いふさいだので、実を結ばなかった。

8:また、ほかの種は良い 土地に落 ち、芽生え、育って実を結び、あるものは三十倍、あるものは六十倍、あるものは百倍にもなった。」

9:そして、「聞く耳のあ る者は聞き なさい」と言われた。

 

◆たとえを用いて話す理由

10:イエスがひとりにな られたと き、十二人と一緒にイエスの周りにいた人たちとがたとえについて尋ねた。

11:そこで、イエスは言 われた。 「あなたがたには神の国の秘密が打ち明けられているが、外の人々には、すべてがたとえで示される。

12:それは、/『彼らが 見るには見 るが、認めず、/聞くには聞くが、理解できず、/こうして、立ち帰って赦されることがない』/ようになる ためである。」

 

◆「種を蒔く人」のたとえ の説明

13:また、イエスは言わ れた。「こ のたとえが分からないのか。では、どうしてほかのたとえが理解できるだろうか。

14:種を蒔く人は、神の 言葉を蒔く のである。

15:道端のものとは、こ ういう人た ちである。そこに御言葉が蒔かれ、それを聞いても、すぐにサタンが来て、彼らに蒔かれた御言葉を奪い去 る。

16:石だらけの所に蒔か れるものと は、こういう人たちである。御言葉を聞くとすぐ喜んで受け入れるが、

17:自分には根がないの で、しばら くは続いても、後で御言葉のために艱難や迫害が起こると、すぐにつまずいてしまう。

18:また、ほかの人たち は茨の中に 蒔かれるものである。この人たちは御言葉を聞くが、

19:この世の思い煩いや 富の誘惑、 その他いろいろな欲望が心に入り込み、御言葉を覆いふさいで実らない。

20:良い土地に蒔かれた ものとは、 御言葉を聞いて受け入れる人たちであり、ある者は三十倍、ある者は六十倍、ある者は百倍の実を結ぶのであ る。」

 

◆「ともし火」と「秤」の たとえ

21:また、イエスは言わ れた。「と もし火を持って来るのは、升の下や寝台の下に置くためだろうか。燭台の上に置くためではないか。

22:隠れているもので、 あらわにな らないものはなく、秘められたもので、公にならないものはない。

23:聞く耳のある者は聞 きなさ い。」

24:また、彼らに言われ た。「何を 聞いているかに注意しなさい。あなたがたは自分の量る秤で量り与えられ、更にたくさん与えられる。

25:持っている人は更に 与えられ、 持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。」

 

◆「成長する種」のたとえ

26:また、イエスは言わ れた。「神 の国は次のようなものである。人が土に種を蒔いて、

27:夜昼、寝起きしてい るうちに、 種は芽を出して成長するが、どうしてそうなるのか、その人は知らない。

28:土はひとりでに実を 結ばせるの であり、まず茎、次に穂、そしてその穂には豊かな実ができる。

29:実が熟すと、早速、 鎌を入れ る。収穫の時が来たからである。」

 

◆「からし種」のたとえ

30:更に、イエスは言わ れた。「神 の国を何にたとえようか。どのようなたとえで示そうか。

31:それは、からし種の ようなもの である。土に蒔くときには、地上のどんな種よりも小さいが、

32:蒔くと、成長してど んな野菜よ りも大きくなり、葉の陰に空の鳥が巣を作れるほど大きな枝を張る。」

 

◆たとえを用いて語る

33:イエスは、人々の聞 く力に応じ て、このように多くのたとえで御言葉を語られた。

34:たとえを用いずに語 ることはな かったが、御自分の弟子たちにはひそかにすべてを説明された。

 

◆突風を静める

35:その日の夕方になっ て、イエス は、「向こう岸に渡ろう」と弟子たちに言われた。

36:そこで、弟子たちは 群衆を後に 残し、イエスを舟に乗せたまま漕ぎ出した。ほかの舟も一緒であった。

37:激しい突風が起こ り、舟は波を かぶって、水浸しになるほどであった。

38:しかし、イエスは艫 の方で枕を して眠っておられた。弟子たちはイ

エスを起こして、「先生、 わたしたち がおぼれてもかまわないのですか」と言った。

39:イエスは起き上がっ て、風を叱 り、湖に、「黙れ。静まれ」と言われた。すると、風はやみ、すっかり凪になった。

40:イエスは言われた。 「なぜ怖が るのか。まだ信じないのか。」

41:弟子たちは非常に恐 れて、 「いったい、この方はどなたなのだろう。風や湖さえも従うではないか」と互いに言った

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マルコによる福音書 5章

◆悪霊に取りつかれたゲラサの人をいやす

1:一行は、湖の向こう岸 にあるゲラ サ人の地方に着いた。

2:イエスが舟から上がら れるとすぐ に、汚れた霊に取りつかれた人が墓場からやって来た。

3:この人は墓場を住まい としてお り、もはやだれも、鎖を用いてさえつなぎとめておくことはできなかった。

4:これまでにも度々足枷 や鎖で縛ら れたが、鎖は引きちぎり足枷は砕いてしまい、だれも彼を縛っておくことはできなかったのである。

5:彼は昼も夜も墓場や山 で叫んだ り、石で自分を打ちたたいたりしていた。

6:イエスを遠くから見る と、走り 寄ってひれ伏し、

7:大声で叫んだ。「いと 高き神の子 イエス、かまわないでくれ。後生だから、苦しめないでほしい。」

8:イエスが、「汚れた 霊、この人か ら出て行け」と言われたからである。

9:そこで、イエスが、 「名は何とい うのか」とお尋ねになると、「名はレギオン。大勢だから」と言った。

10:そして、自分たちを この地方か ら追い出さないようにと、イエスにしきりに願った。

11:ところで、その辺り の山で豚の 大群がえさをあさっていた。

12:汚れた霊どもはイエ スに、「豚 の中に送り込み、乗り移らせてくれ」と願った。

13:イエスがお許しに なったので、 汚れた霊どもは出て、豚の中に入った。すると、二千匹ほどの豚の群れが崖を下って湖になだれ込み、湖の中 で次々とおぼれ死んだ。

14:豚飼いたちは逃げ出 し、町や村 にこのことを知らせた。人々は何が起こったのかと見に来た。

15:彼らはイエスのとこ ろに来る と、レギオンに取りつかれていた人が服を着、正気になって座っているのを見て、恐ろしくなった。

16:成り行きを見ていた 人たちは、 悪霊に取りつかれた人の身に起こったことと豚のことを人々に語った。

17:そこで、人々はイエ スにその地 方から出て行ってもらいたいと言いだした。

18:イエスが舟に乗られ ると、悪霊 に取りつかれていた人が、一緒に行きたいと願った。

19:イエスはそれを許さ ないで、こ う言われた。「自分の家に帰りなさい。そして身内の人に、主があなたを憐れみ、あなたにしてくださったこ とをことごとく知らせなさい。」

20:その人は立ち去り、 イエスが自 分にしてくださったことをことごとくデカポリス地方に言い広め始めた。人々は皆驚いた。

 

◆ヤイロの娘とイエスの服 に触れる女

21:イエスが舟に乗って 再び向こう 岸に渡られると、大勢の群衆がそばに集まって来た。イエスは湖のほとりにおられた。

22:会堂長の一人でヤイ ロという名 の人が来て、イエスを見ると足もとにひれ伏して、

23:しきりに願った。 「わたしの幼 い娘が死にそうです。どうか、おいでになっ手を置いてやってください。そうすれば、娘は助かり、生きるで しょう。」

24:そこで、イエスはヤ イロと一緒 に出かけて行かれた。大勢の群衆も、イエス従い、押し迫って来た。

25:さて、ここに十二年 間も出血の 止まらない女がいた。

26:多くの医者にかかっ て、ひどく 苦しめられ、全財産を使い果たしても何の役も立たず、ますます悪くなるだけであった。

27:イエスのことを聞い て、群衆の 中に紛れ込み、後ろからイエスの服に触れた。

28:「この方の服にでも 触れればい やしていただける」と思ったからである。

29:すると、すぐ出血が 全く止まっ て病気がいやされたことを体に感じた。

30:イエスは、自分の内 から力が出 て行ったことに気づいて、群衆の中で振り返り、「わたしの服に触れたのはだれか」と言われた。

31:そこで、弟子たちは 言った。 「群衆があなたに押し迫っているのがお分かりでしょう。それなのに、『だれがわたしに触れたのか』とおっ しゃるのですか。」

32:しかし、イエスは、 触れた者を 見つけようと、辺りを見回しておられた。

33:女は自分の身に起 こったことを 知って恐ろしくなり、震えながら進み出てひれ伏し、すべてをありのまま話した。

34:イエスは言われた。 「娘よ、あ なたの信仰があなたを救った。安心して行きなさい。もうその病気にかからず、元気に暮らしなさい。」

35:イエスがまだ話して おられると きに、会堂長の家から人々が来て言った。「お嬢さんは亡くなりました。もう、先生を煩わす�ノは及ば

ないでしょう。」

36:イエスはその話をそ ばで聞い て、「恐れることはない。ただ信じなさい」と会堂長に言われた。

37:そして、ペトロ、ヤ コブ、また ヤコブの兄弟ヨハネのほかは、だれもついて来ることをお許しにならなかった。

38:一行は会堂長の家に 着いた。イ エスは人々が大声で泣きわめいて騒いでいるのを見て、

39:家の中に入り、人々 に言われ た。「なぜ、泣き騒ぐのか。子供は死んだのではない。眠っているのだ。」

40:人々はイエスをあざ 笑った。し かし、イエスは皆を外に出し、子供の両親と三人の弟子だけを連れて、子供のいる所へ入って行かれた。

41:そして、子供の手を 取って、 「タリタ、クム」と言われた。これは、「少女よ、わたしはあなたに言う。起きなさい」という意味である。

42:少女はすぐに起き上 がって、歩 きだした。もう十二歳になっていたからである。それを見るや、人々は驚きのあまり我を忘れた。

43:イエスはこのことを だれにも知 らせないようにと厳しく命じ、また、食べ物を少女に与えるようにと言われた。

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マルコによる福音書 6章

◆ナザレで受け入れられな い

1:イエスはそこを去って 故郷にお帰 りになったが、弟子たちも従った。

2:安息日になったので、 イエスは会 堂で教え始められた。多くの人々はそれを聞いて、驚いて言った。「この人は、このようなことをどこから得 たのだろう。この人が授かった知恵と、その手で行われるこのような奇跡はいったい何か。

3:この人は、大工ではな いか。マリ アの息子で、ヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄弟ではないか。姉妹たちは、ここで我々と一緒に住んでいるで はないか。」このように、人々はイエスにつまずいた。

4:イエスは、「預言者が 敬われない のは、自分の故郷、親戚や家族の間だけである」と言われた。

5:そこでは、ごくわずか の病人に手 を置いていやされただけで、そのほかは何も奇跡を行うことがおできにならなかった。

6:そして、人々の不信仰 に驚かれ た。

 

◆十二人を派遣する

:それから、イエスは付近 の村を巡り 歩いてお教えになった。

7:そして、十二人を呼び 寄せ、二人 ずつ組にして遣わすことにされた。その際、汚れた霊に対する権能を授け、

8:旅には杖一本のほか何 も持たず、 パンも、袋も、また帯の中に金も持たず、

9:ただ履物は履くよう に、そして 「下着は二枚着てはならない」と命じられた。

10:また、こうも言われ た。「どこ でも、ある家に入ったら、その土地から旅立つときまで、その家にとどまりなさい。

11:しかし、あなたがた を迎え入れ ず、あなたがたに耳を傾けようともしない所があったら、そこを出ていくとき、彼らへの証しとして足の裏の 埃を払い落としなさい。」

12:十二人は出かけて 行って、悔い 改めさせるために宣教した。

13:そして、多くの悪霊 を追い出 し、油を塗って多くの病人をいやした。

 

◆洗礼者ヨハネ、殺される

14:イエスの名が知れ 渡ったので、 ヘロデ王の耳にも入った。人々は言っていた。「洗礼者ヨハネが死者の中から生き返ったのだ。だから、奇跡 を行う力が彼に働いている。」

15:そのほかにも、「彼 はエリヤ だ」と言う人もいれば、「昔の預言者のような預言者だ」と言う人もいた。

16:ところが、ヘロデは これを聞い て、「わたしが首をはねたあのヨハネが、生き返ったのだ」と言った。

17:実は、ヘロデは、自 分の兄弟 フィリポの妻ヘロディアと結婚しており、そのことで人をやってヨハネを捕らえさせ、牢につないでいた。

18:ヨハネが、「自分の 兄弟の妻と 結婚することは、律法で許されていない」とヘロデに言ったからである。

19:そこで、ヘロディア はヨハネを 恨み、彼を殺そうと思っていたが、できないでいた。

20:なぜなら、ヘロデ が、ヨハネは 正しい聖なる人であることを知って、彼を恐れ、保/護し、また、その教えを聞いて非常に当惑しながらも、 なお喜んで耳を傾けていたからである。

21:ところが、良い機会 が訪れた。 ヘロデが、自分の誕生日の祝いに高官や将校、ガリラヤの有力者などを招いて宴会を催すと、

22:ヘロディアの娘が 入って来て踊 りをおどり、ヘロデとその客を喜ばせた。そこで、王は少女に、「欲しいものがあれば何でも言いなさい。お 前にやろう」と言い、

23:更に、「お前が願う なら、この 国の半分でもやろう」と固く誓ったのである。

24:少女が座を外して、 母親に、 「何を願いましょうか」と言うと、母親は、「洗礼者ヨハネの首を」と言った。

25:早速、少女は大急ぎ で王のとこ ろに行き、「今すぐに洗礼者ヨハネの首を盆に載せて、いただきとうございます」と願った。

26:王は非常に心を痛め たが、誓っ たことではあるし、また客の手前、少女の願いを退けたくなかった。

27:そこで、王は衛兵を 遣わし、ヨ ハネの首を持って来るようにと命じた。衛兵は出て行き、牢の中でヨハネの首をはね、

28:盆に載せて持って来 て少女に渡 し、少女はそれを母親に渡した。

29:ヨハネの弟子たちは このことを 聞き、やって来て、遺体を引き取り、墓に納めた。

 

◆五千人に食べ物を与える

30:さて、使徒たちはイ エスのとこ ろに集まって来て、自分たちが行ったことや教えたことを残らず報告した。

31:イエスは、「さあ、 あなたがた だけで人里離れた所へ行って、しばらく休むがよい」と言われた。出入りする人が多くて、食事をする暇もな かったからである。

32:そこで、一同は舟に 乗って、自 分たちだけで人里離れた所へ行った。

33:ところが、多くの人 々は彼らが 出かけて行くのを見て、それと気づき、すべての町からそこへ一斉に駆けつけ、彼らより先に着いた。

34:イエスは舟から上が り、大勢の 群衆を見て、飼い主のいない羊のような有様を深く憐れみ、いろいろと教え始められた。

35:そのうち、時もだい ぶたったの で、弟子たちがイエスのそばに来て言った。「ここは人里離れた所で、時間もだいぶたちました。

36:人々を解散させてく ださい。そ うすれば、自分で周りの里や村へ、何か食べ物を買いに行くでしょう。」

37:これに対してイエス は、「あな たがたが彼らに食べ物を与えなさい」とお答えになった。弟子たちは、「わたしたちが二百デナリオンものパ ンを買って来て、みんなに食べさせるのですか」と言った。

38:イエスは言われた。 「パンは幾 つあるのか。見て来なさい。」弟子たちは確かめて来て、言った。「五つあります。それに魚が二匹です。」

39:そこで、イエスは弟 子たちに、 皆を組に分けて、青草の上に座らせるようにお命じになった。

40:人々は、百人、五十 人ずつまと まって腰を下ろした。

41:イエスは五つのパン と二匹の魚 を取り、天を仰いで賛美の祈りを唱え、パンを裂いて、弟子たちに渡しては配らせ、二匹の魚も皆に分配され た。

42:すべての人が食べて 満腹した。

43:そして、パンの屑と 魚の残りを 集めると、十二の籠にいっぱいになった。

44:パンを食べた人は男 が五千人で あった。

 

◆湖の上を歩く

45:それからすぐ、イエ スは弟子た ちを強いて舟に乗せ、向こう岸のベトサイダへ先に行かせ、その間に御自分は群衆を解散させられた。

46:群衆と別れてから、 祈るために 山へ行かれた。

47:夕方になると、舟は 湖の真ん中 に出ていたが、イエスだけは陸地におられた。

48:ところが、逆風のた めに弟子た ちが漕ぎ悩んでいるのを見て、夜が明けるころ、湖の上を歩いて弟子たちのところに行き、そばを通り過ぎよ うとされた。

49:弟子たちは、イエス が湖上を歩 いておられるのを見て、幽霊だと思い、大声で叫んだ。

50:皆はイエスを見てお びえたので ある。しかし、イエスはすぐ彼らと話し始めて、「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない」と言われ た。

51:イエスが舟に乗り込 まれると、 風は静まり、弟子たちは心の中で非常に驚いた。

52:パンの出来事を理解 せず、心が 鈍くなっていたからである。

 

◆ゲネサレトで病人をいや す

53:こうして、一行は湖 を渡り、ゲ ネサレトという土地に着いて舟をつないだ。

54:一行が舟から上がる と、すぐに 人々はイエスと知って、

55:その地方をくまなく 走り回り、 どこでもイエスがおられると聞けば、そこへ病人を床に乗せて運び始めた。

56:村でも町でも里で も、イエスが 入って行かれると、病人を広場に置き、せめてその服のすそにでも触れさせてほしいと願った。触れた者は皆 いやされた。

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マルコによる福音書 第7章

 

◆昔の人の言い伝え

1:ファリサイ派の人々と 数人の律法 学者たちが、エルサレムから来て、イエスのもとに集まった。

2:そして、イエスの弟子 たちの中に 汚れた手、つまり洗わない手で食事をする者がいるのを見た。

3:――ファリサイ派の人 々をはじめ ユダヤ人は皆、昔の人の言い伝えを固く守って、念入りに手を洗ってからでないと食事をせず、

4:また、市場から帰った ときには、 身を清めてからでないと食事をしない。そのほか、杯、鉢、銅の器や寝台を洗うことなど、昔から受け継いで 固く守っていることがたくさんある。――

5:そこで、ファリサイ派 の人々と律 法学者たちが尋ねた。「なぜ、あなたの弟子たちは昔の人の言い伝えに従って歩まず、汚れた手で食事をする のですか。」

6:イエスは言われた。 「イザヤは、 あなたたちのような偽善者のことを見事に預言したものだ。彼はこう書いている。『この民は口先ではわたし を敬うが、/その心はわたしから遠く離れている。

7:人間の戒めを教えとし ておしえ、 /むなしくわたしをあがめている。』

8:あなたたちは神の掟を 捨てて、人 間の言い伝えを固く守っている。」

9:更に、イエスは言われ た。「あな たたちは自分の言い伝えを大事にして、よくも神の掟をないがしろにしたものである。

10:モーセは、『父と母 を敬え』と 言い、『父または母をののしる者は死刑に処せられるべきである』とも言っている。

11:それなのに、あなた たちは言っ ている。『もし、だれかが父または母に対して、「あなたに差し上げるべきものは、何でもコルバン、つまり 神への供え物です」と言えば、

12:その人はもはや父ま たは母に対 して何もしないで済むのだ』と。

13:こうして、あなたた ちは、受け 継いだ言い伝えで神の言葉を無にしている。また、これと同じようなことをたくさん行っている。」

14:それから、イエスは 再び群衆を 呼び寄せて言われた。「皆、わたしの言うことを聞いて悟りなさい。

15:外から人の体に入る もので人を 汚すことができるものは何もなく、人の中から出て来るものが、人を汚すのである。」

16>:聞く耳のあ る者は聞き なさい。

  (底本に節が欠けてい る個所の異 本による訳文)

17:イエスが群衆と別れ て家に入ら れると、弟子たちはこのたとえについて尋ねた。

18:イエスは言われた。 「あなたが たも、そんなに物分かりが悪いのか。

すべて外から人の体に入る ものは、人 を汚すことができないことが

分からないのか。

19:それは人の心の中に 入るのでは なく、腹の中に入り、そして外に出

される。こうして、すべて の食べ物は 清められる。」

20:更に、次のように言 われた。 「人から出て来るものこそ、人を汚す。

21:中から、つまり人間 の心から、 悪い思いが出て来るからである。み

だらな行い、盗み、殺意、

22:姦淫、貪欲、悪意、 詐欺、好 色、ねたみ、悪口、傲慢、無分別など、

23:これらの悪はみな中 から出て来 て、人を汚すのである。」

 

◆シリア・フェニキアの女 の信仰

24:イエスはそこを立ち 去って、 ティルスの地方に行かれた。ある家に入り、だれにも知られたくないと思っておられたが、人々に気づかれてし まった。

25:汚れた霊に取りつか れた幼い娘 を持つ女が、すぐにイエスのことを聞きつけ、来てその足もとにひれ伏した。

26:女はギリシア人でシ リア・フェ ニキアの生まれであったが、娘から悪霊を追い出してくださいと頼んだ。

27:イエスは言われた。 「まず、子 供たちに十分食べさせなければならない。子供たちのパンを取って、小犬にやってはいけない。」

28:ところが、女は答え て言った。 「主よ、しかし、食卓の下の小犬も、子供のパン屑はいただきます。」

29:そこで、イエスは言 われた。 「それほど言うなら、よろしい。家に帰りなさい。悪霊はあなたの娘からもう出てしまった。」

30:女が家に帰ってみる と、その子 は床の上に寝ており、悪霊は出てしまっていた。

 

◆耳が聞こえず舌の回らな い人をいや す

31:それからまた、イエ スはティル スの地方を去り、シドンを経てデカポリス地方を通り抜け、ガリラヤ湖へやって来られた。

32:人々は耳が聞こえず 舌の回らな い人を連れて来て、その上に手を置いてくださるようにと願った。

33:そこで、イエスはこ の人だけを 群衆の中から連れ出し、指をその両耳に差し入れ、それから唾をつけてその舌に触れられた。

34:そして、天を仰いで 深く息をつ き、その人に向かって、「エッファタ」と言われた。これは、「開け」という意味である。

35:すると、たちまち耳 が開き、舌 のもつれが解け、はっきり話すことができるようになった。

36:イエスは人々に、だ れにもこの ことを話してはいけない、と口止めをされた。しかし、イエスが口止めをされればされるほど、人々はかえっ てますます言い広めた。

37:そして、すっかり驚 いて言っ た。「この方のなさったことはすべて、すばらしい。耳の聞こえない人を聞こえるようにし、口の利けない人を 話せるようにしてくださる。」


マルコによる福音書 第8章

 

◆四千人に食べ物を与える

1:そのころ、また群衆が 大勢いて、 何も食べる物がなかったので、イエスは弟子たちを呼び寄せて言われた。

2:「群衆がかわいそう だ。もう三日 もわたしと一緒にいるのに、食べ物がない。

3:空腹のまま家に帰らせ ると、途中 で疲れきってしまうだろう。中には遠くから来ている者もいる。」

4:弟子たちは答えた。 「こんな人里 離れた所で、いったいどこからパンを手に入れて、これだけの人に十分食べさせることができるでし

ょうか。」

5:イエスが「パンは幾つ あるか」と お尋ねになると、弟子たちは、「七つあります」と言った。

6:そこで、イエスは地面 に座るよう に群衆に命じ、七つのパンを取り、感謝の祈りを唱えてこれを裂き、人々に配るようにと弟子たちにお渡しに なった。弟子たちは群衆に配った。

7:また、小さい魚が少し あったの で、賛美の祈りを唱えて、それも配るようにと言われた。

8:人々は食べて満腹した が、残った パンの屑を集めると、七籠になった。

9:およそ四千人の人がい た。イエス は彼らを解散させられた。

10:それからすぐに、弟 子たちと共 に舟に乗って、ダルマヌタの地方に行かれた。

 

◆人々はしるしを欲しがる

11:ファリサイ派の人々 が来て、イ エスを試そうとして、天からのしるしを求め、議論をしかけた。

12:イエスは、心の中で 深く嘆いて 言われた。「どうして、今の時代の者たちはしるしを欲しがるのだろう。はっきり言っておく。今の時代の者 たちには、決してしるしは与えられない。」

13:そして、彼らをその ままにし て、また舟に乗って向こう岸へ行かれた。

 

◆ファリサイ派の人々とヘ ロデのパン 種

14:弟子たちはパンを 持って来るの を忘れ、舟の中には一つのパンしか持ち合わせていなかった。

15:そのとき、イエス は、「ファリ サイ派の人々のパン種とヘロデのパン種によく気をつけなさい」と戒められた。

16:弟子たちは、これは 自分たちが パンを持っていないからなのだ、と論じ合っていた。

17:イエスはそれに気づ いて言われ た。「なぜ、パンを持っていないことで議論するのか。まだ、分からないのか。悟らないのか。心がかたくな になっているのか。

18:目があっても見えな いのか。耳 があっても聞こえないのか。覚えていないのか。

19:わたしが五千人に五 つのパンを 裂いたとき、集めたパンの屑でいっぱいになった籠は、幾つあったか。」弟子たちは、「十二です」と言っ た。

20:「七つのパンを四千 人に裂いた ときには、集めたパンの屑でいっぱいになった籠は、幾つあったか。」「七つです」と言うと、

21:イエスは、「まだ悟 らないの か」と言われた。

 

◆ベトサイダで盲人をいや す

22:一行はベトサイダに 着いた。人 々が一人の盲人をイエスのところに連れて来て、触れていただきたいと願った。

23:イエスは盲人の手を 取って、村 の外に連れ出し、その目に唾をつけ、両手をその人の上に置いて、「何か見えるか」とお尋ねになった。

24:すると、盲人は見え るように なって、言った。「人が見えます。木のようですが、歩いているのが分かります。」

25:そこで、イエスがも う一度両手 をその目に当てられると、よく見えてきていやされ、何でもはっきり見えるようになった。

26:イエスは、「この村 に入っては いけない」と言って、その人を家に帰された。

 

◆ペトロ、信仰を言い表す

27:イエスは、弟子たち とフィリ ポ・カイサリア地方の方々の村にお出かけになった。その途中、弟子たちに、「人々は、わたしのことを何者だ と言っているか」と言われた。

28:弟子たちは言った。 「『洗礼者 ヨハネだ』と言っています。ほかに、『エリヤだ』と言う人も、『預言者の一人だ』と言う人もいます。」

29:そこでイエスがお尋 ねになっ た。「それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。」ペトロが答えた。「あなたは、メシアです。」

30:するとイエスは、御 自分のこと をだれにも話さないようにと弟子たちを戒められた。

 

◆イエス、死と復活を予告 する

31:それからイエスは、 人の子は必 ず多くの苦しみを受け、長老、祭司長、律法学者たちから排斥されて殺され、三日の後に復活することになっ ている、と弟子たちに教え始められた。

32:しかも、そのことを はっきりと お話しになった。すると、ペトロはイエスをわきへお連れして、いさめ始めた。

33:イエスは振り返っ て、弟子たち を見ながら、ペトロを叱って言われた。「サタン、引き下がれ。あなたは神のことを思わず、人間のことを 思っている。」

34:それから、群衆を弟 子たちと共 に呼び寄せて言われた。「わたしの後に従いたい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従い なさい。

35:自分の命を救いたい と思う者 は、それを失うが、わたしのため、また福音のために命を失う者は、それを救うのである。

36:人は、たとえ全世界 を手に入れ ても、自分の命を失ったら、何の得があろうか。

37:自分の命を買い戻す のに、どん な代価を支払えようか。

38:神に背いたこの罪深 い時代に、 わたしとわたしの言葉を恥じる者は、人の子もまた、父の栄光に輝いて聖なる天使たちと共に来るときに、そ の者を恥じる。」

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マルコによる福音書 第9章

 

1:また、イエスは言われ た。「はっ きり言っておく。ここに一緒にいる人々の中には、神の国が力にあふれて現れるのを見るまでは、決して死な ない者がいる。」

◆イエスの姿が変わる

2:六日の後、イエスは、 ただペト ロ、ヤコブ、ヨハネだけを連れて、高い山に登られた。イエスの姿が彼らの目の前で変わり、

3:服は真っ白に輝き、こ の世のどん なさらし職人の腕も及ばぬほど白くなった。

4:エリヤがモーセと共に 現れて、イ エスと語り合っていた。

5:ペトロが口をはさんで イエスに 言った。「先生、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。仮小屋を三つ建てましょう。一つはあな たのため、一つはモーセのため、もう一つはエリヤのためです。」

6:ペトロは、どう言えば よいのか、 分からなかった。弟子たちは非常に恐れていたのである。

7:すると、雲が現れて彼 らを覆い、 雲の中から声がした。「これはわたしの愛する子。これに聞け。」

8:弟子たちは急いで辺り を見回した が、もはやだれも見えず、ただイエスだけが彼らと一緒におられた。

9:一同が山を下りると き、イエス は、「人の子が死者の中から復活するまでは、今見たことをだれにも話してはいけない」と弟子たちに命じられ た。

10:彼らはこの言葉を心 に留めて、 死者の中から復活するとはどういうことかと論じ合った。

11:そして、イエスに、 「なぜ、律 法学者は、まずエリヤが来るはずだと言っているのでしょうか」と尋ねた。

12:イエスは言われた。 「確かに、 まずエリヤが来て、すべてを元どおりにする。それなら、人の子は苦しみを重ね、辱めを受けると聖書に書い てあるのはなぜか。

13:しかし、言ってお く。エリヤは 来たが、彼について聖書に書いてあるように、人々は好きなようにあしらったのである。」

 

◆汚れた霊に取りつかれた 子をいやす

14:一同がほかの弟子た ちのところ に来てみると、彼らは大勢の群衆に取り囲まれて、律法学者たちと議論していた。

15:群衆は皆、イエスを 見つけて非 常に驚き、駆け寄って来て挨拶した。

16:イエスが、「何を議 論している のか」とお尋ねになると、

17:群衆の中のある者が 答えた。 「先生、息子をおそばに連れて参りました。この子は霊に取りつかれて、ものが言えません。

18:霊がこの子に取りつ くと、所か まわず地面に引き倒すのです。すると、この子は口から泡を出し、歯ぎしりして体をこわばらせてしまいま す。この霊を追い出してくださるようにお弟子たちに申しましたが、できませんでした。」

19:イエスはお答えに なった。「な んと信仰のない時代なのか。いつまでわたしはあなたがたと共にいられようか。いつまで、あなたがたに我慢 しなければならないのか。その子をわたしのところに連れて来なさい。」

20:人々は息子をイエス のところに 連れて来た。霊は、イエスを見ると、すぐにその子を引きつけさせた。その子は地面に倒れ、転び回って泡を 吹いた。

21:イエスは父親に、 「このように なったのは、いつごろからか」とお尋ねになった。父親は言った。「幼い時からです。

22:霊は息子を殺そうと して、もう 何度も火の中や水の中に投げ込みました。おできになるなら、わたしどもを憐れんでお助けください。」

23:イエスは言われた。 「『できれ ば』と言うか。信じる者には何でもできる。」

24:その子の父親はすぐ に叫んだ。 「信じます。信仰のないわたしをお助けください。」

25:イエスは、群衆が走 り寄って来 るのを見ると、汚れた霊をお叱りになった。「ものも言わせず、耳も聞こえさせない霊、わたしの命令だ。こ の子から出て行け。二度とこの子の中に入るな。」

26:すると、霊は叫び声 をあげ、ひ どく引きつけさせて出て行った。その子は死んだようになったので、多くの者が、「死んでしまった」と言っ た。

27:しかし、イエスが手 を取って起 こされると、立ち上がった。

28:イエスが家の中に入 られると、 弟子たちはひそかに、「なぜ、わたしたちはあの霊を追い出せなかったのでしょうか」と尋ねた。

29:イエスは、「この種 のものは、 祈りによらなければ決して追い出すことはできないのだ」と言われた。

 

◆再び自分の死と復活を予 告する

30:一行はそこを去っ て、ガリラヤ を通って行った。しかし、イエスは人に気づかれるのを好まれなかった。

31:それは弟子たちに、 「人の子 は、人々の手に引き渡され、殺される。殺されて三日の後に復活する」と言っておられたからである。

32:弟子たちはこの言葉 が分からな かったが、怖くて尋ねられなかった。

 

◆いちばん偉い者

33:一行はカファルナウ ムに来た。 家に着いてから、イエスは弟子たちに、「途中で何を議論していたのか」とお尋ねになった。

34:彼らは黙っていた。 途中でだれ がいちばん偉いかと議論し合っていたからである。

35:イエスが座り、十二 人を呼び寄 せて言われた。「いちばん先になりたい者は、すべての人の後になり、すべての人に仕える者になりなさ い。」

36:そして、一人の子供 の手を取っ て彼らの真ん中に立たせ、抱き上げ

て言われた。

37:「わたしの名のため にこのよう な子供の一人を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。わたしを受け入れる者は、わたしではなく て、わたしをお遣わしになった方を受け入れるのである。」

 

◆逆らわない者は味方

38:ヨハネがイエスに 言った。「先 生、お名前を使って悪霊を追い出している者を見ましたが、わたしたちに従わないので、やめさせようとしま した。」

39:イエスは言われた。 「やめさせ てはならない。わたしの名を使って奇跡を行い、そのすぐ後で、わたしの悪口は言えまい。

40:わたしたちに逆らわ ない者は、 わたしたちの味方なのである。

41:はっきり言ってお く。キリスト の弟子だという理由で、あなたがたに一杯の水を飲ませてくれる者は、必ずその報いを受ける。」

 

◆罪への誘惑

42:「わたしを信じるこ れらの小さ な者の一人をつまずかせる者は、大きな石臼を首に懸けられて、海に投げ込まれてしまう�がはるかによい。

43:もし片方の手があな たをつまず かせるなら、切り捨ててしまいなさい。両手がそろったまま地獄の消えない火の中に落ちるよりは、片手に なっても命にあずかる方がよい。

44>:地獄では蛆 が尽きるこ とも、火が消えることもない。

  (底本に節が欠けてい る個所の異 本による訳文)

45:もし片方の足があな たをつまず かせるなら、切り捨ててしまいなさい。両足がそろったままで地獄に投げ込まれるよりは、片足になっても命 にあずかる方がよい。

46>:地獄では蛆 が尽きるこ とも、火が消えることもない。

  (底本に節が欠けてい る個所の異 本による訳文)

47:もし片方の目があな たをつまず かせるなら、えぐり出しなさい。両方の目がそろったまま地獄に投げ込まれるよりは、一つの目になっても神 の国に入る方がよい。

48:地獄では蛆が尽きる ことも、火 が消えることもない。

49:人は皆、火で塩味を 付けられ る。

50:塩は良いものであ る。だが、塩 に塩気がなくなれば、あなたがたは何によって塩に味を付けるのか。自分自身の内に塩を持ちなさい。そし て、互いに平和に過ごしなさい。」

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マルコによる福音書 第10章

 

◆離縁について教える

1:イエスはそこを立ち 去って、ユダ ヤ地方とヨルダン川の向こう側に行かれた。群衆がまた集まって来たので、イエスは再びいつものように教え ておられた。

2:ファリサイ派の人々が 近寄って、 「夫が妻を離縁することは、律法に適っているでしょうか」と尋ねた。イエスを試そうとしたのである。

3:イエスは、「モーセは あなたたち に何と命じたか」と問い返された。

4:彼らは、「モーセは、 離縁状を書 いて離縁することを許しました」と言った。

5:イエスは言われた。 「あなたたち の心が頑固なので、このような掟をモーセは書いたのだ。

6:しかし、天地創造の初 めから、神 は人を男と女とにお造りになった。

7:それゆえ、人は父母を 離れてその 妻と結ばれ、

8:二人は一体となる。だ から二人は もはや別々ではなく、一体である。

9:従って、神が結び合わ せてくだ さったものを、人は離してはならない。」

10:家に戻ってから、弟 子たちがま たこのことについて尋ねた。

11:イエスは言われた。 「妻を離縁 して他の女を妻にする者は、妻に対して姦通の罪を犯すことになる。

12:夫を離縁して他の男 を夫にする 者も、姦通の罪を犯すことになる。」

 

◆子供を祝福する

13:イエスに触れていた だくため に、人々が子供たちを連れて来た。弟子たちはこの人々を叱った。

14:しかし、イエスはこ れを見て憤 り、弟子たちに言われた。「子供たちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのよ うな者たちのものである。

15:はっきり言ってお く。子供のよ うに神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない。」

16:そして、子供たちを 抱き上げ、 手を置いて祝福された。

 

◆金持ちの男

17:イエスが旅に出よう とされる と、ある人が走り寄って、ひざまずいて尋ねた。「善い先生、永遠の命を受け継ぐには、何をすればよいでしょ うか。」

18:イエスは言われた。 「なぜ、わ たしを『善い』と言うのか。神おひとりのほかに、善い者はだれもいない。

19:『殺すな、姦淫する な、盗む な、偽証するな、奪い取るな、父母を敬え』という掟をあなたは知っているはずだ。」

20:すると彼は、「先 生、そういう ことはみな、子供の時から守ってきました」と言った。

21:イエスは彼を見つ め、慈しんで 言われた。「あなたに欠けているものが一つある。行って持っている物を売り払い、貧しい人々に施しなさ い。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい。」

22:その人はこの言葉に 気を落と し、悲しみながら立ち去った。たくさんの財産を持っていたからである。

23:イエスは弟子たちを 見回して言 われた。「財産のある者が神の国に入るのは、なんと難しいことか。」

24:弟子たちはこの言葉 を聞いて驚 いた。イエスは更に言葉を続けられた。「子たちよ、神の国に入るのは、なんと難しいことか。

25:金持ちが神の国に入 るよりも、 らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」

26:弟子たちはますます 驚いて、 「それでは、だれが救われるのだろう

か」と互いに言った。

27:イエスは彼らを見つ めて言われ た。「人間にできることではないが、神にはできる。神は何でもできるからだ。」

28:ペトロがイエスに、 「このとお り、わたしたちは何もかも捨ててあなたに従って参りました」と言いだした。

29:イエスは言われた。 「はっきり 言っておく。わたしのためまた福音のために、家、兄弟、姉妹、母、父、子供、畑を捨てた者はだれでも、

30:今この世で、迫害も 受けるが、 家、兄弟、姉妹、母、子供、畑も百倍受け、後の世では永遠の命を受ける。

31:しかし、先にいる多 くの者が後 になり、後にいる多くの者が先になる。」

 

◆イエス、三度自分の死と 復活を予告 する

32:一行がエルサレムへ 上って行く 途中、イエスは先頭に立って進んで行かれた。それを見て、弟子たちは驚き、従う者たちは恐れた。イエスは 再び十二人を呼び寄せて、自分の身に起ころうとしていることを話し始められた。

33:「今、わたしたちは エルサレム へ上って行く。人の子は祭司長たちや律法学者たちに引き渡される。彼らは死刑を宣告して異邦人に引き渡 す。

34:異邦人は人の子を侮 辱し、唾を かけ、鞭打ったうえで殺す。そして、人の子は三日の後に復活する。」

 

◆ヤコブとヨハネの願い

35:ゼベダイの子ヤコブ とヨハネが 進み出て、イエスに言った。「先生、お願いすることをかなえていただきたいのですが。」

36:イエスが、「何をし てほしいの か」と言われると、

37:二人は言った。「栄 光をお受け になるとき、わたしどもの一人をあなたの右に、もう一人を左に座らせてください。」

38:イエスは言われた。 「あなたが たは、自分が何を願っているか、分かっていない。このわたしが飲む杯を飲み、このわたしが受ける洗礼を受 けることができるか。」

39:彼らが、「できま す」と言う と、イエスは言われた。「確かに、あなたがたはわたしが飲む杯を飲み、わたしが受ける洗礼を受けることにな る。

40:しかし、わたしの右 や左にだれ が座るかは、わたしの決めることではない。それは、定められた人々に許されるのだ。」

41:ほかの十人の者はこ れを聞い て、ヤコブとヨハネのことで腹を立て始めた。

42:そこで、イエスは一 同を呼び寄 せて言われた。「あなたがたも知っているように、異邦人の間では、支配者と見なされている人々が民を支配 し、偉い人たちが権力を振るっている。

43:しかし、あなたがた の間では、 そうではない。あなたがたの中で偉くなりたい者は、皆に仕える者になり、

44:いちばん上になりた い者は、す べての人の僕になりなさい。

45:人の子は仕えられる ためではな く仕えるために、また、多くの人の身代金として自分の命を献げるために来たのである。」

 

◆盲人バルティマイをいや す

46:一行はエリコの町に 着いた。イ エスが弟子たちや大勢の群衆と一緒に、エリコを出て行こうとされたとき、ティマイの子で、バルティマイと いう盲人の物乞いが道端に座っていた。

47:ナザレのイエスだと 聞くと、叫 んで、「ダビデの子イエスよ、わたしを憐れんでください」と言い始めた。

48:多くの人々が叱りつ けて黙らせ ようとしたが、彼はますます、「ダビデの子よ、わたしを憐れんでください」と叫び続けた。

49:イエスは立ち止まっ て、「あの 男を呼んで来なさい」と言われた。人々は盲人を呼んで言った。「安心しなさい。立ちなさい。お呼びだ。」

50:盲人は上着を脱ぎ捨 て、躍り上 がってイエスのところに来た。

51:イエスは、「何をし てほしいの か」と言われた。盲人は、「先生、目が見えるようになりたいのです」と言った。

52:そこで、イエスは言 われた。 「行きなさい。あなたの信仰があなたを救った。」盲人は、すぐ見えるようになり、なお道を進まれるイエスに 従った。

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マルコによる福音書 第11章

◆エルサレムに迎えられる

1:一行がエルサレムに近 づいて、オ リーブ山のふもとにあるベトファゲとベタニアにさしかかったとき、イエスは二人の弟子を使いに出そうとし て、

2:言われた。「向こうの 村へ行きな さい。村に入るとすぐ、まだだれも乗ったことのない子ろばのつないであるのが見つかる。それをほどいて、 連れて来なさい。

3:もし、だれかが、『な ぜ、そんな ことをするのか』と言ったら、『主がお入り用なのです。すぐここにお返しになります』と言いなさい。」

4:二人は、出かけて行く と、表通り の戸口に子ろばのつないであるのを見つけたので、それをほどいた。

5:すると、そこに居合わ せたある人 々が、「その子ろばをほどいてどうするのか」と言った。

6:二人が、イエスの言わ れたとおり 話すと、許してくれた。

7:二人が子ろばを連れて イエスのと ころに戻って来て、その上に自分の服をかけると、イエスはそれにお乗りになった。

8:多くの人が自分の服を 道に敷き、 また、ほかの人々は野原から葉の付いた枝を切って来て道に敷いた。

9:そして、前を行く者も 後に従う者 も叫んだ。「ホサナ。主の名によって来られる方に、/祝福があるように。

10:我らの父ダビデの来 るべき国 に、/祝福があるように。いと高きところにホサナ。」

11:こうして、イエスは エルサレム に着いて、神殿の境内に入り、辺りの様子を見て回った後、もはや夕方になったので、十二人を連れてベタニ アへ出て行かれた。

 

◆いちじくの木を呪う

12:翌日、一行がベタニ アを出ると き、イエスは空腹を覚えられた。

13:そこで、葉の茂った いちじくの 木を遠くから見て、実がなってはいないかと近寄られたが、葉のほかは何もなかった。いちじくの季節ではな かったからである。

14:イエスはその木に向 かって、 「今から後いつまでも、お前から実を食べる者がないように」と言われた。弟子たちはこれを聞いていた。

 

◆神殿から商人を追い出す

15:それから、一行はエ ルサレムに 来た。イエスは神殿の境内に入り、そこで売り買いしていた人々を追い出し始め、両替人の台や鳩を売る者の 腰掛けをひっくり返された。

16:また、境内を通って 物を運ぶこ ともお許しにならなかった。

17:そして、人々に教え て言われ た。「こう書いてあるではないか。『わたしの家は、すべての国の人の/祈りの家と呼ばれるべきである。』/ ところが、あなたたちは/それを強盗の巣にしてしまった。」

18:祭司長たちや律法学 者たちはこ れを聞いて、イエスをどのようにして殺そうかと謀った。群衆が皆その教えに打たれていたので、彼らはイエ スを恐れたからである。

19:夕方になると、イエ スは弟子た ちと都の外に出て行かれた。

 

◆枯れたいちじくの木の教 訓

20:翌朝早く、一行は通 りがかり に、あのいちじくの木が根元から枯れているのを見た。

21:そこで、ペトロは思 い出してイ エスに言った。「先生、御覧ください。あなたが呪われたいちじくの木が、枯れています。」

22:そこで、イエスは言 われた。 「神を信じなさい。

23:はっきり言ってお く。だれでも この山に向かい、『立ち上がって、海に飛び込め』と言い、少しも疑わず、自分の言うとおりになると信じる ならば、そのとおりになる。

24:だから、言ってお く。祈り求め るものはすべて既に得られたと信じなさい。そうすれば、そのとおりになる。

25:また、立って祈ると き、だれか に対して何か恨みに思うことがあれば、赦してあげなさい。そうすれば、あなたがたの天の父も、あなたがた の過ちを赦してくださる。」

26>:もし赦さな いなら、あ なたがたの天の父も、あなたがたの過ちをお赦しにならない。

  (底本に節が欠けてい る個所の異 本による訳文)

 

◆権威についての問答

27:一行はまたエルサレ ムに来た。 イエスが神殿の境内を歩いておられると、祭司長、律法学者、長老たちがやって来て、

28:言った。「何の権威 で、このよ うなことをしているのか。だれが、そうする権威を与えたのか。」

29:イエスは言われた。 「では、一 つ尋ねるから、それに答えなさい。そうしたら、何の権威でこのようなことをするのか、あなたたちに言お う。

30:ヨハネの洗礼は天か らのもの だったか、それとも、人からのものだったか。答えなさい。」

31:彼らは論じ合った。 「『天から のものだ』と言えば、『では、なぜヨハネを信じなかったのか』と言うだろう。

32:しかし、『人からの ものだ』と 言えば……。」彼らは群衆が怖かった。皆が、ヨハネは本当に預言者だと思っていたからである。

33:そこで、彼らはイエ スに、「分 からない」と答えた。すると、イエスは言われた。「それなら、何の権威でこのようなことをするのか、わた しも言うまい。」

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マルコによる福音書 第12章

◆「ぶどう園と農夫」のた とえ

1:イエスは、たとえで彼 らに話し始 められた。「ある人がぶどう園を作り、垣を巡らし、搾り場を掘り、見張りのやぐらを立て、これを農夫たち に貸して旅に出た。

2:収穫の時になったの で、ぶどう園 の収穫を受け取るために、僕を農夫たちのところへ送った。

3:だが、農夫たちは、こ の僕を捕ま えて袋だたきにし、何も持たせないで帰した。

4:そこでまた、他の僕を 送ったが、 農夫たちはその頭を殴り、侮辱した。

5:更に、もう一人を送っ たが、今度 は殺した。そのほかに多くの僕を送ったが、ある者は殴られ、ある者は殺された。

6:まだ一人、愛する息子 がいた。 『わたしの息子なら敬ってくれるだろう』と言って、最後に息子を送った。

7:農夫たちは話し合っ た。『これは 跡取りだ。さあ、殺してしまおう。そうすれば、相続財産は我々のものになる。』

8:そして、息子を捕まえ て殺し、ぶ どう園の外にほうり出してしまった。

9:さて、このぶどう園の 主人は、ど うするだろうか。戻って来て農夫たちを殺し、ぶどう園をほかの人たちに与えるにちがいない。

10:聖書にこう書いてあ るのを読ん だことがないのか。『家を建てる者の捨てた石、/これが隅の親石となった。

11:これは、主がなさっ たことで、 /わたしたちの目には不思議に見える。』」

12:彼らは、イエスが自 分たちに当 てつけてこのたとえを話されたと気づいたので、イエスを捕らえようとしたが、群衆を恐れた。それで、イエ スをその場に残して立ち去った。

 

◆皇帝への税金

13:さて、人々は、イエ スの言葉じ りをとらえて陥れようとして、ファリサイ派やヘロデ派の人を数人イエスのところに遣わした。

14:彼らは来て、イエス に言った。 「先生、わたしたちは、あなたが真実な方で、だれをもはばからない方であることを知っています。人々を分 け隔てせず、真理に基づいて神の道を教えておられるからです。ところで、皇帝に税金を納めるのは、律法に適っているでしょうか、適っていないでしょうか。 納めるべきでしょうか、納めてはならないのでしょうか。」

15:イエスは、彼らの下 心を見抜い て言われた。「なぜ、わたしを試そうとするのか。デナリオン銀貨を持って来て見せなさい。」

16:彼らがそれを持って 来ると、イ エスは、「これは、だれの肖像と銘か」と言われた。彼らが、「皇帝のものです」と言うと、

17:イエスは言われた。 「皇帝のも のは皇帝に、神のものは神に返しなさい。」彼らは、イエスの答えに驚き入った。

 

◆復活についての問答

18:復活はないと言って いるサドカ イ派の人々が、イエスのところへ来

て尋ねた。

19:「先生、モーセはわ たしたちの ために書いています。『ある人の兄が死に、妻を後に残して子がない場合、その弟は兄嫁と結婚して、兄の跡 継ぎをもうけねばならない』と。

20:ところで、七人の兄 弟がいまし た。長男が妻を迎えましたが、跡継ぎを残さないで死にました。

21:次男がその女を妻に しました が、跡継ぎを残さないで死に、三男も同様でした。

22:こうして、七人とも 跡継ぎを残 しませんでした。最後にその女も死にました。

23:復活の時、彼らが復 活すると、 その女はだれの妻になるのでしょうか。七人ともその女を妻にしたのです。」

24:イエスは言われた。 「あなたた ちは聖書も神の力も知らないから、そんな思い違いをしているのではないか。

25:死者の中から復活す るときに は、めと�驍アとも嫁ぐこともなく、天使のようになるのだ。

26:死者が復活すること について は、モーセの書の『柴』の個所で、神がモーセにどう言われたか、読んだことがないのか。『わたしはアブラハ ムの神、イサクの神、ヤコブの神である』とあるではないか。

27:神は死んだ者の神で はなく、生 きている者の神なのだ。あなたたちは大変な思い違いをしている。」

 

◆最も重要な掟

28:彼らの議論を聞いて いた一人の 律法学者が進み出、イエスが立派にお答えになったのを見て、尋ねた。「あらゆる掟のうちで、どれが第一で しょうか。」

29:イエスはお答えに なった。「第 一の掟は、これである。『イスラエルよ、聞け、わたしたちの神である主は、唯一の主である。

30:心を尽くし、精神を 尽くし、思 いを尽くし、力を尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』

31:第二の掟は、これで ある。『隣 人を自分のように愛しなさい。』この二つにまさる掟はほかにない。」

32:律法学者はイエスに 言った。 「先生、おっしゃるとおりです。『神は唯一である。ほかに神はない』とおっしゃったのは、本当です。

33:そして、『心を尽く し、知恵を 尽くし、力を尽くして神を愛し、また隣人を自分のように愛する』ということは、どんな焼き尽くす献げ物や いけにえよりも優れています。」

34:イエスは律法学者が 適切な答え をしたのを見て、「あなたは、神の国から遠くない」と言われた。もはや、あえて質問する者はなかった。

 

◆ダビデの子についての問 答

35:イエスは神殿の境内 で教えてい たとき、こう言われた。「どうして律法学者たちは、『メシアはダビデの子だ』と言うのか。

36:ダビデ自身が聖霊を 受けて言っ ている。『主は、わたしの主にお告げになった。「わたしの右の座に着きなさい。わたしがあなたの敵を/あ なたの足もとに屈服させるときまで」と。』

37:このようにダビデ自 身がメシア を主と呼んでいるのに、どうしてメシアがダビデの子なのか。」大勢の群衆は、イエスの教えに喜んで耳を傾 けた。

 

◆律法学者を非難する

38:イエスは教えの中で こう言われ た。「律法学者に気をつけなさい。彼らは、長い衣をまとって歩き回ることや、広場で挨拶されること、

39:会堂では上席、宴会 では上座に 座ることを望み、

40:また、やもめの家を 食い物に し、見せかけの長い祈りをする。このような者たちは、人一倍厳しい裁きを受けることになる。」

 

◆やもめの献金

41:イエスは賽銭箱の向 かいに座っ て、群衆がそれに金を入れる様子を見ておられた。大勢の金持ちがたくさん入れていた。

42:ところが、一人の貧 しいやもめ が来て、レプトン銅貨二枚、すなわち一クァドランスを入れた。

43:イエスは、弟子たち を呼び寄せ て言われた。「はっきり言っておく。この貧しいやもめは、賽銭箱に入れている人の中で、だれよりもたくさ ん入れた。

44:皆は有り余る中から 入れたが、 この人は、乏しい中から自分の持っている物をすべて、生活費を全部入れたからである。」

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マルコによる福音書 第13章

 

◆神殿の崩壊を予告する

1:イエスが神殿の境内を 出て行かれ るとき、弟子の一人が言った。

「先生、御覧ください。な んとすばら しい石、なんとすばらしい建物でしょう。」

2:イエスは言われた。 「これらの大 きな建物を見ているのか。一つの石もここで崩されずに他の石の上に残ることはない。」

 

◆終末の徴

3:イエスがオリーブ山で 神殿の方を 向いて座っておられると、ペトロ、ヤコブ、ヨハネ、アンデレが、ひそかに尋ねた。

4:「おっしゃってくださ い。そのこ とはいつ起こるのですか。また、そのことがすべて実現するときには、どんな徴があるのですか。」

5:イエスは話し始められ た。「人に 惑わされないように気をつけなさい。

6:わたしの名を名乗る者 が大勢現 れ、『わたしがそれだ』と言って、多くの人を惑わすだろう。

7:戦争の騒ぎや戦争のう わさを聞い ても、慌ててはいけない。そういうことは起こるに決まっているが、まだ世の終わりではない。

8:民は民に、国は国に敵 対して立ち 上がり、方々に地震があり、飢饉が起こる。これらは産みの苦しみの始まりである。

9:あなたがたは自分のこ とに気をつ けていなさい。あなたがたは地方法院に引き渡され、会堂で打ちたたかれる。また、わたしのために総督や王 の前に立たされて、証しをすることになる。

10:しかし、まず、福音 があらゆる 民に宣べ伝えられねばならない。

11:引き渡され、連れて 行かれると き、何を言おうかと取り越し苦労をしてはならない。そのときには、教えられることを話せばよい。実は、話 すのはあなたがたではなく、聖霊なのだ。

12:兄弟は兄弟を、父は 子を死に追 いやり、子は親に反抗して殺すだろう。

13:また、わたしの名の ために、あ なたがたはすべての人に憎まれる。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。」

 

◆大きな苦難を予告する

14:「憎むべき破壊者が 立ってはな らない所に立つのを見たら――読者は悟れ――、そのとき、ユダヤにいる人々は山に逃げなさい。

15:屋上にいる者は下に 降りてはな らない。家にある物を何か取り出そうとして中に入ってはならない。

16:畑にいる者は、上着 を取りに 帰ってはならない。

17:それらの日には、身 重の女と乳 飲み子を持つ女は不幸だ。

18:このことが冬に起こ らないよう に、祈りなさい。

19:それらの日には、神 が天地を造 られた創造の初めから今までなく、今後も決してないほどの苦難が来るからである。

20:主がその期間を縮め てくださら なければ、だれ一人救われない。しかし、主は御自分のものとして選んだ人たちのために、その期間を

縮めてくださったのであ る。

21:そのとき、『見よ、 ここにメシ アがいる』『見よ、あそこだ』と言う者がいても、信じてはならない。

22:偽メシアや偽預言者 が現れて、 しるしや不思議な業を行い、できれば、選ばれた人たちを惑わそうとするからである。

23:だから、あなたがた は気をつけ ていなさい。一切の事を前もって言っておく。」

◆人の子が来る

24:「それらの日には、 このような 苦難の後、/太陽は暗くなり、/月は光を放たず、

25:星は空から落ち、/ 天体は揺り 動かされる。

26:そのとき、人の子が 大いなる力 と栄光を帯びて雲に乗って来るのを、人々は見る。

27:そのとき、人の子は 天使たちを 遣わし、地の果てから天の果てまで、彼によって選ばれた人たちを四方から呼び集める。」

 

◆いちじくの木の教え

28:「いちじくの木から 教えを学び なさい。枝が柔らかくなり、葉が伸びると、夏の近づいたことが分かる。

29:それと同じように、 あなたがた は、これらのことが起こるのを見たら、人の子が戸口に近づいていると悟りなさい。

30:はっきり言ってお く。これらの ことがみな起こるまでは、この時代は決して滅びない。

31:天地は滅びるが、わ たしの言葉 は決して滅びない。」

 

◆目を覚ましていなさい

32:「その日、その時 は、だれも知 らない。天使たちも子も知らない。父だけがご存じである。

33:気をつけて、目を覚 ましていな さい。その時がいつなのか、あなたがたには分からないからである。

34:それは、ちょうど、 家を後に旅 に出る人が、僕たちに仕事を割り当てて責任を持たせ、門番には目を覚ましているようにと、言いつけておく ようなものだ。

35:だから、目を覚まし ていなさ い。いつ家の主人が帰って来るのか、夕方か、夜中か、鶏の鳴くころか、明け方か、あなたがたには分からない からである。

36:主人が突然帰って来 て、あなた がたが眠っているのを見つけるかもしれない。

37:あなたがたに言うこ とは、すべ ての人に言うのだ。目を覚ましていなさい。」

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マルコによる福音書 第14章

◆イエスを殺す計略

1:さて、過越祭と除酵祭 の二日前に なった。祭司長たちや律法学者たちは、なんとか計略を用いてイエスを捕らえて殺そうと考えていた。

2:彼らは、「民衆が騒ぎ だすといけ ないから、祭りの間はやめておこう」と言っていた。

 

◆ベタニアで香油を注がれ る

3:イエスがベタニアで重 い皮膚病の 人シモンの家にいて、食事の席に着いておられたとき、一人の女が、純粋で非常に高価なナルドの香油の入っ た石膏の壺を持って来て、それを壊し、香油をイエスの頭に注ぎかけた。

4:そこにいた人の何人か が、憤慨し て互いに言った。「なぜ、こんなに香油を無駄使いしたのか。

5:この香油は三百デナリ オン以上に 売って、貧しい人々に施すことができたのに。」そして、彼女を厳しくとがめた。

6:イエスは言われた。 「するままに させておきなさい。なぜ、この人を困らせるのか。わたしに良いことをしてくれたのだ。

7:貧しい人々はいつもあ なたがたと 一緒にいるから、したいときに良いことをしてやれる。しかし、わたしはいつも一緒にいるわけではない。

8:この人はできるかぎり のことをし た。つまり、前もってわたしの体に香油を注ぎ、埋葬の準備をしてくれた。

9:はっきり言っておく。 世界中どこ でも、福音が宣べ伝えられる所では、この人のしたことも記念として語り伝えられるだろう。」

 

◆ユダ、裏切りを企てる

10:十二人の一人イスカ リオテのユ ダは、イエスを引き渡そうとして、

祭司長たちのところへ出か けて行っ た。

11:彼らはそれを聞いて 喜び、金を 与える約束をした。そこでユダは、どうすれば折よくイエスを引き渡せるかとねらっていた。

 

◆過越の食事をする

12:除酵祭の第一日、す なわち過越 の小羊を屠る日、弟子たちがイエスに、「過越の食事をなさるのに、どこへ行って用意いたしましょうか」と 言った。

13:そこで、イエスは次 のように 言って、二人の弟子を使いに出された。「都へ行きなさい。すると、水がめを運んでいる男に出会う。その人に ついて行きなさい。

14:その人が入って行く 家の主人に はこう言いなさい。『先生が、「弟子たちと一緒に過越の食事をするわたしの部屋はどこか」と言っていま す。』

15:すると、席が整って 用意のでき た二階の広間を見せてくれるから、そこにわたしたちのために準備をしておきなさい。」

16:弟子たちは出かけて 都に行って みると、イエスが言われたとおりだったので、過越の食事を準備した。

17:夕方になると、イエ スは十二人 と一緒にそこへ行かれた。

18:一同が席に着いて食 事をしてい るとき、イエスは言われた。「はっきり言っおくが、あなたがたのうちの一人で、わたしと一緒に食事をして いる者が、わたしを裏切ろうとしている。」

19:弟子たちは心を痛め て、「まさ かわたしのことでは」と代わる代わる言い始めた。

20:イエスは言われた。 「十二人の うちの一人で、わたしと一緒に鉢に食べ物を浸している者がそれだ。

21:人の子は、聖書に書 いてあると おりに、去って行く。だが、人の子を裏切るその者は不幸だ。生まれなかった方が、その者のためによかっ た。」

 

◆主の晩餐

22:一同が食事をしてい るとき、イ エスはパンを取り、賛美の祈りを唱えて、それを裂き、弟子たちに与えて言われた。「取りなさい。これはわ たしの体である。」

23:また、杯を取り、感 謝の祈りを 唱えて、彼らにお渡しになった。彼らは皆その杯から飲んだ。

24:そして、イエスは言 われた。 「これは、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である。

25:はっきり言ってお く。神の国で 新たに飲むその日まで、ぶどうの実から作ったものを飲むことはもう決してあるまい。」

26:一同は賛美の歌をう たってか ら、オリーブ山へ出かけた。

 

◆ペトロの離反を予告する

27:イエスは弟子たちに 言われた。 「あなたがたは皆わたしにつまずく。『わたしは羊飼いを打つ。すると、羊は散ってしまう』/と書いてある からだ。

28:しかし、わたしは復 活した後、 あなたがたより先にガリラヤへ行く。」

29:するとペトロが、 「たとえ、み んながつまずいても、わたしはつまずきません」と言った。

30:イエスは言われた。 「はっきり 言っておくが、あなたは、今日、今夜、鶏が二度鳴く前に、三度わたしのことを知らないと言うだろう。」

31:ペトロは力を込めて 言い張っ た。「たとえ、御一緒に死なねばならなくなっても、あなたのことを知らないなどとは決して申しません。」皆 の者も同じように言った。

 

◆ゲツセマネで祈る

32:一同がゲツセマネと いう所に来 ると、イエスは弟子たちに、「わたしが祈っている間、ここに座っていなさい」と言われた。

33:そして、ペトロ、ヤ コブ、ヨハ ネを伴われたが、イエスはひどく恐れてもだえ始め、

34:彼らに言われた。 「わたしは死 ぬばかりに悲しい。ここを離れず、目を覚ましていなさい。」

35:少し進んで行って地 面にひれ伏 し、できることなら、この苦しみの時が自分から過ぎ去るようにと祈り、

36:こう言われた。 「アッバ、父 よ、あなたは何でもおできになります。この杯をわたしから取りのけてください。しかし、わたしが願うことで はなく、御心に適うことが行われますように。」

37:それから、戻って御 覧になる と、弟子たちは眠っていたので、ペトロに言われた。「シモン、眠っているのか。わずか一時も目を覚ましてい られなかったのか。

38:誘惑に陥らぬよう、 目を覚まし て祈っていなさい。心は燃えても、肉体は弱い。」

39:更に、向こうへ行っ て、同じ言 葉で祈られた。

40:再び戻って御覧にな ると、弟子 たちは眠っていた。ひどく眠かったのである。彼らは、イエスにどう言えばよいのか、分からなかった。

41:イエスは三度目に 戻って来て言 われた。「あなたがたはまだ眠っている。休んでいる。もうこれでいい。時が来た。人の子は罪人たちの手に 引き渡される。

42:立て、行こう。見 よ、わたしを 裏切る者が来た。」

 

◆裏切られ、逮捕される

43:さて、イエスがまだ 話しておら れると、十二人の一人であるユダが進み寄って来た。祭司長、律法学者、長老たちの遣わした群衆も、剣や棒 を持って一緒に来た。

44:イエスを裏切ろうと していたユ ダは、「わたしが接吻するのが、その人だ。捕まえて、逃がさないように連れて行け」と、前もって合図を決 めていた。

45:ユダはやって来ると すぐに、イ エスに近寄り、「先生」と言って接吻した。

46:人々は、イエスに手 をかけて捕 らえた。

47:居合わせた人々のう ちのある者 が、剣を抜いて大祭司の手下に打ってかかり、片方の耳を切り落とした。

48:そこで、イエスは彼 らに言われ た。「まるで強盗にでも向かうように、剣や棒を持って捕らえに来たのか。

49:わたしは毎日、神殿 の境内で一 緒にいて教えていたのに、あなたたちはわたしを捕らえなかった。しかし、これは聖書の言葉が実現するため である。」

50:弟子たちは皆、イエ スを見捨て て逃げてしまった。

 

◆一人の若者、逃げる

51:一人の若者が、素肌 に亜麻布を まとってイエスについて来ていた。人々が捕らえようとすると、

52:亜麻布を捨てて裸で 逃げてし まった。

 

◆最高法院で裁判を受ける

53:人々は、イエスを大 祭司のとこ ろへ連れて行った。祭司長、長老、律法学者たちが皆、集まって来た。

54:ペトロは遠く離れて イエスに従 い、大祭司の屋敷の中庭まで入って、下役たちと一緒に座って、火にあたっていた。

55:祭司長たちと最高法 院の全員 は、死刑にするためイエスにとって不利な証言を求めたが、得られなかった。

56:多くの者がイエスに 不利な偽証 をしたが、その証言は食い違っていたからである。

57:すると、数人の者が 立ち上がっ て、イエスに不利な偽証をした。

58:「この男が、『わた しは人間の 手で造ったこの神殿を打ち倒し、三日あれば、手で造らない別の神殿を建ててみせる』と言うのを、わたした ちは聞きました。」

59:しかし、この場合 も、彼らの証 言は食い違った。

60:そこで、大祭司は立 ち上がり、 真ん中に進み出て、イエスに尋ねた。「何も答えないのか、この者たちがお前に不利な証言をしているが、ど うなのか。」

61:しかし、イエスは黙 り続け何も お答えにならなかった。そこで、重ねて大祭司は尋ね、「お前はほむべき方の子、メシアなのか」と言った。

62:イエスは言われた。 「そうで す。あなたたちは、人の子が全能の神の右に座り、/天の雲に囲まれて来るのを見る。」

63:大祭司は、衣を引き 裂きながら 言った。「これでもまだ証人が必要だろうか。

64:諸君は冒涜の言葉を 聞いた。ど う考えるか。」一同は、死刑にすべきだと決議した。

65:それから、ある者は イエスに唾 を吐きかけ、目隠しをしてこぶしで殴りつけ、「言い当ててみろ」と言い始めた。また、下役たちは、イエス を平手で打った。

 

◆ペトロ、イエスを知らな いと言う

66:ペトロが下の中庭に いたとき、 大祭司に仕える女中の一人が来て、

67:ペトロが火にあたっ ているのを 目にすると、じっと見つめて言った。「あなたも、あのナザレのイエスと一緒にいた。」

68:しかし、ペトロは打 ち消して、 「あなたが何のことを言っているのか、わたしには分からないし、見当もつかない」と言った。そして、出口 の方へ出て行くと、鶏が鳴いた。

69:女中はペトロを見 て、周りの人 々に、「この人は、あの人たちの仲間です」とまた言いだした。

70:ペトロは、再び打ち 消した。し ばらくして、今度は、居合わせた人々がペトに言った。「確かに、お前はあの連中の仲間だ。ガリラヤの者だ から。」

71:すると、ペトロは呪 いの言葉さ え口にしながら、「あなたがたの言っているそんな人は知らない」と誓い始めた。

72:するとすぐ、鶏が再 び鳴いた。 ペトロは、「鶏が二度鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」とイエスが言われた言葉を思 い出して、いきなり泣きだした。

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マルコによる福音書 第15章

 

◆ピラトから尋問される

1:夜が明けるとすぐ、祭 司長たち は、長老や律法学者たちと共に、つまり最高法院全体で相談した後、イエスを縛って引いて行き、ピラトに渡し た。

2:ピラトがイエスに、 「お前がユダ ヤ人の王なのか」と尋問すると、イエスは、「それは、あなたが言っていることです」と答えられた。

3:そこで祭司長たちが、 いろいろと イエスを訴えた。

4:ピラトが再び尋問し た。「何も答 えないのか。彼らがあのようにお前を訴えているのに。」

5:しかし、イエスがもは や何もお答 えにならなかったので、ピラトは不思議に思った。

 

◆死刑の判決を受ける

6:ところで、祭りの度ご とに、ピラ トは人々が願い出る囚人を一人釈放していた。

7:さて、暴動のとき人殺 しをして投 獄されていた暴徒たちの中に、バラバという男がいた。

8:群衆が押しかけて来 て、いつもの ようにしてほしいと要求し始めた。

9:そこで、ピラトは、 「あのユダヤ 人の王を釈放してほしいのか」と言った。

10:祭司長たちがイエス を引き渡し たのは、ねたみのためだと分かっていたからである。

11:祭司長たちは、バラ バの方を釈 放してもらうように群衆を扇動した。

12:そこで、ピラトは改 めて、「そ れでは、ユダヤ人の王とお前たちが言っているあの者は、どうしてほしいのか」と言った。

13:群衆はまた叫んだ。 「十字架に つけろ。」

14:ピラトは言った。 「いったいど んな悪事を働いたというのか。」群衆はますます激しく、「十字架につけろ」と叫び立てた。

15:ピラトは群衆を満足 させようと 思って、バラバを釈放した。そして、イエスを鞭打ってから、十字架につけるために引き渡した。

 

◆兵士から侮辱される

16:兵士たちは、官邸、 すなわち総 督官邸の中に、イエスを引いて行き、部隊の全員を呼び集めた。

17:そして、イエスに紫 の服を着 せ、茨の冠を編んでかぶらせ、

18:「ユダヤ人の王、万 歳」と言っ て敬礼し始めた。

19:また何度も、葦の棒 で頭をたた き、唾を吐きかけ、ひざまずいて拝んだりした。

20:このようにイエスを 侮辱したあ げく、紫の服を脱がせて元の服を着せた。そして、十字架につけるために外へ引き出した。

 

◆十字架につけられる

21:そこへ、アレクサン ドロとル フォスとの父でシモンというキレネ人が、田舎から出て来て通りかかったので、兵士たちはイエスの十字架を無 理に担がせた。

22:そして、イエスをゴ ルゴタとい う所――その意味は「されこうべの場所」――に連れて行った。

23:没薬を混ぜたぶどう 酒を飲ませ ようとしたが、イエスはお受けにならなかった。

24:それから、兵士たち はイエスを 十字架につけて、/その服を分け合った、/だれが何を取るかをくじ引きで決めてから。

25:イエスを十字架につ けたのは、 午前九時であった。

26:罪状書きには、「ユ ダヤ人の 王」と書いてあった。

27:また、イエスと一緒 に二人の強 盗を、一人は右にもう一人は左に、十字架につけた。

28>:こうして、 「その人は 犯罪人の一人に数えられた」という聖書の言葉が実現した。

  (底本に節が欠けてい る個所の異 本による訳文)

29:そこを通りかかった 人々は、頭 を振りながらイエスをののしって言った。「おやおや、神殿を打ち倒し、三日で建てる者、

30:十字架から降りて自 分を救って みろ。」

31:同じように、祭司長 たちも律法 学者たちと一緒になって、代わる代わるイエスを侮辱して言った。「他人は救ったのに、自分は救えない。

32:メシア、イスラエル の王、今す ぐ十字架から降りるがいい。それを見たら、信じてやろう。」一緒に十字架につけられた者たちも、イエスを ののしった。

 

◆イエスの死

33:昼の十二時になる と、全地は暗 くなり、それが三時まで続いた。

34:三時にイエスは大声 で叫ばれ た。「エロイ、エロイ、レマ、サバクタニ。」これは、「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったので すか」という意味である。

35:そばに居合わせた人 々のうちに は、これを聞いて、「そら、エリヤを呼んでいる」と言う者がいた。

36:ある者が走り寄り、 海綿に酸い ぶどう酒を含ませて葦の棒に付け、「待て、エリヤが彼を降ろしに来るかどうか、見ていよう」と言いなが ら、イエスに飲ませようとした。

37:しかし、イエスは大 声を出して 息を引き取られた。

38:すると、神殿の垂れ 幕が上から 下まで真っ二つに裂けた。

39:百人隊長がイエスの 方を向い て、そばに立っていた。そして、イエスがこのように息を引き取られたのを見て、「本当に、この人は神の子 だった」と言った。

40:また、婦人たちも遠 くから見 守っていた。その中には、マグダラのマリア、小ヤコブとヨセの母マリア、そしてサロメがいた。

41:この婦人たちは、イ エスがガリ ラヤにおられたとき、イエスに従って来て世話をしていた人々である。なおそのほかにも、イエスと共にエル サレムへ上って来た婦人たちが大勢いた。

 

◆墓に葬られる

42:既に夕方になった。 その日は準 備の日、すなわち安息日の前日であったので、

43:アリマタヤ出身で身 分の高い議 員ヨセフが来て、勇気を出してピラトのところへ行き、イエスの遺体を渡してくれるようにと願い出た。この 人も神の国を待ち望んでいたのである。

44:ピラトは、イエスが もう死んで しまったのかと不思議に思い、百人隊長を呼び寄せて、既に死んだかどうかを尋ねた。

45:そして、百人隊長に 確かめたう え、遺体をヨセフに下げ渡した。

46:ヨセフは亜麻布を買 い、イエス を十字架から降ろしてその布で巻き、岩を掘って作った墓の中に納め、墓の入り口には石を転がしておいた。

47:マグダラのマリアと ヨセの母マ リアとは、イエスの遺体を納めた場所を見つめていた。

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マルコによる福音書 第16章

◆復活する

1:安息日が終わると、マ グダラのマ リア、ヤコブの母マリア、サロメは、イエスに油を塗りに行くために香料を買った。

2:そして、週の初めの日 の朝ごく早 く、日が出るとすぐ墓に行った。

3:彼女たちは、「だれが 墓の入り口 からあの石を転がしてくれるでしょうか」と話し合っていた。

4:ところが、目を上げて 見ると、石 は既にわきへ転がしてあった。石は非常に大きかったのである。

5:墓の中に入ると、白い 長い衣を着 た若者が右手に座っているのが見えたので、婦人たちはひどく驚いた。

6:若者は言った。「驚く ことはな い。あなたがたは十字架につけられたナザレのイエスを捜しているが、あの方は復活なさって、ここにはおられ ない。御覧なさい。お納めした場所である。

7:さあ、行って、弟子た ちとペトロ に告げなさい。『あの方は、あなたがたより先にガリラヤへ行かれる。かねて言われたとおり、そこでお目に かかれる』と。」

8:婦人たちは墓を出て逃 げ去った。 震え上がり、正気を失っていた。そして、だれにも何も言わなかった。恐ろしかったからである。

 

■結び 一

◆マグダラのマリアに現れ る

9:〔イエスは週の初めの 日の朝早 く、復活して、まずマグダラのマリアに御自身を現された。このマリアは、以前イエスに七つの悪霊を追い出し ていただいた婦人である。

10:マリアは、イエスと 一緒にいた 人々が泣き悲しんでいるところへ行って、このことを知らせた。

11:しかし彼らは、イエ スが生きて おられること、そしてマリアがそのイエスを見たことを聞いても、信じなかった。

 

◆二人の弟子に現れる

12:その後、彼らのうち の二人が田 舎の方へ歩いて行く途中、イエスが別の姿で御自身を現された。

13:この二人も行って残 りの人たち に知らせたが、彼らは二人の言うことも信じなかった。

 

◆弟子たちを派遣する

14:その後、十一人が食 事をしてい るとき、イエスが現れ、その不信仰とかたくなな心をおとがめになった。復活されたイエスを見た人々の言う ことを、信じなかったからである。

15:それから、イエスは 言われた。 「全世界に行って、すべての造られたものに福音を宣べ伝えなさい。

16:信じて洗礼を受ける 者は救われ るが、信じない者は滅びの宣告を受ける。

17:信じる者には次のよ うなしるし が伴う。彼らはわたしの名によって悪霊を追い出し、新しい言葉を語る。

18:手で蛇をつかみ、ま た、毒を飲 んでも決して害を受けず、病人に手を置けば治る。」

 

◆天に上げられる

19:主イエスは、弟子た ちに話した 後、天に上げられ、神の右の座に着かれた。

20:一方、弟子たちは出 かけて行っ て、至るところで宣教した。主は彼らと共に働き、彼らの語る言葉が真実であることを、それに伴うしるしに よってはっきりとお示しになった。〕

 

■結び 二

:〔婦人たちは、命じられ たことをす べてペトロとその仲間たちに手 短に伝えた。その後、イエス御自身も、東から西まで、彼らを通して、永遠の救いに関する聖なる朽ちることのない福音を広められた。 アーメン。〕

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使徒言行録  第1章

 

◆はしがき

1‐2:テオフィロさま、 わたしは先 に第一巻を著して、イエスが行い、また教え始めてから、お選びになった使徒たちに聖霊を通して指図 を与え、天に上げられた日までのすべてのことについて書き記しました。

 

◆約束の聖霊

3:イエスは苦難を受けた 後、御自分 が生きていることを、数多くの証 拠をもって使徒たちに示し、四十日にわたって彼らに現れ、神の国について話された。

4:そして、彼らと食事を 共にしてい たとき、こう命じられた。「エルサレムを離れず、前にわたしから聞いた、父の約束されたものを待ちなさ い。

5:ヨハネは水で洗礼を授 けたが、あ なたがたは間もなく聖霊による洗礼を授けられるからである。」

 

◆イエス、天に上げられる

6:さて、使徒たちは集 まって、「主 よ、イスラエルのために国を建て直してくださるのは、この時ですか」と尋ねた。

7:イエスは言われた。 「父が御自分 の権威をもってお定めになった時や時期は、あなたがたの知るところではない。

8:あなたがたの上に聖霊 が降ると、 あなたがたは力を受ける。そして、エルサレムばかりでなく、ユダヤとサマリアの全土で、また、地の果てに 至るまで、わたしの証人となる。」

9:こう話し終わると、イ エスは彼ら が見ているうちに天に上げられたが、雲に覆われて彼らの目から見えなくなった。

10:イエスが離れ去って 行かれると き、彼らは天を見つめていた。すると、白い服を着た二人の人がそばに立って、

11:言った。「ガリラヤ の人たち、 なぜ天を見上げて立っているのか。あなたがたから離れて天に上げられたイエスは、天に行かれるのをあなた がたが見たのと同じ有様で、またおいでになる。」

 

◆マティアの選出

12:使徒たちは、「オ リーブ畑」と 呼ばれる山からエルサレムに戻って来た。この山はエルサレムに近く、安息日にも歩くことが許される距離の 所にある。

13:彼らは都に入ると、 泊まってい た家の上の部屋に上がった。それは、ペトロ、ヨハネ、ヤコブ、アンデレ、フィリポ、トマス、バルトロマ イ、マタイ、アルファイの子ヤコブ、熱心党のシモン、ヤコブの子ユダであった。

14:彼らは皆、婦人たち やイエスの 母マリア、またイエスの兄弟たちと心を合わせて熱心に祈っていた。

15:そのころ、ペトロは 兄弟たちの 中に立って言った。百二十人ほどの人々が一つになっていた。

16:「兄弟たち、イエス を捕らえた 者たちの手引きをしたあのユダについては、聖霊がダビデの口を通して預言しています。この聖書の言葉は、 実現しなければならなかったのです。

17:ユダはわたしたちの 仲間の一人 であり、同じ任務を割り当てられていました。

18:ところで、このユダ は不正を働 いて得た報酬で土地を買ったのですが、その地面にまっさかさまに落ちて、体が真ん中から裂け、はらわたが みな出てしまいました。

19:このことはエルサレ ムに住むす べての人に知れ渡り、その土地は彼らの言葉で『アケルダマ』、つまり、『血の土地』と呼ばれるようになり ました。

20:詩編にはこう書いて あります。 『その住まいは荒れ果てよ、/そこに住む者はいなくなれ。』/また、/『その務めは、ほかの人が引き受け るがよい。』

21‐22:そこで、主イ エスがわた したちと共に生活されていた間、つまり、ヨハネの洗礼のときから始まって、わたしたちを離れて天に上げら れた日まで、いつも一緒にいた者の中からだれか一人が、わたしたちに加わって、主の復活の証人になるべきです。」

23:そこで人々は、バル サバと呼ば れ、ユストともいうヨセフと、マティアの二人を立てて、

24:次のように祈った。 「すべての 人の心をご存じである主よ、この二人のうちのどちらをお選びになったかを、お示しください。

25:ユダが自分の行くべ き所に行く ために離れてしまった、使徒としてのこの任務を継がせるためです。」

26:二人のことでくじを 引くと、マ ティアに当たったので、この人が十一人の使徒の仲間に加えられることになった。

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使徒言行録  第2章

 

◆聖霊が降る

1:五旬祭の日が来て、一 同が一つに なって集まっていると、

2:突然、激しい風が吹い て来るよう な音が天から聞こえ、彼らが座っ ていた家中に響いた。

3:そして、炎のような舌 が分かれ分 かれに現れ、一人一人の上にとどまった。

4:すると、一同は聖霊に 満たされ、 “霊”が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話しだした。

5:さて、エルサレムには 天下のあら ゆる国から帰って来た、信心深いユダヤ人が住んでいたが、

6:この物音に大勢の人が 集まって来 た。そして、だれもかれも、自分の故郷の言葉が話されているのを聞いて、あっけにとられてしまった。

7:人々は驚き怪しんで 言った。「話 をしているこの人たちは、皆ガリラヤの人ではないか。

8:どうしてわたしたち は、めいめい が生まれた故郷の言葉を聞くのだろうか。

9:わたしたちの中には、 パルティ ア、メディア、エラムからの者がおり、また、メソポタミア、ユダヤ、カパドキア、ポントス、アジア、

10:フリギア、パンフィ リア、エジ プト、キレネに接するリビア地方などに住む者もいる。また、ローマから来て滞在中の者、

11:ユダヤ人もいれば、 ユダヤ教へ の改宗者もおり、クレタ、アラビアから来た者もいるのに、彼らがわたしたちの言葉で神の偉大な業を語って いるのを聞こうとは。」

12:人々は皆驚き、とま どい、 「いったい、これはどういうことなのか」と互いに言った。

13:しかし、「あの人た ちは、新し いぶどう酒に酔っているのだ」と言って、あざける者もいた。

 

◆ペトロの説教

14:すると、ペトロは十 一人と共に 立って、声を張り上げ、話し始めた。「ユダヤの方々、またエルサレムに住むすべての人たち、知っていただ きたいことがあります。わたしの言葉に耳を�Xけてください。

15:今は朝の九時ですか ら、この人 たちは、あなたがたが考えているように、酒に酔っているのではありません。

16:そうではなく、これ こそ預言者 ヨエルを通して言われていたことなのです。

17:『神は言われる。終 わりの時 に、/わたしの霊をすべての人に注ぐ。すると、あなたたちの息子と娘は預言し、/若者は幻を見、老人は夢を 見る。

18:わたしの僕やはした めにも、/ そのときには、わたしの霊を注ぐ。すると、彼らは預言する。

19:上では、天に不思議 な業を、/ 下では、地に徴を示そう。血と火と立ちこめる煙が、それだ。

20:主の偉大な輝かしい 日が来る前 に、/太陽は暗くなり、/月は血のように赤くなる。

21:主の名を呼び求める 者は皆、救 われる。』

22:イスラエルの人た ち、これから 話すことを聞いてください。ナザレの人イエスこそ、神から遣わされた方です。神は、イエスを通してあなた がたの間で行われた奇跡と、不思議な業と、しるしとによって、そのことをあなたがたに証明なさいました。あなたがた自身が 既に知っているとおりです。

23:このイエスを神は、 お定めに なった計画により、あらかじめご存じのうえで、あなたがたに引き渡されたのですが、あなたがたは律法を知ら ない者たちの手を借りて、十字架につけて殺してしまったのです。

24:しかし、神はこのイ エスを死の 苦しみから解放して、復活させられました。イエスが死に支配されたままでおられるなどということは、あり えなかったからです。

25:ダビデは、イエスに ついてこう 言っています。『わたしは、いつも目の前に主を見ていた。主がわたしの右におられるので、/わたしは決し て動揺しない。

26:だから、わたしの心 は楽しみ、 /舌は喜びたたえる。体も希望のうちに生きるであろう。

27:あなたは、わたしの 魂を陰府に 捨てておかず、/あなたの聖なる者を/朽ち果てるままにしておかれない。

28:あなたは、命に至る 道をわたし に示し、/御前にいるわたしを喜びで満たしてくださる。』

29:兄弟たち、先祖ダビ デについて は、彼は死んで葬られ、その墓は今でもわたしたちのところにあると、はっきり言えます。

30:ダビデは預言者だっ たので、彼 から生まれる子孫の一人をその王座に着かせると、神がはっきり誓ってくださったことを知っていました。

31:そして、キリストの 復活につい て前もって知り、/『彼は陰府に捨てておかれず、/その体は朽ち果てることがない』/と語りました。

32:神はこのイエスを復 活させられ たのです。わたしたちは皆、そのことの証人です。

33:それで、イエスは神 の右に上げ られ、約束された聖霊を御父から受けて注いでくださいました。あなたがたは、今このことを見聞きしている のです。

34:ダビデは天に昇りま せんでした が、彼自身こう言っています。『主は、わたしの主にお告げになった。「わたしの右の座に着け。

35:わたしがあなたの敵 を/あなた の足台とするときまで。」』

36:だから、イスラエル の全家は、 はっきり知らなくてはなりません。あなたがたが十字架につけて殺したイエスを、神は主とし、またメシアと なさったのです。」

37:人々はこれを聞いて 大いに心を 打たれ、ペトロとほかの使徒たちに、「兄弟たち、わたしたちはどうしたらよいのですか」と言った。

38:すると、ペトロは彼 らに言っ た。「悔い改めなさい。めいめい、イエス・キリストの名によって洗礼を受け、罪を赦していただきなさい。そ うすれば、賜物として聖霊を受けます。

39:この約束は、あなた がたにも、 あなたがたの子供にも、遠くにいるすべての人にも、つまり、わたしたちの神である主が招いてくださる者な らだれにでも、与えられているものなのです。」

40:ペトロは、このほか にもいろい ろ話をして、力強く証しをし、「邪悪なこの時代から救われなさい」と勧めていた。

41:ペトロの言葉を受け 入れた人々 は洗礼を受け、その日に三千人ほどが仲間に加わった。

42:彼らは、使徒の教 え、相互の交 わり、パンを裂くこと、祈ることに熱心であった。

 

◆信者の生活

43:すべての人に恐れが 生じた。使 徒たちによって多くの不思議な業としるしが行われていたのである。

44:信者たちは皆一つに なって、す べての物を共有にし、

45:財産や持ち物を売 り、おのおの の必要に応じて、皆がそれを分け合った。

46:そして、毎日ひたす ら心を一つ にして神殿に参り、家ごとに集まってパンを裂き、喜びと真心をもって一緒に食事をし、

47:神を賛美していたの で、民衆全 体から好意を寄せられた。こうして、主は救われる人々を日々仲間に加え一つにされたのである。

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使徒言行録 第3章

◆ペトロ、足の不自由な男 をいやす

1:ペトロとヨハネが、午 後三時の祈 りの時に神殿に上って行った。

2:すると、生まれながら 足の不自由 な男が運ばれて来た。神殿の境内に入る人に施しを乞うため、毎日「美しい門」という神殿の門のそばに置い てもらっていたのである。

3:彼はペトロとヨハネが 境内に入ろ うとするのを見て、施しを乞うた。

4:ペトロはヨハネと一緒 に彼をじっ と見て、「わたしたちを見なさい」と言った。

5:その男が、何かもらえ ると思って 二人を見つめていると、

6:ペトロは言った。「わ たしには金 や銀はないが、持っているものをあげよう。ナザレの人イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩きなさ い。」

7:そして、右手を取って 彼を立ち上 がらせた。すると、たちまち、その男は足やくるぶしがしっかりして、

8:躍り上がって立ち、歩 きだした。 そして、歩き回ったり躍ったりして神を賛美し、二人と一緒に境内に入って行った。

9:民衆は皆、彼が歩き回 り、神を賛 美しているのを見た。

10:彼らは、それが神殿 の「美しい 門」のそばに座って施しを乞うていた者だと気づき、その身に起こったことに我を忘れるほど驚いた。

 

◆ペトロ、神殿で説教する

11:さて、その男がペト ロとヨハネ に付きまとっていると、民衆は皆非常に驚いて、「ソロモンの回廊」と呼ばれる所にいる彼らの方へ、一斉に 集まって来た。

12:これを見たペトロ は、民衆に 言った。「イスラエルの人たち、なぜこのことに驚くのですか。また、わたしたちがまるで自分の力や信心に よって、この人を歩かせたかのように、なぜ、わたしたちを見つめるのですか。

13:アブラハムの神、イ サクの神、 ヤコブの神、わたしたちの先祖の神は、その僕イエスに栄光をお与えになりました。ところが、あなたがたは このイエスを引き渡し、ピラトが釈放しようと決めていたのに、その面前でこの方を拒みました。

14:聖なる正しい方を拒 んで、人殺 しの男を赦すように要求したのです。

15:あなたがたは、命へ の導き手で ある方を殺してしまいましたが、神はこの方を死者の中から復活させてくださいました。わたしたちは、この ことの証人です。

16:あなたがたの見て 知っているこ の人を、イエスの名が強くしました。それは、その名を信じる信仰によるものです。イエスによる信仰が、あ なたがた一同の前でこの人を完全にいやしたのです。

17:ところで、兄弟た ち、あなたが たがあんなことをしてしまったのは、指導者たちと同様に無知のためであったと、わたしには分かっていま す。

18:しかし、神はすべて の預言者の 口を通して予告しておられたメシアの苦しみを、この/ようにして実現なさったのです。

19:だから、自分の罪が 消し去られ るように、悔い改めて立ち帰りなさい。

20:こうして、主のもと から慰めの 時が訪れ、主はあなたがたのために前もって決めておられた、メシアであるイエスを遣わしてくださるので す。

21:このイエスは、神が 聖なる預言 者たちの口を通して昔から語られた、万物が新しくなるその時まで、必ず天にとどまることになっています。

22:モーセは言いまし た。『あなた がたの神である主は、あなたがたの同胞の中から、わたしのような預言者をあなたがたのために立てられる。 彼が語りかけることには、何でも聞き従え。

23:この預言者に耳を傾 けない者は 皆、民の中から滅ぼし絶やされる。』

24:預言者は皆、サムエ ルをはじめ その後に預言した者も、今の時について告げています。

25:あなたがたは預言者 の子孫であ り、神があなたがたの先祖と結ばれた契約の子です。『地上のすべての民族は、あなたから生まれる者によっ て祝福を受ける』と、神はアブラハムに言われました。

26:それで、神は御自分 の僕を立 て、まず、あなたがたのもとに遣わしてくださったのです。それは、あなたがた一人一人を悪から離れさせ、そ の祝福にあずからせるためでした。」

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使徒言行録  第4章

 

◆ペトロとヨハネ、議会で 取り調べを 受ける

1:ペトロとヨハネが民衆 に話をして いると、祭司たち、神殿守衛長、サドカイ派の人々が近づいて来た。

2:二人が民衆に教え、イ エスに起 こった死者の中からの復活を宣べ伝えているので、彼らはいらだち、

3:二人を捕らえて翌日ま で牢に入れ た。既に日暮れだったからである。

4:しかし、二人の語った 言葉を聞い て信じた人は多く、男の数が五千人ほどになった。

5:次の日、議員、長老、 律法学者た ちがエルサレムに集まった。

6:大祭司アンナスとカイ アファとヨ ハネとアレクサンドロと大祭司一族が集まった。

7:そして、使徒たちを真 ん中に立た せて、「お前たちは何の権威によって、だれの名によってああいうことをしたのか」と尋問した。

8:そのとき、ペトロは聖 霊に満たさ れて言った。「民の議員、また長老の方々、

9:今日わたしたちが取り 調べを受け ているのは、病人に対する善い行いと、その人が何によっていやされたかということについてであるならば、

10:あなたがたもイスラ エルの民全 体も知っていただきたい。この人が良くなって、皆さんの前に立っているのは、あなたがたが十字架につけて 殺し、神が死者の中から復活させられたあのナザレの人、イエス・キリストの名によるものです。

11:この方こそ、/『あ なたがた家 を建てる者に捨てられたが、/隅の親石となった石』/です。

12:ほかのだれによって も、救いは 得られません。わたしたちが救われるべき名は、天下にこの名のほか、人間には与えられていないのです。」

13:議員や他の者たち は、ペトロと ヨハネの大胆な態度を見、しかも二人が無学な普通の人であることを知って驚き、また、イエスと一緒にいた 者であるということも分かった。

14:しかし、足をいやし ていただい た人がそばに立っているのを見ては、ひと言も言い返せなかった。

15:そこで、二人に議場 を去るよう に命じてから、相談して、

16:言った。「あの者た ちをどうし たらよいだろう。彼らが行った目覚ましいしるしは、エルサレムに住むすべての人に知れ渡っており、それを 否定することはできない。

17:しかし、このことが これ以上民 衆の間に広まらないように、今後あの名によってだれにも話すなと脅しておこう。」

18:そして、二人を呼び 戻し、決し てイエスの名によって話したり、教えたりしないようにと命令した。

19:しかし、ペトロとヨ ハネは答え た。「神に従わないであなたがたに従うことが、神の前に正しいかどうか、考えてください。

20:わたしたちは、見た ことや聞い たことを話さないではいられないのです。」

21:議員や他の者たち は、二人を更 に脅してから釈放した。皆の者がこの出来事について神を賛美していたので、民衆を恐れて、どう処罰してよ いか分からなかったからである。

22:このしるしによって いやしてい ただいた人は、四十歳を過ぎていた。

 

◆信者たちの祈り

23:さて二人は、釈放さ れると仲間 のところへ行き、祭司長たちや長老たちの言ったことを残らず話した。

24:これを聞いた人たち は心を一つ にし、神に向かって声をあげて言った。「主よ、あなたは天と地と海と、そして、そこにあるすべてのものを 造られた方です。

25:あなたの僕であり、 また、わた したちの父であるダビデの口を通し、あなたは聖霊によってこうお告げになりました。『なぜ、異邦人は騒ぎ 立ち、/諸国の民はむなしいことを企てるのか。

26:地上の王たちはこ ぞって立ち上 がり、/指導者たちは団結して、/主とそのメシアに逆らう。』

27:事実、この都でヘロ デとポン ティオ・ピラトは、異邦人やイスラエルの民と一緒になって、あなたが油を注がれた聖なる僕イエスに逆らいま した。

28:そして、実現するよ うにと御手 と御心によってあらかじめ定められていたことを、すべて行ったのです。

29:主よ、今こそ彼らの 脅しに目を 留め、あなたの僕たちが、思い切って大胆に御言葉を語ることができるようにしてください。

30:どうか、御手を伸ば し聖なる僕 イエスの名によって、病気がいやされ、しるしと不思議な業が行われるようにしてください。」

31:祈りが終わると、一 同の集まっ ていた場所が揺れ動き、皆、聖霊に満たされて、大胆に神の言葉を語りだした。

 

◆持ち物を共有する

32:信じた人々の群れは 心も思いも 一つにし、一人として持ち物を自分のものだと言う者はなく、すべてを共有していた。

33:使徒たちは、大いな る力をもっ て主イエスの復活を証しし、皆、人々から非常に好意を持たれていた。

34:信者の中には、一人 も貧しい人 がいなかった。土地や家を持っている人が皆、それを売っては代金を持ち寄り、

35:使徒たちの足もとに 置き、その 金は必要に応じて、おのおのに分配されたからである。

36:たとえば、レビ族の 人で、使徒 たちからバルナバ――「慰めの子」という意味――と呼ばれていた、キプロス島生まれのヨセフも、

37:持っていた畑を売 り、その代金 を持って来て使徒たちの足もとに置いた。

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使徒言行録 第5章

◆アナニアとサフィラ

1:ところが、アナニアと いう男は、 妻のサフィラと相談して土地を売り、

2:妻も承知のうえで、代 金をごまか し、その一部を持って来て使徒たちの足もとに置いた。

3:すると、ペトロは言っ た。「アナ ニア、なぜ、あなたはサタンに心を奪われ、聖霊を欺いて、土地の代金をごまかしたのか。

4:売らないでおけば、あ なたのもの だったし、また、売っても、その代金は自分の思いどおりになったのではないか。どうして、こんなことをす る気になったのか。あなたは人間を欺いたのではなく、神を欺いたのだ。」

5:この言葉を聞くと、ア ナニアは倒 れて息が絶えた。そのことを耳にした人々は皆、非常に恐れた。

6:若者たちが立ち上がっ て死体を包 み、運び出して葬った。

7:それから三時間ほど たって、アナ ニアの妻がこの出来事を知らずに入って来た。

8:ペトロは彼女に話しか けた。「あ なたたちは、あの土地をこれこれの値段で売ったのか。言いなさい。」彼女は、「はい、その値段です」と 言った。

9:ペトロは言った。「二 人で示し合 わせて、主の霊を試すとは、何としたことか。見なさい。あなたの夫を葬りに行った人たちが、もう入り口ま で来ている。今度はあなたを担ぎ出すだろう。」

10:すると、彼女はたち まちペトロ の足もとに倒れ、息が絶えた。青年たちは入って来て、彼女の死んでいるのを見ると、運び出し、夫のそばに 葬った。

11:教会全体とこれを聞 いた人は 皆、非常に恐れた。

 

◆使徒たち、多くの奇跡を 行う

12:使徒たちの手によっ て、多くの しるしと不思議な業とが民衆の間で行われた。一同は心を一つにしてソロモンの回廊に集まっていたが、

13:ほかの者はだれ一 人、あえて仲 間に加わろうとはしなかった。しかし、民衆は彼らを称賛していた。

14:そして、多くの男女 が主を信 じ、その数はますます増えていった。

15:人々は病人を大通り に運び出 し、担架や床に寝かせた。ペトロが通りかかるとき、せめてその影だけでも病人のだれかにかかるようにした。

16:また、エルサレム付 近の町から も、群衆が病人や汚れた霊に悩まされている人々を連れて集まって来たが、一人残らずいやしてもらった。

 

◆使徒たちに対する迫害

17:そこで、大祭司とそ の仲間のサ ドカイ派の人々は皆立ち上がり、ねたみに燃えて、

18:使徒たちを捕らえて 公の牢に入 れた。

19:ところが、夜中に主 の天使が牢 の戸を開け、彼らを外に連れ出し、

20:「行って神殿の境内 に立ち、こ の命の言葉を残らず民衆に告げなさい」と言った。

21:これを聞いた使徒た ちは、夜明 けごろ境内に入って教え始めた。一方、大祭司とその仲間が集まり、最高法院、すなわちイスラエルの子らの 長老会全体を召集し、使徒たちを引き出すために、人を牢に差し向けた。

22:下役たちが行ってみ ると、使徒 たちは牢にいなかった。彼らは戻って来て報告した。

23:「牢にはしっかり鍵 がかかって いたうえに、戸の前には番兵が立っていました。ところが、開けてみると、中にはだれもいませんでした。」

24:この報告を聞いた神 殿守衛長と 祭司長たちは、どうなることかと、使徒たちのことで思い惑った。

25:そのとき、人が来 て、「御覧く ださい。あなたがたが牢に入れた者たちが、境内にいて民衆に教えています」と告げた。

26:そこで、守衛長は下 役を率いて 出て行き、使徒たちを引き立てて来た。しかし、民衆に石を投げつけられるのを恐れて、手荒なことはしな かった。

27:彼らが使徒たちを引 いて来て最 高法院の中に立たせると、大祭司が尋問した。

28:「あの名によって教 えてはなら ないと、厳しく命じておいたではないか。それなのに、お前たちはエルサレム中に自分の教えを広め、あの男 の血を流した責任を我々に負わせようとしている。」

29:ペトロとほかの使徒 たちは答え た。「人間に従うよりも、神に従わなくてはなりません。

30:わたしたちの先祖の 神は、あな たがたが木につけて殺したイエスを復活させられました。

31:神はイスラエルを悔 い改めさ せ、その罪を赦すために、この方を導き手とし、救い主として、御自分の右に上げられました。

32:わたしたちはこの事 実の証人で あり、また、神が御自分に従う人々にお与えになった聖霊も、このことを証ししておられます。」

33:これを聞いた者たち は激しく怒 り、使徒たちを殺そうと考えた。

34:ところが、民衆全体 から尊敬さ れている律法の教師で、ファリサイ派に属するガマリエルという人が、議場に立って、使徒たちをしばらく外 に出すように命じ、

35:それから、議員たち にこう言っ た。「イスラエルの人たち、あの者たちの取り扱いは慎重にしなさい。

36:以前にもテウダが、 自分を何か 偉い者のように言って立ち上がり、その数四百人くらいの男が彼に従ったことがあった。彼は殺され、従って いた者は皆散らされて、跡形もなくなった。

37:その後、住民登録の 時、ガリラ ヤのユダが立ち上がり、民衆を率いて反乱を起こしたが、彼も滅び、つき従った者も皆、ちりぢりにさせられ た。

38:そこで今、申し上げ たい。あの 者たちから手を引きなさい。ほうっておくがよい。あの計画や行動が人間から出たものなら、自滅するだろう し、

39:神から出たものであ れば、彼ら を滅ぼすことはできない。もしかしたら、諸君は神に逆らう者となるかもしれないのだ。」一同はこの意見に 従い、

40:使徒たちを呼び入れ て鞭で打 ち、イエスの名によって話してはならないと命じたうえ、釈放した。

41:それで使徒たちは、 イエスの名 のために辱めを受けるほどの者にされたことを喜び、最高法院から出て行き、

42:毎日、神殿の境内や 家々で絶え ず教え、メシア・イエスについて福音を告げ知らせていた。

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使徒言行録 第6章

 

◆ステファノたち七人の選 出

1:そのころ、弟子の数が 増えてき て、ギリシア語を話すユダヤ人から、ヘブライ語を話すユダヤ人に対して苦情が出た。それは、日々の分配のことで、仲間のやもめたちが軽んじられていたから である。

2:そこで、十二人は弟子 をすべて呼 び集めて言った。「わたしたちが、神の言葉をないがしろにして、食事の世話をするのは好ましくない。

3:それで、兄弟たち、あ なたがたの 中から、“霊”と知恵に満ちた評判の良い人を七人選びなさい。彼らにその仕事を任せよう。

4:わたしたちは、祈りと 御言葉の奉 仕に専念することにします。」

5:一同はこの提案に賛成 し、信仰と 聖霊に満ちている人ステファノと、ほかにフィリポ、プロコロ、ニカノル、ティモン、パルメナ、アンティオキア出身の改宗者ニコラオを選んで、

6:使徒たちの前に立たせ た。使徒た ちは、祈って彼らの上に手を置いた。

7:こうして、神の言葉は ますます広 まり、弟子の数はエルサレムで非常に増えていき、祭司も大勢この信仰に入った。

 

◆ステファノの逮捕

8:さて、ステファノは恵 みと力に満 ち、すばらしい不思議な業としるしを民衆の間で行っていた。

9:ところが、キレネとア レクサンド リアの出身者で、いわゆる「解放された奴隷の会堂」に属する人々、またキリキア州とアジア州出身の人々などのある者たちが立ち上がり、ステファノと議論し た。

10:しかし、彼が知恵と “霊”とに よって語るので、歯が立たなかった。

11:そこで、彼らは人々 を唆して、 「わたしたちは、あの男がモーセと神を冒涜する言葉を吐くのを聞いた」と言わせた。

12:また、民衆、長老た ち、律法学 者たちを扇動して、ステファノを襲って捕らえ、最高法院に引いて行った。

13:そして、偽証人を立 てて、次の ように訴えさせた。「この男は、この聖なる場所と律法をけなして、一向にやめようとしません。

14:わたしたちは、彼が こう言って いるのを聞いています。『あのナザレの人イエスは、この場所を破壊し、モーセが我々に伝えた慣習を変えるだろう。』」

15:最高法院の席に着い ていた者は 皆、ステファノに注目したが、その顔はさながら天使の顔のように見えた。

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使徒言行録 第7章

◆ステファノの説教

1:大祭司が、「訴えのと おりか」と 尋ねた。

2:そこで、ステファノは 言った。 「兄弟であり父である皆さん、聞いてください。わたしたちの父アブラハムがメソポタミアにいて、まだハランに住んでいなかったとき、栄光の神が現れ、

3:『あなたの土地と親族 を離れ、わ たしが示す土地に行け』と言われました。

4:それで、アブラハムは カルデア人 の土地を出て、ハランに住みました。神はアブラハムを、彼の父が死んだ後、ハランから今あなたがたの住んでいる土地にお移しになりましたが、

5:そこでは財産を何もお 与えになり ませんでした、一歩の幅の土地さえも。しかし、そのとき、まだ子供のいなかったアブラハムに対して、『いつかその土地を所有地として与え、死後には子孫た ちに相続させる』と約束なさったのです。

6:神はこう言われまし た。『彼の子 孫は、外国に移住し、四百年の間、奴隷にされて虐げられる。』

7:更に、神は言われまし た。『彼ら を奴隷にする国民は、わたしが裁く。その後、彼らはその国から脱出し、この場所でわたしを礼拝する。』

8:そして、神はアブラハ ムと割礼に よる契約を結ばれました。こうして、アブラハムはイサクをもうけて八日目に割礼を施し、イサクはヤコブを、ヤコブは十二人の族長をもうけて、それぞれ割礼 を施したのです。

9:この族長たちはヨセフ をねたん で、エジプトへ売ってしまいました。しかし、神はヨセフを離れず、

10:あらゆる苦難から助 け出して、 エジプト王ファラオのもとで恵みと知恵をお授けになりました。そしてファラオは、彼をエジプトと王の家全体とをつかさどる大臣に任命したのです。

11:ところが、エジプト とカナンの 全土に飢饉が起こり、大きな苦難が襲い、わたしたちの先祖は食糧を手に入れることができなくなりました。

12:ヤコブはエジプトに 穀物がある と聞いて、まずわたしたちの先祖をそこへ行かせました。

13:二度目のとき、ヨセ フは兄弟た ちに自分の身の上を明かし、ファラオもヨセフの一族のことを知りました。

14:そこで、ヨセフは人 を遣わし て、父ヤコブと七十五人の親族一同を呼び寄せました。

15:ヤコブはエジプトに 下って行 き、やがて彼もわたしたちの先祖も死んで、

16:シケムに移され、か つてアブラ ハムがシケムでハモルの子らから、幾らかの金で買っておいた墓に葬られました。

17:神がアブラハムにな さった約束 の実現する時が近づくにつれ、民は増え、エジプト中に広がりました。

18:それは、ヨセフのこ とを知らな い別の王が、エジプトの支配者となるまでのことでした。

19:この王は、わたした ちの同胞を 欺き、先祖を虐待して乳飲み子を捨てさせ、生かしておかないようにしました。

20:このときに、モーセ が生まれた のです。神の目に適った美しい子で、三か月の間、父の家で育てられ、

21:その後、捨てられた のをファラ オの王女が拾い上げ、自分の子として育てたのです。

22:そして、モーセはエ ジプト人の あらゆる教育を受け、すばらしい話や行いをする者になりました。

23:四十歳になったと き、モーセは 兄弟であるイスラエルの子らを助けようと思い立ちました。

24:それで、彼らの一人 が虐待され ているのを見て助け、相手のエジプト人を打ち殺し、ひどい目に遭っていた人のあだを討ったのです。

25:モーセは、自�ェの 手を通して 神が兄弟たちを救おうとしておられることを、彼らが理解してくれると思いました。しかし、理解してくれませんでした。

26:次の日、モーセはイ スラエル人 が互いに争っているところに来合わせたので、仲直りをさせようとして言いました。『君たち、兄弟どうしではないか。なぜ、傷つけ合うのだ。』

27:すると、仲間を痛め つけていた 男は、モーセを突き飛ばして言いました。『だれが、お前を我々の指導者や裁判官にしたのか。

28:きのうエジプト人を 殺したよう に、わたしを殺そうとするのか。』

29:モーセはこの言葉を 聞いて、逃 げ出し、そして、ミディアン地方に身を寄せている間に、二人の男の子をもうけました。

30:四十年たったとき、 シナイ山に 近い荒れ野において、柴の燃える炎の中で、天使がモーセの前に現れました。

31:モーセは、この光景 を見て驚き ました。もっとよく見ようとして近づくと、主の声が聞こえました。

32:『わたしは、あなた の先祖の 神、アブラハム、イサク、ヤコブの神である』と。モーセは恐れおののいて、それ以上見ようとはしませんでした。

33:そのとき、主はこう 仰せになり ました。『履物を脱げ。あなたの立っている所は聖なる土地である。

34:わたしは、エジプト にいるわた しの民の不幸を確かに見届け、また、その嘆きを聞いたので、彼らを救うために降って来た。さあ、今あなたをエジプトに遣わそう。』

35:人々が、『だれが、 お前を指導 者や裁判官にしたのか』と言って拒んだこのモーセを、神は柴の中に現れた天使の手を通して、指導者また解放者としてお遣わしになったのです。

36:この人がエジプトの 地でも紅海 でも、また四十年の間、荒れ野でも、不思議な業としるしを行って人々を導き出しました。

37:このモーセがまた、 イスラエル の子らにこう言いました。『神は、あなたがたの兄弟の中から、わたしのような預言者をあなたがたのために立てられる。』

38:この人が荒れ野の集 会におい て、シナイ山で彼に語りかけた天使とわたしたちの先祖との間に立って、命の言葉を受け、わたしたちに伝えてくれたのです。

39:けれども、先祖たち はこの人に 従おうとせず、彼を退け、エジプトをなつかしく思い、

40:アロンに言いまし た。『わたし たちの先に立って導いてくれる神々を造ってください。エジプトの地から導き出してくれたあのモーセの身の上に、何が起こったのか分からないからです。』

41:彼らが若い雄牛の像 を造ったの はそのころで、この偶像にいけにえを献げ、自分たちの手で造ったものをまつって楽しんでいました。

42:そこで神は顔を背 け、彼らが天 の星を拝むままにしておかれました。それは預言者の書にこう書いてあるとおりです。『イスラエルの家よ、/お前たちは荒れ野にいた四十年の間、/わたしに いけにえと供え物を/献げたことがあったか。

43:お前たちは拝むため に造った偶 像、/モレクの御輿やお前たちの神ライファンの星を/担ぎ回ったのだ。だから、わたしはお前たちを/バビロンのかなたへ移住させる。』

44:わたしたちの先祖に は、荒れ野 に証しの幕屋がありました。これは、見たままの形に造るようにとモーセに言われた方のお命じになったとおりのものでした。

45:この幕屋は、それを 受け継いだ 先祖たちが、ヨシュアに導かれ、目の前から神が追い払ってくださった異邦人の土地を占領するとき、運び込んだもので、ダビデの時代までそこにありました。

46:ダビデは神の御心に 適い、ヤコ ブの家のために神の住まいが欲しいと願っていましたが、

47:神のために家を建て たのはソロ モンでした。

48:けれども、いと高き 方は人の手 で造ったようなものにはお住みになりません。これは、預言者も言っているとおりです。

49:『主は言われる。 「天はわたし の王座、/地はわたしの足台。お前たちは、わたしに/どんな家を建ててくれると言うのか。わたしの憩う場所はどこにあるのか。

50:これらはすべて、/ わたしの手 が造ったものではないか。」』

51:かたくなで、心と耳 に割礼を受 けていない人たち、あなたがたは、いつも聖霊に逆らっています。あなたがたの先祖が逆らったように、あなたがたもそうしているのです。

52:いったい、あなたが たの先祖が 迫害しなかった預言者が、一人でもいたでしょうか。彼らは、正しい方が来られることを預言した人々を殺しました。そして今や、あなたがたがその方を裏切る 者、殺す者となった。

53:天使たちを通して律 法を受けた 者なのに、それを守りませんでした。」

◆ステファノの殉教

54:人々はこれを聞いて 激しく怒 り、ステファノに向かって歯ぎしりした。

55:ステファノは聖霊に 満たされ、 天を見つめ、神の栄光と神の右に立っておられるイエスとを見て、

56:「天が開いて、人の 子が神の右 に立っておられるのが見える」と言った。

57:人々は大声で叫びな がら耳を手 でふさぎ、ステファノ目がけて一斉に襲いかかり、

58:都の外に引きずり出 して石を投 げ始めた。証人たちは、自分の着ている物をサウロという若者の足もとに置いた。

59:人々が石を投げつけ ている間、 ステファノは主に呼びかけて、「主イエスよ、わたしの霊をお受けください」と言った。

60:それから、ひざまず いて、「主 よ、この罪を彼らに負わせないでください」と大声で叫んだ。ステファノはこう言って、眠りについた。

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使徒言行録 第8章

 

1:サウロは、ステファノ の殺害に賛 成していた。

 

◆エルサレムの教会に対す る迫害:そ の日、エルサレムの教会に対して大迫害が起こり、使徒たちのほかは皆、ユダヤとサマリアの地方に散って行った。

2:しかし、信仰深い人々 がステファ ノを葬り、彼のことを思って大変悲しんだ。

3:一方、サウロは家から 家へと押し 入って教会を荒らし、男女を問わず引き出して牢に送っていた。

 

◆サマリアで福音が告げ知 らされる

4:さて、散って行った人 々は、福音 を告げ知らせながら巡り歩いた。

5:フィリポはサマリアの 町に下っ て、人々にキリストを宣べ伝えた。

6:群衆は、フィリポの行 うしるしを 見聞きしていたので、こぞってその話に聞き入った。

7:実際、汚れた霊に取り つかれた多 くの人たちからは、その霊が大声で叫びながら出て行き、多くの中風患者や足の不自由な人もいやしてもらった。

8:町の人々は大変喜ん だ。

9:ところで、この町に以 前からシモ ンという人がいて、魔術を使ってサマリアの人々を驚かせ、偉大な人物と自称していた。

10:それで、小さな者か ら大きな者 に至るまで皆、「この人こそ偉大なものといわれる神の力だ」と言って注目していた。

11:人々が彼に注目した のは、長い 間その魔術に心を奪われていたからである。

12:しかし、フィリポが 神の国とイ エス・キリストの名について福音を告げ知らせるのを人々は信じ、男も女も洗礼を受けた。

13:シモン自身も信じて 洗礼を受 け、いつもフィリポにつき従い、すばらしいしるしと奇跡が行われるのを見て驚いていた。

14:エルサレムにいた使 徒たちは、 サマリアの人々が神の言葉を受け入れたと聞き、ペトロとヨハネをそこへ行かせた。

15:二人はサマリアに 下って行き、 聖霊を受けるようにとその人々のために祈った。

16:人々は主イエスの名 によって洗 礼を受けていただけで、聖霊はまだだれの上にも降っていなかったからである。

17:ペトロとヨハネが人 々の上に手 を置くと、彼らは聖霊を受けた。

18:シモンは、使徒たち が手を置く ことで、“霊”が与えられるのを見、金を持って来て、

19:言った。「わたしが 手を置け ば、だれでも聖霊が受けられるように、わたしにもその力を授けてください。」

20:すると、ペトロは 言った。「こ の金は、お前と一緒に滅びてしまうがよい。神の賜物を金で手に入れられると思っているからだ。

21:お前はこのことに何 のかかわり もなければ、権利もない。お前の心が神の前に正しくないからだ。

22:この悪事を悔い改 め、主に祈 れ。そのような心の思いでも、赦していただけるかもしれないからだ。

23:お前は腹黒い者であ り、悪の縄 目に縛られていることが、わたしには分かっている。」

24:シモンは答えた。 「おっしゃっ たことが何一つわたしの身に起こらないように、主に祈ってください。」

25:このように、ペトロ とヨハネ は、主の言葉を力強く証しして語った後、サマリアの多くの村で福音を告げ知らせて、エルサレムに帰って行った。

 

◆フィリポとエチオピアの 高官

26:さて、主の天使は フィリポに、 「ここをたって南に向かい、エルサレムからガザへ下�體ケに行け」と言った。そこは寂しい道である。

27:フィリポはすぐ出か けて行っ た。折から、エチオピアの女王カンダケの高官で、女王の全財産の管理をしていたエチオピア人の宦官が、エルサレムに礼拝に来て、

28:帰る途中であった。 彼は、馬車 に乗って預言者イザヤの書を朗読していた。

29:すると、“霊”が フィリポに、 「追いかけて、あの馬車と一緒に行け」と言った。

30:フィリポが走り寄る と、預言者 イザヤの書を朗読しているのが聞こえたので、「読んでいることがお分かりになりますか」と言った。

31:宦官は、「手引きし てくれる人 がなければ、どうして分かりましょう」と言い、馬車に乗ってそばに座るようにフィリポに頼んだ。

32:彼が朗読していた聖 書の個所は これである。「彼は、羊のように屠り場に引かれて行った。毛を刈る者の前で黙している小羊のように、/口を開かない。

33:卑しめられて、その 裁きも行わ れなかった。だれが、その子孫について語れるだろう。彼の命は地上から取り去られるからだ。」

34:宦官はフィリポに 言った。「ど うぞ教えてください。預言者は、だれについてこう言っているのでしょうか。自分についてですか。だれかほかの人についてですか。」

35:そこで、フィリポは 口を開き、 聖書のこの個所から説きおこして、イエスについて福音を告げ知らせた。

36:道を進んで行くうち に、彼らは 水のある所に来た。宦官は言った。「ここに水があります。洗礼を受けるのに、何か妨げがあるでしょうか。」

37>:フィリポ が、「真心か ら信じておられるなら、差し支えありません」と言うと、宦官は、「イエス・キリストは神の子であると信じます」と答えた。  (底本に節が欠けている個所 の異本による訳文)

38:そして、車を止めさ せた。フィ リポと宦官は二人とも水の中に入って行き、フィリポは宦官に洗礼を授けた。

39:彼らが水の中から上 がると、主 の霊がフィリポを連れ去った。宦官はもはやフィリポの姿を見なかったが、喜びにあふれて旅を続けた。

40:フィリポはアゾトに 姿を現し た。そして、すべての町を巡りながら福音を告げ知らせ、カイサリアまで行った。 

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使徒言行録 第9章

 

◆サウロの回心

1:さて、サウロはなおも 主の弟子た ちを脅迫し、殺そうと意気込んで、大祭司のところへ行き、

2:ダマスコの諸会堂あて の手紙を求 めた。それは、この道に従う者を見つけ出したら、男女を問わず縛り上げ、エルサレムに連行するためであった。

3:ところが、サウロが旅 をしてダマ スコに近づいたとき、突然、天からの光が彼の周りを照らした。

4:サウロは地に倒れ、 「サウル、サ ウル、なぜ、わたしを迫害するのか」と呼びかける声を聞いた。

5:「主よ、あなたはどな たですか」 と言うと、答えがあった。「わたしは、あなたが迫害しているイエスである。

6:起きて町に入れ。そう すれば、あ なたのなすべきことが知らされる。」

7:同行していた人たち は、声は聞こ えても、だれの姿も見えないので、ものも言えず立っていた。

8:サウロは地面から起き 上がって、 目を開けたが、何も見えなかった。人々は彼の手を引いてダマスコに連れて行った。

9:サウロは三日間、目が 見えず、食 べも飲みもしなかった。

10:ところで、ダマスコ にアナニア という弟子がいた。幻の中で主が、「アナニア」と呼びかけると、アナニアは、「主よ、ここにおります」と言った。

11:すると、主は言われ た。「立っ て、『直線通り』と呼ばれる通りへ行き、ユダの家にいるサウロという名の、タルソス出身の者を訪ねよ。今、彼は祈っている。

12:アナニアという人が 入って来て 自分の上に手を置き、元どおり目が見えるようにしてくれるのを、幻で見たのだ。」

13:しかし、アナニアは 答えた。 「主よ、わたしは、その人がエルサレムで、あなたの聖なる者たちに対してどんな悪事を働いたか、大勢の人から聞きました。

14:ここでも、御名を呼 び求める人 をすべて捕らえるため、祭司長たちから権限を受けています。」

15:すると、主は言われ た。「行 け。あの者は、異邦人や王たち、またイスラエルの子らにわたしの名を伝えるために、わたしが選んだ器である。

16:わたしの名のために どんなに苦 しまなくてはならないかを、わたしは彼に示そう。」

17:そこで、アナニアは 出かけて 行ってユダの家に入り、サウロの上に手を置いて言った。「兄弟サウル、あなたがここへ来る途中に現れてくださった主イエスは、あなたが元どおり目が見える ようになり、また、聖霊で満たされるようにと、わたしをお遣わしになったのです。」

18:すると、たちまち目 からうろこ のようなものが落ち、サウロは元どおり見えるようになった。そこで、身を起こして洗礼を受け、

19:食事をして元気を取 り戻した。

 

◆サウロ、ダマスコで福音 を告げ知ら せる

:サウロは数日の間、ダマ スコの弟子 たちと一緒にいて、

20:すぐあちこちの会堂 で、「この 人こそ神の子である」と、イエスのことを宣べ伝えた。

21:これを聞いた人々は 皆、非常に 驚いて言った。「あれは、エルサレムでこの名を呼び求める者たちを滅ぼしていた男ではないか。また、ここへやって来たのも、彼らを縛り上げ、祭司長たちの ところへ連行するためではなかったか。」

22:しかし、サウロはま すます力を 得て、イエスがメシアであることを論証し、ダマスコに住んでいるユダヤ人をうろたえさせた。

 

◆サウロ、命をねらう者た ちの手から 逃れる

23:かなりの日数がたっ て、ユダヤ 人はサウロを殺そうとたくらんだが、

24:この陰謀はサウロの 知るところ となった。しかし、ユダヤ人は彼を殺そうと、昼も夜も町の門で見張っていた。

25:そこで、サウロの弟 子たちは、 夜の間に彼を連れ出し、籠に乗せて町の城壁づたいにつり降ろした。

 

◆サウロ、エルサレムで使 徒たちと会 う

26:サウロはエルサレム に着き、弟 子の仲間に加わろうとしたが、皆は彼を弟子だとは信じないで恐れた。

27:しかしバルナバは、 サウロを連 れて使徒たちのところへ案内し、サウロが旅の途中で主に出会い、主に語りかけられ、ダマスコでイエスの名によって大胆に宣教した次第を説明した。

28:それで、サウロはエ ルサレムで 使徒たちと自由に行き来し、主の名によって恐れずに教えるようになった。

29:また、ギリシア語を 話すユダヤ 人と語り、議論もしたが、彼らはサウロを殺そうとねらっていた。

30:それを知った兄弟た ちは、サウ ロを連れてカイサリアに下り、そこからタルソスへ出発させた。

31:こうして、教会はユ ダヤ、ガリ ラヤ、サマリアの全地方で平和を保ち、主を畏れ、聖霊の慰めを受け、基礎が固まって発展し、信者の数が増えていった。

 

◆ペトロ、アイネアをいや す

32:ペトロは方々を巡り 歩き、リダ に住んでいる聖なる者たちのところへも下って行った。

33:そしてそこで、中風 で八年前か ら床についていたアイネアという人に会った。

34:ペトロが、「アイネ ア、イエ ス・キリストがいやしてくださる。起きなさい。自分で床を整えなさい」と言うと、アイネアはすぐ起き上がった。

35:リダとシャロンに住 む人は皆ア イネアを見て、主に立ち帰った。

 

◆ペトロ、タビタを生き返 らせる

36:ヤッファにタビタ ――訳して言 えばドルカス、すなわち「かもしか」――と呼ばれる婦人の弟子がいた。彼女はたくさんの善い行いや施しをしていた。

37:ところが、そのころ 病気になっ て死んだので、人々は遺体を清めて階上の部屋に安置した。

38:リダはヤッファに近 かったの で、弟子たちはペトロがリダにいると聞いて、二人の人を送り、「急いでわたしたちのところへ来てください」と頼んだ。

39:ペトロはそこをたっ て、その二 人と一緒に出かけた。人々はペトロが到着すると、階上の部屋に案内した。やもめたちは皆そばに寄って来て、泣きながら、ドルカスが一緒にいたときに作って くれた数々の下着や上着を見せた。

40:ペトロが皆を外に出 し、ひざま ずいて祈り、遺体に向かって、「タビタ、起きなさい」と言うと、彼女は目を開き、ペトロを見て起き上がった。

41:ペトロは彼女に手を 貸して立た せた。そして、聖なる者たちとやもめたちを呼び、生き返ったタビタを見せた。

42:このことはヤッファ 中に知れ渡 り、多くの人が主を信じた。

43:ペトロはしばらくの 間、ヤッ ファで革なめし職人のシモンという人の家に滞在した。

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使徒言行録 第10章

◆コルネリウス、カイサリ アで幻を見 る

1:さて、カイサリアにコ ルネリウス という人がいた。「イタリア隊」と呼ばれる部隊の百人隊長で、

2:信仰心あつく、一家そ ろって神を 畏れ、民に多くの施しをし、絶えず神に祈っていた。

3:ある日の午後三時ご ろ、コルネリ ウスは、神の天使が入って来て「コルネリウス」と呼びかけるのを、幻ではっきりと見た。

4:彼は天使を見つめてい たが、怖く なって、「主よ、何でしょうか」と言った。すると、天使は言った。「あなたの祈りと施しは、神の前に届き、覚えられた。

5:今、ヤッファへ人を 送って、ペト ロと呼ばれるシモンを招きなさい。

6:その人は、革なめし職 人シモンと いう人の客になっている。シモンの家は海岸にある。」

7:天使がこう話して立ち 去ると、コ ルネリウスは二人の召し使いと、側近の部下で信仰心のあつい一人の兵士とを呼び、

8:すべてのことを話して ヤッファに 送った。

 

◆ペトロ、ヤッファで幻を 見る

9:翌日、この三人が旅を してヤッ ファの町に近づいたころ、ペトロは祈るため屋上に上がった。昼の十二時ごろである。

10:彼は空腹を覚え、何 か食べたい と思った。人々が食事の準備をしているうちに、ペトロは我を忘れたようになり、

11:天が開き、大きな布 のような入 れ物が、四隅でつるされて、地上に下りて来るのを見た。

12:その中には、あらゆ る獣、地を 這うもの、空の鳥が入っていた。

13:そして、「ペトロ よ、身を起こ し、屠って食べなさい」と言う声がした。

14:しかし、ペトロは 言った。「主 よ、とんでもないことです。清くない物、汚れた物は何一つ食べたことがありません。」

15:すると、また声が聞 こえてき た。「神が清めた物を、清くないなどと、あなたは言ってはならない。」

16:こういうことが三度 あり、その 入れ物は急に天に引き上げられた。

17:ペトロが、今見た幻 はいったい 何だろうかと、ひとりで思案に暮れていると、コルネリウスから差し向けられた人々が、シモンの家を探し当てて門口に立ち、

18:声をかけて、「ペト ロと呼ばれ るシモンという方が、ここに泊まっておられますか」と尋ねた。

19:ペトロがなおも幻に ついて考え 込んでいると、“霊”がこう言った。「三人の者があなたを探しに来ている。

20:立って下に行き、た めらわない で一緒に出発しなさい。わたしがあの者たちをよこしたのだ。」

21:ペトロは、その人々 のところへ 降りて行って、「あなたがたが探しているのは、このわたしです。どうして、ここへ来られたのですか」と言った。

22:すると、彼らは言っ た。「百人 隊長のコルネリウスは、正しい人で神を畏れ、すべてのユダヤ人に評判の良い人ですが、あなたを家に招いて話を聞くようにと、聖なる天使からお告げを受けた のです。」

23:それで、ペトロはそ の人たちを 迎え入れ、泊まらせた。翌日、ペトロはそこをたち、彼らと出かけた。ヤッファの兄弟も何人か一緒に行った。

24:次の日、一行はカイ サリアに到 着した。コルネリウスは親類や親しい友人を呼び集めて待っていた。

25:ペトロが来ると、コ ルネリウス は迎えに出て、足もとにひれ伏して拝んだ。

26:ペトロは彼を起こし て言った。 「お立ちください。わたしもただの人間です。」

27:そして、話しながら 家に入って みると、大勢の人が集まっていたので、

28:彼らに言った。「あ なたがたも ご存じのとおり、ユダヤ人が外国人と交際したり、外国人を訪問したりすることは、律法で禁じられています。けれども、神はわたしに、どんな人をも清くない 者とか、汚れている者とか言ってはならないと、お示しになりました。

29:それで、お招きを受 けたとき、 すぐ来たのです。お尋ねしますが、なぜ招いてくださったのですか。」

30:すると、コルネリウ スが言っ た。「四日前の今ごろのことです。わたしが家で午後三時の祈りをしていますと、輝く服を着た人がわたしの前に立って、

31:言うのです。『コル ネリウス、 あなたの祈りは聞き入れられ、あなたの施しは神の前で覚えられた。

32:ヤッファに人を送っ て、ペトロ と呼ばれるシモンを招きなさい。その人は、海岸にある革なめし職人シモンの家に泊まっている。』

33:それで、早速あなた のところに 人を送ったのです。よくおいでくださいました。今わたしたちは皆、主があなたにお命じになったことを残らず聞こうとして、神の前にいるのです。」

 

◆ペトロ、コルネリウスの 家で福音を 告げる

34:そこで、ペトロは口 を開きこう 言った。「神は人を分け隔てなさらないことが、よく分かりました。

35:どんな国の人でも、 神を畏れて 正しいことを行う人は、神に受け入れられるのです。

36:神がイエス・キリス トによって ――この方こそ、すべての人の主です――平和を告げ知らせて、イスラエルの子らに送ってくださった御言葉を、

37:あなたがたはご存じ でしょう。 ヨハネが洗礼を宣べ伝えた後に、ガリラヤから始まってユダヤ全土に起きた出来事です。

38:つまり、ナザレのイ エスのこと です。神は、聖霊と力によってこの方を油注がれた者となさいました。イエスは、方々を巡り歩いて人々を助け、悪魔に苦しめられている人たちをすべていやさ れたのですが、それは、神が御一緒だったからです。

39:わたしたちは、イエ スがユダヤ 人の住む地方、特にエルサレムでなさったことすべての証人です。人々はイエスを木にかけて殺してしまいましたが、

40:神はこのイエスを三 日目に復活 させ、人々の前に現してくださいました。

41:しかし、それは民全 体に対して ではなく、前もって神に選ばれた証人、つまり、イエスが死者の中から復活した後、御一緒に食事をしたわたしたちに対してです。

42:そしてイエスは、御 自分が生き ている者と死んだ者との審判者として神から定められた者であることを、民に宣べ伝え、力強く証しするようにと、わたしたちにお命じになりました。

43:また預言者も皆、イ エスについ て、この方を信じる者はだれでもその名によって罪の赦しが受けられる、と証ししています。」

 

◆異邦人も聖霊を受ける

44:ペトロがこれらのこ とをなおも 話し続けていると、御言葉を聞いている一同の上に聖霊が降った。

45:割礼を受けている信 者で、ペト ロと一緒に来た人は皆、聖霊の賜物が異邦人の上にも注がれるのを見て、大いに驚いた。

46:異邦人が異言を話 し、また神を 賛美しているのを、聞いたからである。そこでペトロは、

47:「わたしたちと同様 に聖霊を受 けたこの人たちが、水で洗礼を受けるのを、いったいだれが妨げることができますか」と言った。

48:そして、イエス・キ リストの名 によって洗礼を受けるようにと、その人たちに命じた。それから、コルネリウスたちは、ペトロになお数日滞在するようにと願った。

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使徒言行録 第11章

◆ペトロ、エルサレムの教 会に報告す る

1:さて、使徒たちとユダ ヤにいる兄 弟たちは、異邦人も神の言葉を受 け入れたことを耳にした。

2:ペトロがエルサレムに 上って来た とき、割礼を受けている者たちは 彼を非難して、

3:「あなたは割礼を受け ていない者 たちのところへ行き、一緒に食事 をした」と言った。

4:そこで、ペトロは事の 次第を順序 正しく説明し始めた。

5:「わたしがヤッファの 町にいて 祈っていると、我を忘れたようにな って幻を見ました。大きな布のような入れ物が、四隅でつるされて、 天からわたしのところまで下りて来たのです。

6:その中をよく見ると、 地上の獣、 野獣、這うもの、空の鳥などが入 っていました。

7:そして、『ペトロよ、 身を起こ し、屠って食べなさい』と言う声を 聞きましたが、

8:わたしは言いました。 『主よ、と んでもないことです。清くない物、 汚れた物は口にしたことがありません。』

9:すると、『神が清めた 物を、清く ないなどと、あなたは言ってはな らない』と、再び天から声が返って来ました。

10:こういうことが三度 あって、ま た全部の物が天に引き上げられてし まいました。

11:そのとき、カイサリ アからわた しのところに差し向けられた/三人 の人が、わたしたちのいた家に到着しました。

12:すると、“霊”がわ たしに、 『ためらわないで一緒に行きなさい』 と言われました。ここにいる六人の兄弟も一緒に来て、わたしたち はその人の家に入ったのです。

13:彼は、自分の家に天 使が立って いるのを見たこと、また、その天使 が、こう告げたことを話してくれました。『ヤッファに人を送って、 ペトロと呼ばれるシモンを招きなさい。

14:あなたと家族の者す べてを救う 言葉をあなたに話してくれる。』

15:わたしが話しだす と、聖霊が最 初わたしたちの上に降ったように、 彼らの上にも降ったのです。

16:そのとき、わたし は、『ヨハネ は水で洗礼を授けたが、あなたがた は聖霊によって洗礼を受ける』と言っておられた主の言葉を思い出 しました。

17:こうして、主イエ ス・キリスト を信じるようになったわたしたちに 与えてくださったのと同じ賜物を、神が彼らにもお与えになったの なら、わたしのような者が、神がそうなさるのをどうして妨げるこ とができたでしょうか。」

18:この言葉を聞いて人 々は静ま り、「それでは、神は異邦人をも悔い 改めさせ、命を与えてくださったのだ」と言って、神を賛美した。

 

◆アンティオキアの教会

19:ステファノの事件を きっかけに して起こった迫害のために散らされ た人々は、フェニキア、キプロス、アンティオキアまで行ったが、 ユダヤ人以外のだれにも御言葉を語らなかった。

20:しかし、彼らの中に キプロス島 やキレネから来た者がいて、アンテ ィオキアへ行き、ギリシア語を話す人々にも語りかけ、主イエスに ついて福音を告げ知らせた。

21:主がこの人々を助け られたの で、信じて主に立ち帰った者の数は多 かった。

22:このうわさがエルサ レムにある 教会にも聞こえてきたので、教会は バルナバをアンティオキアへ行くように派遣した。

23:バルナバはそこに到 着すると、 神の恵みが与えられた有様を見て喜 び、そして、固い決意をもって主から離れることのないようにと、 皆に勧めた。

24:バルナバは立派な人 物で、聖霊 と信仰とに満ちていたからである。 こうして、多くの人が主へと導かれた。

25:それから、バルナバ はサウロを 捜しにタルソスへ行き、

26:見つけ出してアン ティオキアに 連れ帰った。二人は、丸一年の間そ この教会に一緒にいて多くの人を教えた。このアンティオキアで、 弟子たちが初めてキリスト者と呼ばれるようになったのである。

27:そのころ、預言する 人々がエル サレムからアンティオキアに下って 来た。

28:その中の一人のアガ ボという者 が立って、大飢饉が世界中に起こる と“霊”によって予告したが、果たしてそれはクラウディウス帝の 時に起こった。

29:そこで、弟子たちは それぞれの 力に応じて、ユダヤに住む兄弟たち に援助の品を送ることに決めた。

30:そして、それを実行 し、バルナ バとサウロに託して長老たちに届け た。

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使徒言行録 第12章

◆ヤコブの殺害とペトロの 投獄

1:そのころ、ヘロデ王は 教会のある 人々に迫害の手を伸ばし、

2:ヨハネの兄弟ヤコブを 剣で殺し た。

3:そして、それがユダヤ 人に喜ばれ るのを見て、更にペトロをも捕らえようとした。それは、除酵祭の時期であった。

4:ヘロデはペトロを捕ら えて牢に入 れ、四人一組の兵士四組に引き渡して監視させた。過越祭の後で民衆の前に引き出すつもりであった。

5:こうして、ペトロは牢 に入れられ ていた。教会では彼のために熱心な祈りが神にささげられていた。

 

◆ペトロ、牢から救い出さ れる

6:ヘロデがペトロを引き 出そうとし ていた日の前夜、ペトロは二本の鎖でつながれ、二人の兵士の間で眠っていた。番兵たちは戸口で牢を見張っていた。

7:すると、主の天使がそ ばに立ち、 光が牢の中を照らした。天使はペトロのわき腹をつついて起こし、「急いで起き上がりなさい」と言った。すると、鎖が彼の手から外れ落ちた。

8:天使が、「帯を締め、 履物を履き なさい」と言ったので、ペトロはそのとおりにした。また天使は、「上着を着て、ついて来なさい」と言った。

9:それで、ペトロは外に 出てついて 行ったが、天使のしていることが現実のこととは思われなかった。幻を見ているのだと思った。

10:第一、第二の衛兵所 を過ぎ、町 に通じる鉄の門の所まで来ると、門がひとりでに開いたので、そこを出て、ある通りを進んで行くと、急に天使は離れ去った。

11:ペトロは我に返って 言った。 「今、初めて本当のことが分かった。主が天使を遣わして、ヘロデの手から、またユダヤ民衆のあらゆるもくろみから、わたしを救い出してくださったのだ。」

12:こう分かるとペトロ は、マルコ と呼ばれていたヨハネの母マリアの家に行った。そこには、大勢の人が集まって祈っていた。

13:門の戸をたたくと、 ロデという 女中が取り次ぎに出て来た。

14:ペトロの声だと分か ると、喜び のあまり門を開けもしないで家に駆け込み、ペトロが門の前に立っていると告げた。

15:人々は、「あなたは 気が変に なっているのだ」と言ったが、ロデは、本当だと言い張った。彼らは、「それはペトロを守る天使だろう」と言い出した。

16:しかし、ペトロは戸 をたたき続 けた。彼らが開けてみると、そこにペトロがいたので非常に驚いた。

17:ペトロは手で制して 彼らを静か にさせ、主が牢から連れ出してくださった次第を説明し、「このことをヤコブと兄弟たちに伝えなさい」と言った。そして、そこを出てほかの所へ行った。

18:夜が明けると、兵士 たちの間 で、ペトロはいったいどうなったのだろうと、大騒ぎになった。

19:ヘロデはペトロを捜 しても見つ からないので、番兵たちを取り調べたうえで死刑にするように命じ、ユダヤからカイサリアに下って、そこに滞在していた。

 

◆ヘロデ王の急死

20:ヘロデ王は、ティル スとシドン の住民にひどく腹を立てていた。そこで、住民たちはそろって王を訪ね、その侍従ブラストに取り入って和解を願い出た。彼らの地方が、王の国から食糧を得て いたからである。

21:定められた日に、ヘ ロデが王の 服を着けて座に着き、演説をすると、

22:集まった人々は、 「神の声だ。 人間の声ではない」と叫び続けた。

23:するとたちまち、主 の天使がヘ ロデを撃ち倒した。神に栄光を帰さなかったからである。ヘロデは、蛆に食い荒らされて息絶えた。

24:神の言葉はますます 栄え、広 がって行った。

25:バルナバとサウロは エルサレム のための任務を果たし、マルコと呼ばれるヨハネを連れて帰って行った。

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使徒言行録 第13章

◆バルナバとサウロ、宣教 旅行に出発 する

1:アンティオキアでは、 そこの教会 にバルナバ、ニゲルと呼ばれるシメオン、キレネ人のルキオ、領主ヘロデと一緒に育ったマナエン、サウロなど、預言する者や教師たちがいた。

2:彼らが主を礼拝し、断 食している と、聖霊が告げた。「さあ、バルナバとサウロをわたしのために選び出しなさい。わたしが前もって二人に決めておいた仕事に当たらせるために。」

3:そこで、彼らは断食し て祈り、二 人の上に手を置いて出発させた。

 

◆キプロス宣教

4:聖霊によって送り出さ れたバルナ バとサウロは、セレウキアに下り、そこからキプロス島に向け船出し、

5:サラミスに着くと、ユ ダヤ人の諸 会堂で神の言葉を告げ知らせた。二人は、ヨハネを助手として連れていた。

6:島全体を巡ってパフォ スまで行く と、ユダヤ人の魔術師で、バルイエスという一人の偽預言者に出会った。

7:この男は、地方総督セ ルギウス・ パウルスという賢明な人物と交際していた。総督はバルナバとサウロを招いて、神の言葉を聞こうとした。

8:魔術師エリマ――彼の 名前は魔術 師という意味である――は二人に対抗して、地方総督をこの信仰から遠ざけようとした。

9:パウロとも呼ばれてい たサウロ は、聖霊に満たされ、魔術師をにらみつけて、

10:言った。「ああ、あ らゆる偽り と欺きに満ちた者、悪魔の子、すべての正義の敵、お前は主のまっすぐな道をどうしてもゆがめようとするのか。

11:今こそ、主の御手は お前の上に 下る。お前は目が見えなくなって、時が来るまで日の光を見ないだろう。」するとたちまち、魔術師は目がかすんできて、すっかり見えなくなり、歩き回りなが ら、だれか手を引いてくれる人を探した。

12:総督はこの出来事を 見て、主の 教えに非常に驚き、信仰に入った。

 

◆ピシディア州のアンティ オキアで

13:パウロとその一行 は、パフォス から船出してパンフィリア州のペルゲに来たが、ヨハネは一行と別れてエルサレムに帰ってしまった。

14:パウロとバルナバは ペルゲから 進んで、ピシディア州のアンティオキアに到着した。そして、安息日に会堂に入って席に着いた。

15:律法と預言者の書が 朗読された 後、会堂長たちが人をよこして、「兄弟たち、何か会衆のために励ましのお言葉があれば、話してください」と言わせた。

16:そこで、パウロは立 ち上がり、 手で人々を制して言った。「イスラエルの人たち、ならびに神を畏れる方々、聞いてください。

17:この民イスラエルの 神は、わた したちの先祖を選び出し、民がエジプトの地に住んでいる間に、これを強大なものとし、高く上げた御腕をもってそこから導き出してくださいました。

18:神はおよそ四十年の 間、荒れ野 で彼らの行いを耐え忍び、

19:カナンの地では七つ の民族を滅 ぼし、その土地を彼らに相続させてくださったのです。

20:これは、約四百五十 年にわたる ことでした。その後、神は預言者サムエルの時代まで、裁く者たちを任命なさいました。

21:後に人々が王を求め たので、神 は四十年の間、ベニヤミン族の者で、キシュの子サウルをお与えになり、

22:それからまた、サウ ルを退けて ダビデを王の位につけ、彼について次のように宣言なさいました。『わたしは、エッサイの子でわたしの心に適う者、ダビデを見いだした。彼はわたしの思うと ころをすべて行う。』

23:神は約束に従って、 このダビデ の子孫からイスラエルに救い主イエスを送ってくださったのです。

24:ヨハネは、イエスが おいでにな る前に、イスラエルの民全体に悔い改めの洗礼を宣べ伝えました。

25:その生涯を終えよう とすると き、ヨハネはこう言いました。『わたしを何者だと思っているのか。わたしは、あなたたちが期待しているような者ではない。その方はわたしの後から来られる が、わたしはその足の履物をお脱がせする値打ちもない。』

26:兄弟たち、アブラハ ムの子孫の 方々、ならびにあなたがたの中にいて神を畏れる人たち、この救いの言葉はわたしたちに送られました。

27:エルサレムに住む人 々やその指 導者たちは、イエスを認めず、また、安息日ごとに読まれる預言者の言葉を理解せず、イエスを罪に定めることによって、その言葉を実現させたのです。

28:そして、死に当たる 理由は何も 見いだせなかったのに、イエスを死刑にするようにとピラトに求めました。

29:こうして、イエスに ついて書か れていることがすべて実現した後、人々はイエスを木から降ろし、墓に葬りました。

30:しかし、神はイエス を死者の中 から復活させてくださったのです。

31:このイエスは、御自 分と一緒に ガリラヤからエルサレムに上った人々に、幾日にもわたって姿を現されました。その人たちは、今、民に対してイエスの証人となっています。

32:わたしたちも、先祖 に与えられ た約束について、あなたがたに福音を告げ知らせています。

33:つまり、神はイエス を復活させ て、わたしたち子孫のためにその約束を果たしてくださったのです。それは詩編の第二編にも、/『あなたはわたしの子、/わたしは今日あなたを産んだ』/と 書いてあるとおりです。

34:また、イエスを死者 の中から復 活させ、もはや朽ち果てることがないようになさったことについては、/『わたしは、ダビデに約束した/聖なる、確かな祝福をあなたたちに与える』/と言っ ておられます。

35:ですから、ほかの個 所にも、/ 『あなたは、あなたの聖なる者を/朽ち果てるままにしてはおかれない』/と言われています。

36:ダビデは、彼の時代 に神の計画 に仕えた後、眠りについて、祖先の列に加えられ、朽ち果てました。

37:しかし、神が復活さ せたこの方 は、朽ち果てることがなかったのです。

38:だから、兄弟たち、 知っていた だきたい。この方による罪の赦しが告げ知らされ、また、あなたがたがモーセの律法では義とされえなかったのに、

39:信じる者は皆、この 方によって 義とされるのです。

40:それで、預言者の書 に言われて いることが起こらないように、警戒しなさい。

41:『見よ、侮る者よ、 驚け。滅び 去れ。わたしは、お前たちの時代に一つの事を行う。人が詳しく説明しても、/お前たちにはとうてい信じられない事を。』」

42:パウロとバルナバが 会堂を出る とき、人々は次の安息日にも同じことを話してくれるようにと頼んだ。

43:集会が終わってから も、多くの ユダヤ人と神をあがめる改宗者とがついて来たので、二人は彼らと語り合い、神の恵みの下に生き続けるように勧めた。

44:次の安息日になる と、ほとんど 町中の人が主の言葉を聞こうとして集まって来た。

45:しかし、ユダヤ人は この群衆を 見てひどくねたみ、口汚くののしって、パウロの話すことに反対した。

46:そこで、パウロとバ ルナバは勇 敢に語った。「神の言葉は、まずあなたがたに語られるはずでした。だがあなたがたはそれを拒み、自分自身を永遠の命を得るに値しない者にしている。見なさ い、わたしたちは異邦人の方に行く。

47:主はわたしたちにこ う命じてお られるからです。『わたしは、あなたを異邦人の光と定めた、/あなたが、地の果てにまでも/救いをもたらすために。』」

48:異邦人たちはこれを 聞いて喜 び、主の言葉を賛美した。そして、永遠の命を得るように定められている人は皆、信仰に入った。

49:こうして、主の言葉 はその地方 全体に広まった。

50:ところが、ユダヤ人 は、神をあ がめる貴婦人たちや町のおもだった人々を扇動して、パウロとバルナバを迫害させ、その地方から二人を追い出した。

51:それで、二人は彼ら に対して足 の塵を払い落とし、イコニオンに行った。

52:他方、弟子たちは喜 びと聖霊に 満たされていた。

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使徒言行録 第14章

◆イコニオンで

1:イコニオンでも同じよ うに、パウ ロとバルナバはユダヤ人の会堂に入って話をしたが、その結果、大勢のユダヤ人やギリシア人が信仰に入った。2:ところが、信じようとしないユダヤ人たち は、異邦人を扇動し、兄弟たちに対して悪意を抱かせた。3:それでも、二人はそこに長くとどまり、主を頼みとして勇敢に語った。主は彼らの手を通してしる しと不思議な業を行い、その恵みの言葉を証しされたのである。4:町の人々は分裂し、ある者はユダヤ人の側に、ある者は使徒の側についた。5:異邦人とユ ダヤ人が、指導者と一緒になって二人に乱暴を働き、石を投げつけようとしたとき、6:二人はこれに気づいて、リカオニア州の町であるリストラとデルベ、ま たその近くの地方に難を避けた。7:そして、そこでも福音を告げ知らせていた。

 

◆リストラで

8:リストラに、足の不自 由な男が 座っていた。生まれつき足が悪く、まだ一度も歩いたことがなかった。9:この人が、パウロの話すのを聞いていた。パウロは彼を見つめ、いやされるのにふさ わしい信仰があるのを認め、

10:「自分の足でまっす ぐに立ちな さい」と大声で言った。すると、その人は躍り上がって歩きだした。

11:群衆はパウロの行っ たことを見 て声を張り上げ、リカオニアの方言で、「神々が人間の姿をとって、わたしたちのところにお降りになった」と言った。

12:そして、バルナバを 「ゼウス」 と呼び、またおもに話す者であることから、パウロを「ヘルメス」と呼んだ。

13:町の外にあったゼウ スの神殿の 祭司が、家の門の所まで雄牛数頭と花輪を運んで来て、群衆と一緒になって二人にいけにえを献げようとした。

14:使徒たち、すなわち バルナバと パウロはこのことを聞くと、服を裂いて群衆の中へ飛び込んで行き、叫んで

15:言った。「皆さん、 なぜ、こん なことをするのですか。わたしたちも、あなたがたと同じ人間にすぎません。あなたがたが、このような偶像を離れて、生ける神に立ち帰るように、わたしたち は福音を告げ知らせているのです。この神こそ、天と地と海と、そしてその中にあるすべてのものを造られた方です。

16:神は過ぎ去った時代 には、すべ ての国の人が思い思いの道を行くままにしておかれました。

17:しかし、神は御自分 のことを証 ししないでおられたわけではありません。恵みをくださり、天からの雨を降らせて実りの季節を与え、食物を施して、あなたがたの心を喜びで満たしてくださっ ているのです。」

18:こう言って、二人 は、群衆が自 分たちにいけにえを献げようとするのを、やっとやめさせることができた。

19:ところが、ユダヤ人 たちがアン ティオキアとイコニオンからやって来て、群衆を抱き込み、パウロに石を投げつけ、死んでしまったものと思って、町の外へ引きずり出した。

20:しかし、弟子たちが 周りを取り 囲むと、パウロは起き上がって町に入って行った。そして翌日、バルナバと一緒にデルベへ向かった。

 

◆パウロたち、シリア州の アンティオ キアに戻る

21:二人はこの町で福音 を告げ知ら せ、多くの人を弟子にしてから、リストラ、イコニオン、アンティオキアへと引き返しながら、

22:弟子たちを力づけ、 「わたした ちが神の国に入るには、多くの苦しみを経なくてはならない」と言って、信仰に踏みとどまるように励ました。

23:また、弟子たちのた め教会ごと に長老たちを任命し、断食して祈り、彼らをその信ずる主に任せた。

24:それから、二人はピ シディア州 を通り、パンフィリア州に至り、

25:ペルゲで御言葉を 語った後、ア タリアに下り、

26:そこからアンティオ キアへ向 かって船出した。そこは、二人が今成し遂げた働きのために神の恵みにゆだねられて送り出された所である。

27:到着するとすぐ教会 の人々を集 めて、神が自分たちと共にいて行われたすべてのことと、異邦人に信仰の門を開いてくださったことを報告した。

28:そして、しばらくの 間、弟子た ちと共に過ごした。

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使徒言行録 第15章

◆エルサレムの使徒会議

1:ある人々がユダヤから 下って来 て、「モーセの慣習に従って割礼を受けなければ、あなたがたは救われない」と兄弟たちに教えていた。

2:それで、パウロやバル ナバとその 人たちとの間に、激しい意見の対立と論争が生じた。この件について使徒や長老たちと協議するために、パウロとバルナバ、そのほか数名の者がエルサレムへ上 ることに決まった。

3:さて、一行は教会の人 々から送り 出されて、フェニキアとサマリア地方を通り、道すがら、兄弟たちに異邦人が改宗した次第を詳しく伝え、皆を大いに喜ばせた。

4:エルサレムに到着する と、彼らは 教会の人々、使徒たち、長老たちに歓迎され、神が自分たちと共にいて行われたことを、ことごとく報告した。

5:ところが、ファリサイ 派から信者 になった人が数名立って、「異邦人にも割礼を受けさせて、モーセの律法を守るように命じるべきだ」と言った。

6:そこで、使徒たちと長 老たちは、 この問題について協議するために集まった。

7:議論を重ねた後、ペト ロが立って 彼らに言った。「兄弟たち、ご存じのとおり、ずっと以前に、神はあなたがたの間でわたしをお選びになりました。それは、異邦人が、わたしの口から福音の言 葉を聞いて信じるようになるためです。

8:人の心をお見通しにな る神は、わ たしたちに与えてくださったように異邦人にも聖霊を与えて、彼らをも受け入れられたことを証明なさったのです。

9:また、彼らの心を信仰 によって清 め、わたしたちと彼らとの間に何の差別をもなさいませんでした。

10:それなのに、なぜ今 あなたがた は、先祖もわたしたちも負いきれなかった軛を、あの弟子たちの首に懸けて、神を試みようとするのですか。

11:わたしたちは、主イ エスの恵み によって救われると信じているのですが、これは、彼ら異邦人も同じことです。」

12:すると全会衆は静か になり、バ ルナバとパウロが、自分たちを通して神が異邦人の間で行われた、あらゆるしるしと不思議な業について話すのを聞いていた。

13:二人が話を終える と、ヤコブが 答えた。「兄弟たち、聞いてください。

14:神が初めに心を配ら れ、異邦人 の中から御自分の名を信じる民を選び出そうとなさった次第については、シメオンが話してくれました。

15:預言者たちの言った ことも、こ れと一致しています。次のように書いてあるとおりです。

16:『「その後、わたし は戻って来 て、/倒れたダビデの幕屋を建て直す。その破壊された所を建て直して、/元どおりにする。

17‐18:それは、人々 のうちの 残った者や、/わたしの名で呼ばれる異邦人が皆、/主を求めるようになるためだ。」昔から知らされていたことを行う主は、/こう言われる。』

19:それで、わたしはこ う判断しま す。神に立ち帰る異邦人を悩ませてはなりません。

20:ただ、偶像に供えて 汚れた肉 と、みだらな行いと、絞め殺した動物の肉と、血とを避けるようにと、手紙を書くべきです。

21:モーセの律法は、昔 からどの町 にも告げ知らせる人がいて、安息日ごとに会堂で読まれているからです。」

 

◆使徒会議の決議

22:そこで、使徒たちと 長老たち は、教会全体と共に、自分たちの中から人を選んで、パウロやバルナバと一緒にアンティオキアに派遣することを決定した。選ばれたのは、バルサバと呼ばれる ユダおよびシラスで、兄弟たちの中で指導的な立場にいた人たちである。

23:使徒たちは、次の手 紙を彼らに 託した。「使徒と長老たちが兄弟として、アンティオキアとシリア州とキリキア州に住む、異邦人の兄弟たちに挨拶いたします。

24:聞くところによる と、わたした ちのうちのある者がそちらへ行き、わたしたちから何の指示もないのに、いろいろなことを言って、あなたがたを騒がせ動揺させたとのことです。

25:それで、人を選び、 わたしたち の愛するバルナバとパウロとに同行させて、そちらに派遣することを、わたしたちは満場一致で決定しました。

26:このバルナバとパウ ロは、わた したちの主イエス・キリストの名のために身を献げている人たちです。

27:それで、ユダとシラ スを選んで 派遣しますが、彼らは同じことを口頭でも説明するでしょう。

28:聖霊とわたしたち は、次の必要 な事柄以外、一切あなたがたに重荷を負わせないことに決めました。

29:すなわち、偶像に献 げられたも のと、血と、絞め殺した動物の肉と、みだらな行いとを避けることです。以上を慎めばよいのです。健康を祈ります。」

30:さて、彼ら一同は見 送りを受け て出発し、アンティオキアに到着すると、信者全体を集めて手紙を手渡した。

31:彼らはそれを読み、 励ましに満 ちた決定を知って喜んだ。

32:ユダとシラスは預言 する者でも あったので、いろいろと話をして兄弟たちを励まし力づけ、

33:しばらくここに滞在 した後、兄 弟たちから送別の挨拶を受けて見送られ、自分たちを派遣した人々のところへ帰って行った。

34>:しかし、シ ラスはそこ にとどまることにした。  (底本に節が欠けている個所の異本による訳文)

35:しかし、パウロとバ ルナバはア ンティオキアにとどまって教え、他の多くの人と一緒に主の言葉の福音を告げ知らせた。

 

◆パウロ、バルナバとは別 に宣教を開 始する

36:数日の後、パウロは バルナバに 言った。「さあ、前に主の言葉を宣べ伝えたすべての町へもう一度行って兄弟たちを訪問し、どのようにしているかを見て来ようではないか。」

37:バルナバは、マルコ と呼ばれる ヨハネも連れて行きたいと思った。

38:しかしパウロは、前 にパンフィ リア州で自分たちから離れ、宣教に一緒に行かなかったような者は、連れて行くべきでないと考えた。

39:そこで、意見が激し く衝突し、 彼らはついに別行動をとるようになって、バルナバはマルコを連れてキプロス島へ向かって船出したが、

40:一方、パウロはシラ スを選び、 兄弟たちから主の恵みにゆだねられて、出発した。

41:そして、シリア州や キリキア州 を回って教会を力づけた。

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使徒言行録 第16章

◆テモテ、パウロに同行す る

1:パウロは、デルベにも リストラに も行った。そこに、信者のユダヤ婦人の子で、ギリシア人を父親に持つ、テモテという弟子がいた。

2:彼は、リストラとイコ ニオンの兄 弟の間で評判の良い人であった。

3:パウロは、このテモテ を一緒に連 れて行きたかったので、その地方に住むユダヤ人の手前、彼に割礼を授けた。父親がギリシア人であることを、皆が知っていたからである。

4:彼らは方々の町を巡回 して、エル サレムの使徒と長老たちが決めた規定を守るようにと、人々に伝えた。

5:こうして、教会は信仰 を強めら れ、日ごとに人数が増えていった。

◆マケドニア人の幻

6:さて、彼らはアジア州 で御言葉を 語ることを聖霊から禁じられたので、フリギア・ガラテヤ地方を通って行った。

7:ミシア地方の近くまで 行き、ビ ティニア州に入ろうとしたが、イエスの霊がそれを許さなかった。

8:それで、ミシア地方を 通ってトロ アスに下った。

9:その夜、パウロは幻を 見た。その 中で一人のマケドニア人が立って、「マケドニア州に渡って来て、わたしたちを助けてください」と言ってパウロに願った。

10:パウロがこの幻を見 たとき、わ たしたちはすぐにマケドニアへ向けて出発することに�オた。マケドニア人に福音を告げ知らせるために、神がわたしたちを召されているのだと、確信するに 至ったからである。

◆フィリピで

11:わたしたちはトロア スから船出 してサモトラケ島に直航し、翌日ネアポリスの港に着き、

12:そこから、マケドニ ア州第一区 の都市で、ローマの植民都市であるフィリピに行った。そして、この町に数日間滞在した。

13:安息日に町の門を出 て、祈りの 場所があると思われる川岸に行った。そして、わたしたちもそこに座って、集まっていた婦人たちに話をした。

14:ティアティラ市出身 の紫布を商 う人で、神をあがめるリディアという婦人も話を聞いていたが、主が彼女の心を開かれたので、彼女はパウロの話を注意深く聞いた。

15:そして、彼女も家族 の者も洗礼 を受けたが、そのとき、「私が主を信じる者だとお思いでしたら、どうぞ、私の家に来てお泊まりください」と言ってわたしたちを招待し、無理に承知させた。

◆パウロたち、投獄される

16:わたしたちは、祈り の場所に行 く途中、占いの霊に取りつかれている女奴隷に出会った。この女は、占いをして主人たちに多くの利益を得させていた。

17:彼女は、パウロやわ たしたちの 後ろについて来てこう叫ぶのであった。「この人たちは、いと高き神の僕で、皆さんに救いの道を宣べ伝えているのです。」

18:彼女がこんなことを 幾日も繰り 返すので、パウロはたまりかねて振り向き、その霊に言った。「イエス・キリストの名によって命じる。この女から出て行け。」すると即座に、霊が彼女から出 て行った。

19:ところが、この女の 主人たち は、金もうけの望みがなくなってしまったことを知り、パウロとシラスを捕らえ、役人に引き渡すために広場へ引き立てて行った。

20:そして、二人を高官 たちに引き 渡してこう言った。「この者たちはユダヤ人で、わたしたちの町を混乱させております。

21:ローマ帝国の市民で あるわたし たちが受け入れることも、実行することも許されない風習を宣伝しております。」

22:群衆も一緒になって 二人を責め 立てたので、高官たちは二人の衣服をはぎ取り、「鞭で打て」と命じた。

23:そして、何度も鞭で 打ってから 二人を牢に投げ込み、看守に厳重に見張るように命じた。

24:この命令を受けた看 守は、二人 をいちばん奥の牢に入れて、足には木の足枷をはめておいた。

25:真夜中ごろ、パウロ とシラスが 賛美の歌をうたって神に祈っていると、ほかの囚人たちはこれに聞き入っていた。

26:突然、大地震が起こ り、牢の土 台が揺れ動いた。たちまち牢の戸がみな開き、すべての囚人の鎖も外れてしまった。

27:目を覚ました看守 は、牢の戸が 開いているのを見て、囚人たちが逃げてしまったと思い込み、剣を抜いて自殺しようとした。

28:パウロは大声で叫ん だ。「自害 してはいけない。わたしたちは皆ここにいる。」

29:看守は、明かりを 持って来させ て牢の中に飛び込み、パウロとシラスの前に震えながらひれ伏し、

30:二人を外へ連れ出し て言った。 「先生方、救われるためにはどうすべきでしょうか。」

31:二人は言った。「主 イエスを信 じなさい。そうすれば、あなたも家族も救われます。」

32:そして、看守とその 家の人たち 全部に主の言葉を語った。

33:まだ真夜中であった が、看守は 二人を連れて行って打ち傷を洗ってやり、自分も家族の者も皆すぐに洗礼を受けた。

34:この後、二人を自分 の家に案内 して食事を出し、神を信じる者になったことを家族ともども喜んだ。

35:朝になると、高官た ちは下役た ちを差し向けて、「あの者どもを釈放せよ」と言わせた。

36:それで、看守はパウ ロにこの言 葉を伝えた。「高官たちが、あなたがたを釈放するようにと、言ってよこしました。さあ、牢から出て、安心して行きなさい。」

37:ところが、パウロは 下役たちに 言った。「高官たちは、ローマ帝国の市民権を持つわたしたちを、裁判にもかけずに公衆の面前で鞭打ってから投獄したのに、今ひそかに釈放しようとするの か。いや、それはいけない。高官たちが自分でここへ来て、わたしたちを連れ出すべきだ。」

38:下役たちは、この言 葉を高官た ちに報告した。高官たちは、二人がローマ帝国の市民権を持つ者であると聞いて恐れ、

39:出向いて来てわびを 言い、二人 を牢から連れ出し、町から出て行くように頼んだ。

40:牢を出た二人は、リ ディアの家 に行って兄弟たちに会い、彼らを励ましてから出発した。

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使徒言行録 第17章

◆テサロニケでの騒動

1:パウロとシラスは、ア ンフィポリ スとアポロニアを経てテサロニケに着いた。ここにはユダヤ人の会堂があった。

2:パウロはいつものよう に、ユダヤ 人の集まっているところへ入って行き、三回の安息日にわたって聖書を引用して論じ合い、

3:「メシアは必ず苦しみ を受け、死 者の中から復活することになっていた」と、また、「このメシアはわたしが伝えているイエスである」と説明し、論証した。

4:それで、彼らのうちの ある者は信 じて、パウロとシラスに従った。神をあがめる多くのギリシア人や、かなりの数のおもだった婦人たちも同じように二人に従った。

5:しかし、ユダヤ人たち はそれをね たみ、広場にたむろしているならず者を何人か抱き込んで暴動を起こし、町を混乱させ、ヤソンの家を襲い、二人を民衆の前に引き出そうとして捜した。

6:しかし、二人が見つか らなかった ので、ヤソンと数人の兄弟を町の当局者たちのところへ引き立てて行って、大声で言った。「世界中を騒がせてきた連中が、ここにも来ています。

7:ヤソンは彼らをかく まっているの です。彼らは皇帝の勅令に背いて、『イエスという別の王がいる』と言っています。」

8:これを聞いた群衆と町 の当局者た ちは動揺した。

9:当局者たちは、ヤソン やほかの者 たちから保証金を取ったうえで彼らを釈放した。

◆ベレアで

10:兄弟たちは、直ちに 夜のうちに パウロとシラスをベレアへ送り出した。二人はそこへ到着すると、ユダヤ人の会堂に入った。

11:ここのユダヤ人たち は、テサロ ニケのユダヤ人よりも素直で、非常に熱心に御言葉を受け入れ、そのとおりかどうか、毎日、聖書を調べていた。

12:そこで、そのうちの 多くの人が 信じ、ギリシア人の上流婦人や男たちも少なからず信仰に入った。

13:ところが、テサロニ ケのユダヤ 人たちは、ベレアでもパウロによって神の言葉が宣べ伝えられていることを知ると、そこへも押しかけて来て、群衆を扇動し騒がせた。

14:それで、兄弟たちは 直ちにパウ ロを送り出して、海岸の地方へ行かせたが、シラスとテモテはベレアに残った。

15:パウロに付き添った 人々は、彼 をアテネまで連れて行った。そしてできるだけ早く来るようにという、シラスとテモテに対するパウロの指示を受けて帰って行った。

◆アテネで

16:パウロはアテネで二 人を待って いる間に、この町の至るところに偶像があるのを見て憤慨した。

17:それで、会堂ではユ ダヤ人や神 をあがめる人々と論じ、また、広場では居合わせた人々と毎日論じ合っていた。

18:また、エピクロス派 やストア派 の幾人かの哲学者もパウロと討論したが、その中には、「このおしゃべりは、何を言いたいのだろうか」と言う者もいれば、「彼は外国の神々の宣伝をする者ら しい」と言う者もいた。パウロが、イエスと復活について福音を告げ知らせていたからである。

19:そこで、彼らはパウ ロをアレオ パゴスに連れて行き、こう言った。「あなたが説いているこの新しい教えがどんなものか、知らせてもらえないか。

20:奇妙なことをわたし たちに聞か せているが、それがどんな意味なのか知りたいのだ。」

21:すべてのアテネ人や そこに在留 する外国人は、何か新しいことを話したり聞いたりすることだけで、時を過ごしていたのである。

22:パウロは、アレオパ ゴスの真ん 中に立って言った。「アテネの皆さん、あらゆる点においてあなたがたが信仰のあつい方であることを、わたしは認めます。

23:道を歩きながら、あ なたがたが 拝むいろいろなものを見ていると、『知られざる神に』と刻まれている祭壇さえ見つけたからです。それで、あなたがたが知らずに拝んでいるもの、それをわた しはお知らせしましょう。

24:世界とその中の万物 とを造られ た神が、その方です。この神は天地の主ですから、手で造った神殿などにはお住みになりません。

25:また、何か足りない ことでもあ るかのように、人の手によって仕えてもらう必要もありません。すべての人に命と息と、その他すべてのものを与えてくださるのは、この神だからです。

26:神は、一人の人から すべての民 族を造り出して、地上の至るところに住まわせ、季節を決め、彼らの居住地の境界をお決めになりました。

27:これは、人に神を求 めさせるた めであり、また、彼らが探し求めさえすれば、神を見いだすことができるようにということなのです。実際、神はわたしたち一人一人から遠く離れてはおられま せん。

28:皆さんのうちのある 詩人たち も、/『我らは神の中に生き、動き、存在する』/『我らもその子孫である』と、/言っているとおりです。

29:わたしたちは神の子 孫なのです から、神である方を、人間の技や考えで造った金、銀、石などの像と同じものと考えてはなりません。

30:さて、神はこのよう な無知な時 代を、大目に見てくださいましたが、今はどこにいる人でも皆悔い改めるようにと、命じておられます。

31:それは、先にお選び になった一 人の方によって、この世を正しく裁く日をお決めになったからです。神はこの方を死者の中から復活させて、すべての人にそのことの確証をお与えになったので す。」

32:死者の復活というこ とを聞く と、ある者はあざ笑い、ある者は、「それについては、いずれまた聞かせてもらうことにしよう」と言った。

33:それで、パウロはそ の場を立ち 去った。

34:しかし、彼について 行って信仰 に入った者も、何人かいた。その中にはアレオパゴスの議員ディオニシオ、またダマリスという婦人やその他の人々もいた。

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使徒言行録 第18章

◆コリントで

1:その後、パウロはアテ ネを去って コリントへ行った。

2:ここで、ポントス州出 身のアキラ というユダヤ人とその妻プリスキラに出会った。クラウディウス帝が全ユダヤ人をローマから退去させるようにと命令したので、最近イタリアから来たのであ る。パウロはこの二人を訪ね、

3:職業が同じであったの で、彼らの 家に住み込んで、一緒に仕事をした。その職業はテント造りであった。

4:パウロは安息日ごとに 会堂で論 じ、ユダヤ人やギリシア人の説得に努めていた。

5:シラスとテモテがマケ ドニア州か らやって来ると、パウロは御言葉を語ることに専念し、ユダヤ人に対してメシアはイエスであると力強く証しした。

6:しかし、彼らが反抗 し、口汚くの のしったので、パウロは服の塵を振り払って言った。「あなたたちの血は、あなたたちの頭に降りかかれ。わたしには責任がない。今後、わたしは異邦人の方へ 行く。」

7:パウロはそこを去り、 神をあがめ るティティオ・ユストという人の家に移った。彼の家は会堂の隣にあった。

8:会堂長のクリスポは、 一家をあげ て主を信じるようになった。また、コリントの多くの人々も、パウロの言葉を聞いて信じ、洗礼を受けた。

9:ある夜のこと、主は幻 の中でパウ ロにこう言われた。「恐れるな。語り続けよ。黙っているな。

10:わたしがあなたと共 にいる。だ から、あなたを襲って危害を加える者はない。この町には、わたしの民が大勢いるからだ。」

11:パウロは一年六か月 の間ここに とどまって、人々に神の言葉を教えた。

12:ガリオンがアカイア 州の地方総 督であったときのことである。ユダヤ人たちが一団となってパウロを襲い、法廷に引き立てて行って、

13:「この男は、律法に 違反するよ うなしかたで神をあがめるようにと、人々を唆しております」と言った。

14:パウロが話し始めよ うとしたと き、ガリオンはユダヤ人に向かって言った。「ユダヤ人諸君、これが不正な行為とか悪質な犯罪とかであるならば、当然諸君の訴えを受理するが、

15:問題が教えとか名称 とか諸君の 律法に関するものならば、自分たちで解決するがよい。わたしは、そんなことの審判者になるつもりはない。」

16:そして、彼らを法廷 から追い出 した。

17:すると、群衆は会堂 長のソステ ネを捕まえて、法廷の前で殴りつけた。しかし、ガリオンはそれに全く心を留めなかった。

◆パウロ、アンティオキア に戻る

18:パウロは、なおしば らくの間こ こに滞在したが、やがて兄弟たちに別れを告げて、船でシリア州へ旅立った。プリスキラとアキラも同行した。パウロは誓願を立てていたので、ケンクレアイで 髪を切った。

19:一行がエフェソに到 着したと き、パウロは二人をそこに残して自分だけ会堂に入り、ユダヤ人と論じ合った。

20:人々はもうしばらく 滞在するよ うに願ったが、パウロはそれを断り、

21:「神の御心ならば、 また戻って 来ます」と言って別れを告げ、エフェソから船出した。

22:カイサリアに到着し て、教会に 挨拶をするためにエルサレムへ上り、アンティオキアに下った。

23:パウロはしばらくこ こで過ごし た後、また旅に出て、ガラテヤやフリギアの地方を次々に巡回し、すべての弟子たちを力づけた。

◆アポロ、エフェソで宣教 する

24:さて、アレクサンド リア生まれ のユダヤ人で、聖書に詳しいアポロという雄弁家が、エフェソに来た。

25:彼は主の道を受け入 れており、 イエスのことについて熱心に語り、正確に教えていたが、ヨハネの洗礼しか知らなかった。

26:このアポロが会堂で 大胆に教え 始めた。これを聞いたプリスキラとアキラは、彼を招いて、もっと正確に神の道を説明した。

27:それから、アポロが アカイア州 に渡ることを望んでいたので、兄弟たちはアポロを励まし、かの地の弟子たちに彼を歓迎してくれるようにと手紙を書いた。アポロはそこへ着くと、既に恵みに よって信じていた人々を大いに助けた。

28:彼が聖書に基づい て、メシアは イエスであると公然と立証し、激しい語調でユダヤ人たちを説き伏せたからである。

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使徒言行録 第19章

◆エフェソで

1:アポロがコリントにい たときのこ とである。パウロは、内陸の地方を通ってエフェソに下って来て、何人かの弟子に出会い、

2:彼らに、「信仰に入っ たとき、聖 霊を受けましたか」と言うと、彼らは、「いいえ、聖霊があるかどうか、聞いたこともありません」と言った。

3:パウロが、「それな ら、どんな洗 礼を受けたのですか」と言うと、「ヨハネの洗礼です」と言った。

4:そこで、パウロは言っ た。「ヨハ ネは、自分の後から来る方、つまりイエスを信じるようにと、民に告げて、悔い改めの洗礼を授けたのです。」

5:人々はこれを聞いて主 イエスの名 によって洗礼を受けた。

6:パウロが彼らの上に手 を置くと、 聖霊が降り、その人たちは異言を話したり、預言をしたりした。

7:この人たちは、皆で十 二人ほどで あった。

8:パウロは会堂に入っ て、三か月 間、神の国のことについて大胆に論じ、人々を説得しようとした。

9:しかしある者たちが、 かたくなで 信じようとはせず、会衆の前でこの道を非難したので、パウロは彼らから離れ、弟子たちをも退かせ、ティラノという人の講堂で毎日論じていた。

10:このようなことが二 年も続いた ので、アジア州に住む者は、ユダヤ人であれギリシア人であれ、だれもが主の言葉を聞くことになった。

◆ユダヤ人の祈祷師たち

11:神は、パウロの手を 通して目覚 ましい奇跡を行われた。

12:彼が身に着けていた 手ぬぐいや 前掛けを持って行って病人に当てると、病気はいやされ、悪霊どもも出て行くほどであった。

13:ところが、各地を巡 り歩くユダ ヤ人の祈祷師たちの中にも、悪霊どもに取りつかれている人々に向かい、試みに、主イエスの名を唱えて、「パウロが宣べ伝えているイエスによって、お前たち に命じる」と言う者があった。

14:ユダヤ人の祭司長ス ケワという 者の七人の息子たちがこんなことをしていた。

15:悪霊は彼らに言い返 した。「イ エスのことは知っている。パウロのこともよく知っている。だが、いったいお前たちは何者だ。」

16:そして、悪霊に取り つかれてい る男が、この祈祷師たちに飛びかかって押さえつけ、ひどい目に遭わせたので、彼らは裸にされ、傷つけられて、その家から逃げ出した。

17:このことがエフェソ に住むユダ ヤ人やギリシア人すべてに知れ渡ったので、人々は皆恐れを抱き、主イエスの名は大いにあがめられるようになった。

18:信仰に入った大勢の 人が来て、 自分たちの悪行をはっきり告白した。

19:また、魔術を行って いた多くの 者も、その書物を持って来て、皆の前で焼き捨てた。その値段を見積もってみると、銀貨五万枚にもなった。

20:このようにして、主 の言葉はま すます勢いよく広まり、力を増していった。

◆エフェソでの騒動

21:このようなことが あった後、パ ウロは、マケドニア州とアカイア州を通りエルサレムに行こうと決心し、「わたしはそこへ行った後、ローマも見なくてはならない」と言った。

22:そして、自分に仕え �トいる者 の中から、テモテとエラストの二人をマケドニア州に送り出し、彼自身はしばらくアジア州にとどまっていた。

23:そのころ、この道の ことでただ ならぬ騒動が起こった。

24:そのいきさつは次の とおりであ る。デメトリオという銀細工師が、アルテミスの神殿の模型を銀で造り、職人たちにかなり利益を得させていた。

25:彼は、この職人たち や同じよう な仕事をしている者たちを集めて言った。「諸君、御承知のように、この仕事のお陰で、我々はもうけているのだが、

26:諸君が見聞きしてい るとおり、 あのパウロは『手で造ったものなどは神ではない』と言って、エフェソばかりでなくアジア州のほとんど全地域で、多くの人を説き伏せ、たぶらかしている。

27:これでは、我々の仕 事の評判が 悪くなってしまうおそれがあるばかりでなく、偉大な女神アルテミスの神殿もないがしろにされ、アジア州全体、全世界があがめるこの女神の御威光さえも失わ れてしまうだろう。」

28:これを聞いた人々は ひどく腹を 立て、「エフェソ人のアルテミスは偉い方」と叫びだした。

29:そして、町中が混乱 してしまっ た。彼らは、パウロの同行者であるマケドニア人ガイオとアリスタルコを捕らえ、一団となって野外劇場になだれ込んだ。

30:パウロは群衆の中へ 入っていこ うとしたが、弟子たちはそうさせなかった。

31:他方、パウロの友人 でアジア州 の祭儀をつかさどる高官たちも、パウロに使いをやって、劇場に入らないようにと頼んだ。

32:さて、群衆はあれや これやとわ めき立てた。集会は混乱するだけで、大多数の者は何のために集まったのかさえ分からなかった。

33:そのとき、ユダヤ人 が前へ押し 出したアレクサンドロという男に、群衆の中のある者たちが話すように促したので、彼は手で制し、群衆に向かって弁明しようとした。

34:しかし、彼がユダヤ 人であると 知った群衆は一斉に、「エフェソ人のアルテミスは偉い方」と二時間ほども叫び続けた。

35:そこで、町の書記官 が群衆をな だめて言った。「エフェソの諸君、エフェソの町が、偉大なアルテミスの神殿と天から降って来た御神体との守り役であることを、知らない者はないのだ。

36:これを否定すること はできない のだから、静かにしなさい。決して無謀なことをしてはならない。

37:諸君がここへ連れて 来た者たち は、神殿を荒らしたのでも、我々の女神を冒涜したのでもない。

38:デメトリオと仲間の 職人が、だ れかを訴え出たいのなら、決められた日に法廷は開かれるし、地方総督もいることだから、相手を訴え出なさい。

39:それ以外のことで更 に要求があ るなら、正式な会議で解決してもらうべきである。

40:本日のこの事態に関 して、我々 は暴動の罪に問われるおそれがある。この無秩序な集会のことで、何一つ弁解する理由はないからだ。」こう言って、書記官は集会を解散させた。

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使徒言行録 第20章

◆パウロ、マケドニア州と ギリシアに 行く

1:この騒動が収まった 後、パウロは 弟子たちを呼び集めて励まし、別れを告げてからマケドニア州へと出発した。

2:そして、この地方を巡 り歩き、言 葉を尽くして人々を励ましながら、ギリシアに来て、

3:そこで三か月を過ごし た。パウロ は、シリア州に向かって船出しようとしていたとき、彼に対するユダヤ人の陰謀があったので、マケドニア州を通って帰ることにした。

4:同行した者は、ピロの 子でベレア 出身のソパトロ、テサロニケのアリスタルコとセクンド、デルベのガイオ、テモテ、それにアジア州出身のティキコとトロフィモであった。

5:この人たちは、先に出 発してトロ アスでわたしたちを待っていたが、

6:わたしたちは、除酵祭 の後フィリ ピから船出し、五日でトロアスに来て彼らと落ち合い、七日間そこに滞在した。

◆パウロ、若者を生き返ら せる

7:週の初めの日、わたし たちがパン を裂くために集まっていると、パウロは翌日出発する予定で人々に話をしたが、その話は夜中まで続いた。

8:わたしたちが集まって いた階上の 部屋には、たくさんのともし火がついていた。

9:エウティコという青年 が、窓に腰 を掛けていたが、パウロの話が長々と続いたので、ひどく眠気を催し、眠りこけて三階から下に落ちてしまった。起こしてみると、もう死んでいた。

10:パウロは降りて行 き、彼の上に かがみ込み、抱きかかえて言った。「騒ぐな。まだ生きている。」

11:そして、また上に 行って、パン を裂いて食べ、夜明けまで長い間話し続けてから出発した。

12:人々は生き返った青 年を連れて 帰り、大いに慰められた。

◆トロアスからミレトスま での船旅

13:さて、わたしたちは 先に船に乗 り込み、アソスに向けて船出した。パウロをそこから乗船させる予定であった。これは、パウロ自身が徒歩で旅行するつもりで、そう指示しておいたからであ る。

14:アソスでパウロと落 ち合ったの で、わたしたちは彼を船に乗せてミティレネに着いた。

15:翌日、そこを船出 し、キオス島 の沖を過ぎ、その次の日サモス島に寄港し、更にその翌日にはミレトスに到着した。

16:パウロは、アジア州 で時を費や さないように、エフェソには寄らないで航海することに決めていたからである。できれば五旬祭にはエルサレムに着いていたかったので、旅を急いだのである。

◆エフェソの長老たちに別 れを告げる

17:パウロはミレトスか らエフェソ に人をやって、教会の長老たちを呼び寄せた。

18:長老たちが集まって 来たとき、 パウロはこう話した。「アジア州に来た最初の日以来、わたしがあなたがたと共にどのように過ごしてきたかは、よくご存じです。

19:すなわち、自分を全 く取るに足 りない者と思い、涙を流しながら、また、ユダヤ人の数々の陰謀によってこの身にふりかかってきた試練に遭いながらも、主にお仕えしてきました。

20:役に立つことは一つ 残らず、公 衆の面前でも方々の家でも、あなたがたに伝え、また教えてきました。

21:神に対する悔い改め と、わたし たちの主イエスに対する信仰とを、ユダヤ人にもギリシア人にも力強く証ししてきたのです。

22:そして今、わたし は、“霊”に 促されてエルサレムに行きます。そこでどんなことがこの身に起こるか、何も分かりません。

23:ただ、投獄と苦難と がわたしを 待ち受けているということだけは、聖霊がどこの町でもはっきり告げてくださっています。

24:しかし、自分の決め られた道を 走りとおし、また、主イエスからいただいた、神の恵みの福音を力強く証しするという任務を果たすことができさえすれば、この命すら決して惜しいとは思いま せん。

25:そして今、あなたが たが皆もう 二度とわたしの顔を見ることがないとわたしには分かっています。わたしは、あなたがたの間を巡回して御国を宣べ伝えたのです。

26:だから、特に今日 はっきり言い ます。だれの血についても、わたしには責任がありません。

27:わたしは、神の御計 画をすべ て、ひるむことなくあなたがたに伝えたからです。

28:どうか、あなたがた 自身と群れ 全体とに気を配ってください。聖霊は、神が御子の血によって御自分のものとなさった神の教会の世話をさせるために、あなたがたをこの群れの監督者に任命な さったのです。

29:わたしが去った後 に、残忍な狼 どもがあなたがたのところへ入り込んで来て群れを荒らすことが、わたしには分かっています。

30:また、あなたがた自 身の中から も、邪説を唱えて弟子たちを従わせようとする者が現れます。

31:だから、わたしが三 年間、あな たがた一人一人に夜も昼も涙を流して教えてきたことを思い起こして、目を覚ましていなさい。

32:そして今、神とその 恵みの言葉 とにあなたがたをゆだねます。この言葉は、あなたがたを造り上げ、聖なる者とされたすべての人々と共に恵みを受け継がせることができるのです。

33:わたしは、他人の金 銀や衣服を むさぼったことはありません。

34:ご存じのとおり、わ たしはこの 手で、わたし自身の生活のためにも、共にいた人々のためにも働いたのです。

35:あなたがたもこのよ うに働いて 弱い者を助けるように、また、主イエス御自身が『受けるよりは与える方が幸いである』と言われた言葉を思い出すようにと、わたしはいつも身をもって示して きました。」

36:このように話してか ら、パウロ は皆と一緒にひざまずいて祈った。

37:人々は皆激しく泣 き、パウロの 首を抱いて接吻した。

38:特に、自分の顔をも う二度と見 ることはあるまいとパウロが言ったので、非常に悲しんだ。人々はパウロを船まで見送りに行った。

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使徒言行録 第21章


◆パウロ、エルサレムへ行く
1:わたしたちは人々に別れを告げて 船出し、コス島に直航した。翌日 ロドス島に着き、そこからパタラに渡り、
2:フェニキアに行く船を見つけたの で、それに乗って出発した。
3:やがてキプロス島が見えてきた が、それを左にして通り過ぎ、シリ ア州に向かって船旅を続けてティルスの港に着いた。ここで船は、 荷物を陸揚げすることになっていたのである。
4:わたしたちは弟子たちを探し出し て、そこに七日間泊まった。彼ら は“霊”に動かされ、エルサレムへ行かないようにと、パウロに繰 り返して言った。
5:しかし、滞在期間が過ぎたとき、 わたしたちはそこを去って旅を続 けることにした。彼らは皆、妻や子供を連れて、町外れまで見送り に来てくれた。そして、共に浜辺にひざまずいて祈り、
6:互いに別れの挨拶を交わし、わた したちは船に乗り込み、彼らは自 分の家に戻って行った。
7:わたしたちは、ティルスから航海 を続けてプトレマイスに着き、兄 弟たちに挨拶して、彼らのところで一日を過ごした。
8:翌日そこをたってカイサリアに赴 き、例の七人の一人である福音宣 教者フィリポの家に行き、そこに泊まった。
9:この人には預言をする四人の未婚 の娘がいた。
10:幾日か滞在していたとき、ユダ ヤからアガボという預言する者が下 って来た。
11:そして、わたしたちのところに 来て、パウロの帯を取り、それで自 分の手足を縛って言った。「聖霊がこうお告げになっている。『エ ルサレムでユダヤ人は、この帯の持ち主をこのように縛って異邦人 の手に引き渡す。』」
12:わたしたちはこれを聞き、土地 の人と一緒になって、エルサレムへ は上らないようにと、パウロにしきりに頼んだ。
13:そのとき、パウロは答えた。 「泣いたり、わたしの心をくじいたり、 いったいこれはどういうことですか。主イエスの名のためならば、 エルサレムで縛られることばかりか死ぬことさえも、わたしは覚悟 しているのです。」
14:パウロがわたしたちの勧めを聞 き入れようとしないので、わたした ちは、「主の御心が行われますように」と言って、口をつぐんだ。
15:数日たって、わたしたちは旅の 準備をしてエルサレムに上った。
16:カイサリアの弟子たちも数人同 行して、わたしたちがムナソンとい う人の家に泊まれるように案内してくれた。ムナソンは、キプロス 島の出身で、ずっと以前から弟子であった。
◆パウロ、ヤコブを訪ねる
17:わたしたちがエルサレムに着く と、兄弟たちは喜んで迎えてくれた。
18:翌日、パウロはわたしたちを連 れてヤコブを訪ねたが、そこには長 老が皆集まっていた。
19:パウロは挨拶を済ませてから、 自分の奉仕を通して神が異邦人の間 で行われたことを、詳しく説明した。
20:これを聞いて、人々は皆神を賛 美し、パウロに言った。「兄弟よ、 ご存じのように、幾万人ものユダヤ人が信者になって、皆熱心に律 法を守っています。
21:この人たちがあなたについて聞 かされているところによると、あな たは異邦人の間にいる全ユダヤ人に対して、『子供に割礼を施すな。 慣習に従うな』と言って、モーセから離れるように教えているとの ことです。
22:いったい、どうしたらよいで しょうか。彼らはあなたの来られたこ とをきっと耳にします。
23:だから、わたしたちの言うとお りにしてください。わたしたちの中 に誓願を立てた者が四人います。
24:この人たちを連れて行って一緒 に身を清めてもらい、彼らのために 頭をそる費用を出してください。そうすれば、あなたについて聞か されていることが根も葉もなく、あなたは律法を守って正しく生活 している、ということがみんなに分かります。
25:また、異邦人で信者になった人 たちについては、わたしたちは既に 手紙を書き送りました。それは、偶像に献げた肉と、血と、絞め殺 した動物の肉とを口にしないように、また、みだらな行いを避ける ようにという決定です。」
26:そこで、パウロはその四人を連 れて行って、翌日一緒に清めの式を 受けて神殿に入り、いつ清めの期間が終わって、それぞれのために 供え物を献げることができるかを告げた。
◆パウロ、神殿の境内で逮捕される
27:七日の期間が終わろうとしてい たとき、アジア州から来たユダヤ人 たちが神殿の境内でパウロを見つけ、全群衆を扇動して彼を捕らえ、
28:こう叫んだ。「イスラエルの人 たち、手伝ってくれ。この男は、民 と律法とこの場所を無視することを、至るところでだれにでも教え ている。その上、ギリシア人を境内に連れ込んで、この聖なる場所 を汚してしまった。」
29:彼らは、エフェソ出身のトロ フィモが前に都でパウロと一緒にいた のを見かけたので、パウロが彼を境内に連れ込んだのだと思ったか らである。
30:それで、都全体は大騒ぎにな り、民衆は駆け寄って来て、パウロを 捕らえ、境内から引きずり出した。そして、門はどれもすぐに閉ざ された。
31:彼らがパウロを殺そうとしてい たとき、エルサレム中が混乱状態に 陥っているという報告が、守備大隊の千人隊長のもとに届いた。
32:千人隊長は直ちに兵士と百人隊 長を率いて、その場に駆けつけた。 群衆は千人隊長と兵士を見ると、パウロを殴るのをやめた。
33:千人隊長は近寄ってパウロを捕 らえ、二本の鎖で縛るように命じた。 そして、パウロが何者であるのか、また、何をしたのかと尋ねた。
34:しかし、群衆はあれやこれやと 叫び立てていた。千人隊長は、騒々 しくて真相をつかむことができないので、パウロを兵営に連れて行 くように命じた。
35:パウロが階段にさしかかったと き、群衆の暴行を避けるために、兵 士たちは彼を担いで行かなければならなかった。
36:大勢の民衆が、「その男を殺し てしまえ」と叫びながらついて来た からである。
◆パウロ、弁明する
37:パウロは兵営の中に連れて行か れそうになったとき、「ひと言お話 ししてもよいでしょうか」と千人隊長に言った。すると、千人隊長 が尋ねた。「ギリシア語が話せるのか。
38:それならお前は、最近反乱を起 こし、四千人の暗殺者を引き連れて 荒れ野へ行った、あのエジプト人ではないのか。」
39:パウロは言った。「わたしは確 かにユダヤ人です。キリキア州のれ っきとした町、タルソスの市民です。どうか、この人たちに話をさ せてください。」
40:千人隊長が許可したので、パウ ロは階段の上に立ち、民衆を手で制 した。すっかり静かになったとき、パウロはヘブライ語で話し始め た。

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使 徒言行録 第22

  1:「兄弟であり父である皆さん、これから申し上げる弁明を聞いてください。」
  2:パウロがヘブライ語で話すのを聞いて、人々はますます静かになった。パウロは言った。
  3:「わたしは、キリキア州のタルソスで生まれたユダヤ人です。そして、この都で育ち、ガマリエルのもとで先祖の律法について厳しい教育 を受け、今日の皆さんと同じように、熱心に神に仕えていました。
  4:わたしはこの道を迫害し、男女を問わず縛り上げて獄に投じ、殺すことさえしたのです。
  5:このことについては、大祭司も長老会全体も、わたしのために証言してくれます。実は、この人たちからダマスコにいる同志にあてた手紙 までもらい、その地にいる者たちを縛り上げ、エルサレムへ連行して処罰するために出かけて行ったのです。」
◆パウロ、自分の回心を話す
  6:「旅を続けてダマスコに近づいたときのこと、真昼ごろ、突然、天から強い光がわたしの周りを照らしました。
  7:わたしは地面に倒れ、『サウル、サウル、なぜ、わたしを迫害するのか』と言う声を聞いたのです。
  8:『主よ、あなたはどなたですか』と尋ねると、『わたしは、あなたが迫害しているナザレのイエスである』と答えがありました。
  9:一緒にいた人々は、その光は見たのですが、わたしに話しかけた方の声は聞きませんでした。
 10:『主よ、どうしたらよいでしょうか』と申しますと、主は、『立ち上がってダマスコへ行け。しなければならないことは、すべてそこで知 らされる』と言われました。
 11:わたしは、その光の輝きのために目が見えなくなっていましたので、一緒にいた人たちに手を引かれて、ダマスコに入りました。
 12:ダマスコにはアナニアという人がいました。律法に従って生活する信仰深い人で、そこに住んでいるすべてのユダヤ人の中で評判の良い人 でした。
 13:この人がわたしのところに来て、そばに立ってこう言いました。『兄弟サウル、元どおり見えるようになりなさい。』するとそのとき、わ たしはその人が見えるようになったのです。
 14:アナニアは言いました。『わたしたちの先祖の神が、あなたをお選びになった。それは、御心を悟らせ、あの正しい方に会わせて、その口 からの声を聞かせるためです。
 15:あなたは、見聞きしたことについて、すべての人に対してその方の証人となる者だからです。
 16:今、何をためらっているのです。立ち上がりなさい。その方の名を唱え、洗礼を受けて罪を洗い清めなさい。』」
◆パウロ、異邦人のための宣教者となる
 17:「さて、わたしはエルサレムに帰って来て、神殿で祈っていたとき、我を忘れた状態になり、
18:主にお会いしたのです。主は言われまし た。『急げ。すぐエルサレムから出て行け。わたしについてあなたが証しすることを、人々が受け入れないからである。』
 19:わたしは申しました。『主よ、わたしが会堂から会堂へと回って、あなたを信じる者を投獄したり、鞭で打ちたたいたりしていたことを、 この人々は知っています。
 20:また、あなたの証人ステファノの血が流されたとき、わたしもその場にいてそれに賛成し、彼を殺す者たちの上着の番もしたのです。』
 21:すると、主は言われました。『行け。わたしがあなたを遠く異邦人のために遣わすのだ。』」
◆パウロと千人隊長
 22:パウロの話をここまで聞いた人々は、声を張り上げて言った。「こんな男は、地上から除いてしまえ。生かしてはおけない。」
 23:彼らがわめき立てて上着を投げつけ、砂埃を空中にまき散らすほどだったので、
 24:千人隊長はパウロを兵営に入れるように命じ、人々がどうしてこれほどパウロに対してわめき立てるのかを知るため、鞭で打ちたたいて調 べるようにと言った。
 25:パウロを鞭で打つため、その両手を広げて縛ると、パウロはそばに立っていた百人隊長に言った。「ローマ帝国の市民権を持つ者を、裁判 にかけずに鞭で打ってもよいのですか。」
 26:これを聞いた百人隊長は、千人隊長のところへ行って報告した。「どうなさいますか。あの男はローマ帝国の市民です。」
 27:千人隊長はパウロのところへ来て言った。「あなたはローマ帝国の市民なのか。わたしに言いなさい。」パウロは、「そうです」と言っ た。
 28:千人隊長が、「わたしは、多額の金を出してこの市民権を得たのだ」と言うと、パウロは、「わたしは生まれながらローマ帝国の市民で す」と言った。
 29:そこで、パウロを取り調べようとしていた者たちは、直ちに手を引き、千人隊長もパウロがローマ帝国の市民であること、そして、彼を 縛ってしまったことを知って恐ろしくなった。
◆パウロ、最高法院で取り調べを受ける
 30:
翌日、千人隊長は、なぜパウロがユダヤ人から訴えられているのか、確かなことを知りたいと思い、彼の鎖を外 した。そして、祭司長たち と最高法院全体の召集を命じ、パウロを連れ出して彼らの前に立たせた。                                                                ▲戻る

使 徒言行録 第23

1:そこで、パウロは最高法院の議員たちを見つめて 言った。「兄弟たち、わたし は今日に至るまで、あくまでも良心に従って神の前で生きてきました。」
  2:すると、大祭司アナニアは、パウロの近くに立っていた者たちに、彼の口を打つように命じた。
  3:パウロは大祭司に向かって言った。「白く塗った壁よ、神があなたをお打ちになる。あなたは、律法に従ってわたしを裁くためにそこに座っていながら、律 法に背いて、わたしを打て、と命令するのですか。」
  4:近くに立っていた者たちが、「神の大祭司をののしる気か」と言った。
  5:パウロは言った。「兄弟たち、その人が大祭司だとは知りませんでした。確かに『あなたの民の指導者を悪く言うな』と書かれています。」
  6:パウロは、議員の一部がサドカイ派、一部がファリサイ派であることを知って、議場で声を高めて言った。「兄弟たち、わたしは生ま
    れながらのファリサイ派です。死者が復活するという望みを抱いていることで、わたしは裁判にかけられているのです。」
  7:パウロがこう言ったので、ファリサイ派とサドカイ派との間に論争が生じ、最高法院は分裂した。
  8:サドカイ派は復活も天使も霊もないと言い、ファリサイ派はこのいずれをも認めているからである。
  9:そこで、騒ぎは大きくなった。ファリサイ派の数人の律法学者が立ち上がって激しく論じ、「この人には何の悪い点も見いだせない。霊か天使かが彼に話し かけたのだろうか」と言った。
 10:こうして、論争が激しくなったので、千人隊長は、パウロが彼 らに引き裂かれてしまうのではないかと心配し、兵士たちに、下りていって人々の中からパウロを力ずくで助け出し、兵営に連れて行くように命じた。
 11:その夜、主はパウロのそばに立って言われた。「勇気を出せ。 エルサレムでわたしのことを力強く証ししたように、ローマでも証しをしなければならない。
◆パウロ暗殺の陰謀
 12:夜が明けると、ユダヤ人たちは陰謀をたくらみ、パウロを殺す までは飲み食いしないという誓いを立てた。
 13:このたくらみに加わった者は、四十人以上もいた。
 14:彼らは、祭司長たちや長老たちのところへ行って、こう言っ た。「わたしたちは、パウロを殺すまでは何も食べないと、固く誓いました。
 15:ですから今、パウロについてもっと詳しく調べるという口実を 設けて、彼をあなたがたのところへ連れて来るように、最高法院と組んで千人隊長に願い出てください。わたしたちは、彼がここへ来る前に殺してしまう手はず を整えています。」
 16:しかし、この陰謀をパウロの姉妹の子が聞き込み、兵営の中に 入って来て、パウロに知らせた。
 17:それで、パウロは百人隊長の一人を呼んで言った。「この若者 を千人隊長のところへ連れて行ってください。何か知らせることがあるそうです。」
 18:そこで百人隊長は、若者を千人隊長のもとに連れて行き、こう 言った。「囚人パウロがわたしを呼んで、この若者をこちらに連れて来るようにと頼みました。何か話したいことがあるそうです。」
 19:千人隊長は、若者の手を取って人のいない所へ行き、「知らせ たいこととは何か」と尋ねた。
 20:若者は言った。「ユダヤ人たちは、パウロのことをもっと詳し く調べるという口実で、明日パウロを最高法院に連れて来るようにと、あなたに願い出ることに決めています。
 21:どうか、彼らの言いなりにならないでください。彼らのうち四 十人以上が、パウロを殺すまでは飲み食いしないと誓い、陰謀をたくらんでいるのです。そして、今その手はずを整えて、御承諾を待っているのです。」
 22:そこで千人隊長は、「このことをわたしに知らせたとは、だれ にも言うな」と命じて、若者を帰した。
◆パウロ、総督フェリクスのもとへ護送される
 23:千人隊長は百人隊長二人を呼び、「今夜九時カイサリアへ出発 できるように、歩兵二百名、騎兵七十名、補助兵二百名を準備せよ」と言った。
 24:また、馬を用意し、パウロを乗せて、総督フェリクスのもとへ 無事に護送するように命じ、
 25:次のような内容の手紙を書いた。
 26:「クラウディウス・リシアが総督フェリクス閣下に御挨拶申し 上げます。
 27:この者がユダヤ人に捕らえられ、殺されようとしていたのを、 わたしは兵士たちを率いて救い出しました。ローマ帝国の市民権を持つ者であることが分かったからです。
 28:そして、告発されている理由を知ろうとして、最高法院に連行 しました。
 29:ところが、彼が告発されているのは、ユダヤ人の律法に関する 問題であって、死刑や投獄に相当する理由はないことが分かりました。
 30:しかし、この者に対する陰謀があるという報告を受けましたの で、直ちに閣下のもとに護送いたします。告発人たちには、この者に関する件を閣下に訴え出るようにと、命じておきました。」
 31:さて、歩兵たちは、命令どおりにパウロを引き取って、夜のう ちにアンティパトリスまで連れて行き、
 32:翌日、騎兵たちに護送を任せて兵営へ戻った。
 33:騎兵たちはカイサリアに到着すると、手紙を総督に届け、パウ ロを引き渡した。
 34:総督は手紙を読んでから、パウロがどの州の出身であるかを尋 ね、キリキア州の出身だと分かると、
 35:「お前を告発する者たちが到着してから、尋問 することにす る」と言った。そして、ヘロデの官邸にパウロを留置しておくように命じた

 

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使 徒言行録 第24

◆パウロ、フェリクスの前で訴えられる
  1:五日の後、大祭司アナニアは、長老数名と弁護士テルティロという者を連れて下って来て、総督にパウロを訴え出た。 
  2‐3:パウロが呼び出されると、テルティロは告発を始めた。「フェリクス閣下、閣下のお陰で、私どもは十分に平和を享受しております。また、閣下の御配 慮によって、いろいろな改革がこの国で進められています。私どもは、あらゆる面で、至るところで、このことを認めて称賛申し上げ、また心から感謝している しだいです。
  4:さて、これ以上御迷惑にならないよう手短に申し上げます。御寛容をもってお聞きください。
  5:実は、この男は疫病のような人間で、世界中のユダヤ人の間に騒動を引き起こしている者、『ナザレ人の分派』の主謀者であります。
  6:この男は神殿さえも汚そうとしましたので逮捕いたしました。  
6b‐8a>:そして、私どもの律法によって裁こうとしたところ、 千人隊長リシアがやって来て、この男を無理やり私どもの手から引き離し、告発人たちには、閣下のところに来るようにと命じました。(底本に節が欠けている個所の異 本による訳文)
  8:閣下御自身でこの者をお調べくだされば、私どもの告発したことがすべてお分かりになるかと存じます。」
 9:他のユダヤ人たちもこの告発を支持し、そのとおりであると申し立てた。
◆パウロ、フェリクスの前で弁明する
 10:総督が、発言するように合図したので、パウロは答弁し た。「私は、閣下が多年この国民の裁判をつかさどる方であることを、存じ上げておりますので、私自身のことを喜んで弁明いたします。
 11:確かめていただけば分かることですが、私が礼拝のため エルサレムに上ってから、まだ十二日しかたっていません。
 12:神殿でも会堂でも町の中でも、この私がだれかと論争し たり、群衆を扇動したりするのを、だれも見た者はおりません。
 13:そして彼らは、私を告発している件に関し、閣下に対し て何の証拠も挙げることができません。
 14:しかしここで、はっきり申し上げます。私は、彼らが 『分派』と呼んでいるこの道に従って、先祖の神を礼拝し、また、律法に則したことと預言者の書に書いてあることを、ことごとく信じています。
 15:更に、正しい者も正しくない者もやがて復活するという 希望を、神に対して抱いています。この希望は、この人たち自身も同じように抱いております。
 16:こういうわけで私は、神に対しても人に対しても、責め られることのない良心を絶えず保つように努めています。
 17:さて、私は、同胞に救援金を渡すため、また、供え物を 献げるために、何年ぶりかで戻って来ました。
 18:私が清めの式にあずかってから、神殿で供え物を献げて いるところを、人に見られたのですが、別に群衆もいませんし、騒動もありませんでした。
 19:ただ、アジア州から来た数人のユダヤ人はいました。も し、私を訴えるべき理由があるというのであれば、この人たちこそ閣下のところに出頭して告発すべきだったのです。
 20:さもなければ、ここにいる人たち自身が、最高法院に出 頭していた私にどんな不正を見つけたか、今言うべきです。
 21:彼らの中に立って、『死者の復活のことで、私は今日あ なたがたの前で裁判にかけられているのだ』と叫んだだけなのです。」
 22:フェリクスは、この道についてかなり詳しく知っていた ので、「千人隊長リシアが下って来るのを待って、あなたたちの申し立てに対して判決を下すことにする」と言って裁判を延期した。
 23:そして、パウロを監禁するように、百人隊長に命じた。 ただし、自由をある程度与え、友人たちが彼の世話をするのを妨げないようにさせた。
◆パウロ、カイサリアで監禁される
 24:数日の後、フェリクスはユダヤ人である妻のドルシラと 一緒に来て、パウロを呼び出し、キリスト・イエスへの信仰について話を聞いた。
 25:しかし、パウロが正義や節制や来るべき裁きについて話 すと、フェリクスは恐ろしくなり、「今回はこれで帰ってよろしい。また適当な機会に呼び出すことにする」と言った。
 26:だが、パウロから金をもらおうとする下心もあったの で、度々呼び出しては話し合っていた。
 27:さて、二年たって、フェリクスの後任者としてポルキウ ス・フェストゥスが赴任したが、フェリクスは、ユダヤ人に気に入られようとして、パウロを監禁したままにしておいた。


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使 徒言行録 第25


◆パウロ、皇帝 に上訴する
  1:フェストゥスは、総督として着任して三日たってから、カイサリアからエルサレムへ上った。
  2‐3:祭司長たちやユダヤ人のおもだった人々は、パウロを訴え出て、彼をエルサレムへ送り返すよう計らっていただきたいと、フェストゥスに頼んだ。途中 で殺そうと陰謀をたくらんでいたのである。
  4:ところがフェストゥスは、パウロはカイサリアで監禁されており、自分も間もなくそこへ帰るつもりであると答え、
  5:「だから、その男に不都合なところがあるというのなら、あなたたちのうちの有力者が、わたしと一緒に下って行って、告発すればよいではないか」と言っ た。
  6:フェストゥスは、八日か十日ほど彼らの間で過ごしてから、カイサリアへ下り、翌日、裁判の席に着いて、パウロを引き出すように命令した。
  7:パウロが出廷すると、エルサレムから下って来たユダヤ人たちが彼を取り囲んで、重い罪状をあれこれ言い立てたが、それを立証することはできなかった。
  8:パウロは、「私は、ユダヤ人の律法に対しても、神殿に対しても、皇帝に対しても何も罪を犯したことはありません」と弁明した。
  9:しかし、フェストゥスはユダヤ人に気に入られようとして、パウロに言った。「お前は、エルサレムに上って、そこでこれらのことについて、わたしの前で 裁判を受けたいと思うか。」
 10: パウロは言った。「私は、皇帝の法廷に出頭しているのですから、ここで裁判を受けるのが当然です。よくご存じのとおり、私はユダヤ人に 対して何も悪いことをしていません。
 11: もし、悪いことをし、何か死罪に当たることをしたのであれば、決して死を免れようとは思いません。しかし、この人たちの訴えが事実無根 なら、だれも私を彼らに引き渡すような取り計らいはできません。私は皇帝に上訴します。」
 12: そこで、フェストゥスは陪審の人々と協議してから、「皇帝に上訴したのだから、皇帝のもとに出頭するように」と答えた。 ◆パウロ、アグ リッパ王の前に引き出される
 13: 数日たって、アグリッパ王とベルニケが、フェストゥスに敬意を表するためにカイサリアに来た。
 14: 彼らが幾日もそこに滞在していたので、フェストゥスはパウロの件を王に持ち出して言った。「ここに、フェリクスが囚人として残していっ た男がいます。
 15: わたしがエルサレムに行ったときに、祭司長たちやユダヤ人の長老たちがこの男を訴え出て、有罪の判決を下すように要求したのです。
 16: わたしは彼らに答えました。『被告が告発されたことについて、原告の面前で弁明する機会も与えられず、引き渡されるのはローマ人の慣習 ではない』と。
 17: それで、彼らが連れ立って当地へ来ましたから、わたしはすぐにその翌日、裁判の席に着き、その男を出廷させるように命令しました。
 18: 告発者たちは立ち上がりましたが、彼について、わたしが予想していたような罪状は何一つ指摘できませんでした。
 19: パウロと言い争っている問題は、彼ら自身の宗教に関することと、死んでしまったイエスとかいう者のことです。このイエスが生きている と、パウロは主張しているのです。
 20: わたしは、これらのことの調査の方法が分からなかったので、『エルサレムへ行き、そこでこれらの件に関して裁判を受けたくはないか』と 言いました。
 21: しかしパウロは、皇帝陛下の判決を受けるときまで、ここにとどめておいてほしいと願い出ましたので、皇帝のもとに護送するまで、彼をと どめておくように命令しました。」
 22: そこで、アグリッパがフェストゥスに、「わたしも、その男の言うことを聞いてみたいと思います」と言うと、フェストゥスは、「明日、お 聞きになれます」と言った。
 23: 翌日、アグリッパとベルニケが盛装して到着し、千人隊長たちや町のおもだった人々と共に謁見室に入ると、フェストゥスの命令でパウロが 引き出された。
 24: そこで、フェストゥスは言った。「アグリッパ王、ならびに列席の諸君、この男を御覧なさい。ユダヤ人がこぞってもう生かしておくべきで はないと叫び、エルサレムでもこの地でもわたしに訴え出ているのは、この男のことです。
 25: しかし、彼が死罪に相当するようなことは何もしていないということが、わたしには分かりました。ところが、この者自身が皇帝陛下に上訴 したので、護送することに決定しました。
 26: しかし、この者について確実なことは、何も陛下に書き送ることができません。そこで、諸君の前に、特にアグリッパ王、貴下の前に彼を引 き出しました。よく取り調べてから、何か書き送るようにしたいのです。
 27: 囚人を護送するのに、その罪状を示さないのは理に合わないと、わたしには思われるからです。」
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<>使 徒言行録 第26

◆パウロ、アグ リッパ王の前で弁明する
 1:アグリッパはパウロに、「お前は自分のことを話してよい」と言っ た。そこで、パ ウロは手を差し伸べて弁明した。
  2:「アグリッパ王よ、私がユダヤ人たちに訴えられていることすべてについて、今日、王の前で弁明させていただけるのは幸いであると思います。
  3:王は、ユダヤ人の慣習も論争点もみなよくご存じだからです。それで、どうか忍耐をもって、私の申すことを聞いてくださるように、お願いいたします。
  4:さて、私の若いころからの生活が、同胞の間であれ、またエルサレムの中であれ、最初のころからどうであったかは、ユダヤ人ならだれでも知っています。
  5:彼らは以前から私を知っているのです。だから、私たちの宗教の中でいちばん厳格な派である、ファリサイ派の一員として私が生活していたことを、彼らは 証言しようと思えば、証言できるのです。
  6:今、私がここに立って裁判を受けているのは、神が私たちの先祖にお与えになった約束の実現に、望みをかけているからです。
  7:私たちの十二部族は、夜も昼も熱心に神に仕え、その約束の実現されることを望んでいます。王よ、私はこの希望を抱いているために、ユダヤ人から訴えら れているのです。
  8:神が死者を復活させてくださるということを、あなたがたはなぜ信じ難いとお考えになるのでしょうか。
  9:実は私自身も、あのナザレの人イエスの名に大いに反対すべきだと考えていました。
 10: そして、それをエルサレムで実行に移し、この私が祭司長たちから権限を受けて多くの聖なる者たちを牢に入れ、彼らが死刑になるときは、 賛成の意思表示をしたのです。
 11: また、至るところの会堂で、しばしば彼らを罰してイエスを冒涜するように強制し、彼らに対して激しく怒り狂い、外国の町にまでも迫害の 手を伸ばしたのです。」

◆パウロ、自分 の回心を語る
 12: 「こうして、私は祭司長たちから権限を委任されて、ダマスコへ向かったのですが、
 13: その途中、真昼のことです。王よ、私は天からの光を見たのです。それは太陽より明るく輝いて、私とまた同行していた者との周りを照らし ました。
 14: 私たちが皆地に倒れたとき、『サウル、サウル、なぜ、わたしを迫害するのか。とげの付いた棒をけると、ひどい目に遭う』と、私にヘブラ イ語で語りかける声を聞きました。
 15: 私が、『主よ、あなたはどなたですか』と申しますと、主は言われました。『わたしは、あなたが迫害しているイエスである。
 16: 起き上がれ。自分の足で立て。わたしがあなたに現れたのは、あなたがわたしを見たこと、そして、これからわたしが示そうとすることにつ いて、あなたを奉仕者、また証人にするためである。
 17: わたしは、あなたをこの民と異邦人の中から救い出し、彼らのもとに遣わす。
 18: それは、彼らの目を開いて、闇から光に、サタンの支配から神に立ち帰らせ、こうして彼らがわたしへの信仰によって、罪の赦しを得、聖な る者とされた人々と共に恵みの分け前にあずかるようになるためである。』」

◆パウロの宣教 の内容
19: 「アグリッパ王よ、こういう次第で、私は天から示されたことに背かず、
 20: ダマスコにいる人々を初めとして、エルサレムの人々とユダヤ全土の人々、そして異邦人に対して、悔い改めて神に立ち帰り、悔い改めにふ さわしい行いをするようにと伝えました。
 21: そのためにユダヤ人たちは、神殿の境内にいた私を捕らえて殺そうとしたのです。
 22: ところで、私は神からの助けを今日までいただいて、固く立ち、小さな者にも大きな者にも証しをしてきましたが、預言者たちやモーセが必 ず起こると語ったこと以外には、何一つ述べていません。
 23: つまり私は、メシアが苦しみを受け、また、死者の中から最初に復活して、民にも異邦人にも光を語り告げることになると述べたのです。」

◆パウロ、アグ リッパ王に信仰を勧める
 24: パウロがこう弁明していると、フェストゥスは大声で言った。「パウロ、お前は頭がおかしい。学問のしすぎで、おかしくなったのだ。」
 25: パウロは言った。「フェストゥス閣下、わたしは頭がおかしいわけではありません。真実で理にかなったことを話しているのです。
 26: 王はこれらのことについてよくご存じですので、はっきりと申し上げます。このことは、どこかの片隅で起こったのではありません。
ですから、一つ としてご存じないものはないと、確信しております。
 27: アグリッパ王よ、預言者たちを信じておられますか。信じておられることと思います。」
 28: アグリッパはパウロに言った。「短い時間でわたしを説き伏せて、キリスト信者にしてしまうつもりか。」
 29: パウロは言った。「短い時間であろうと長い時間であろうと、王ばかりでなく、今日この話を聞いてくださるすべての方が、私のようになっ てくださることを神に祈ります。このように鎖につながれることは別ですが。」
 30: そこで、王が立ち上がり、総督もベルニケや陪席の者も立ち上がった。
 31: 彼らは退場してから、「あの男は、死刑や投獄に当たるようなことは何もしていない」と話し合った。
 32: アグリッパ王はフェストゥスに、「あの男は皇帝に上訴さえしていなければ、釈放してもらえただろうに」と言った。
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<>使 徒言行録 第27

◆パウロ、ローマへ向かって船出する
 1:わたしたちがイタリアへ向かって船出することに決まったとき、 パウロと他の数名の囚人は、皇帝直属部隊の百人隊長ユリウスという者に引き渡された。
 2:わたしたちは、アジア州沿岸の各地に寄港することになってい る、アドラミティオン港の船に乗って出港した。テサロニケ出身のマケドニア人アリスタルコも一緒であった。
 3:翌日シドンに着いたが、ユリウスはパウロを親切に扱い、友人た ちのところへ行ってもてなしを受けることを許してくれた。
 4:そこから船出したが、向かい風のためキプロス島の陰を航行し、
 5:キリキア州とパンフィリア州の沖を過ぎて、リキア州のミラに着 いた。
 6:ここで百人隊長は、イタリアに行くアレクサンドリアの船を見つ けて、わたしたちをそれに乗り込ませた。
 7:幾日もの間、船足ははかどらず、ようやくクニドス港に近づい た。ところが、風に行く手を阻まれたので、サルモネ岬を回ってクレタ島の陰を航行し、
 8:ようやく島の岸に沿って進み、ラサヤの町に近い「良い港」と呼 ばれる所に着いた。
 9:かなりの時がたって、既に断食日も過ぎていたので、航海はもう 危険であった。それで、パウロは人々に忠告した。
10:「皆さん、わたしの見るところでは、この航海は積み荷や船体ばかりでな く、わたしたち自身にも危険と多大の損失をもたらすことになります。」
11:しかし、百人隊長は、パウロの言ったことよりも、船長や船主の方を信用し た。
12:この港は冬を越すのに適していなかった。それで、大多数の者の意見によ り、ここから船出し、できるならばクレタ島で南西と北西に面しているフェニクス港に行き、そこで冬を過ごすことになった。

◆暴風に襲われる
13:ときに、南風が静かに吹いて来たので、人々は望みどおりに事が運ぶと考え て錨を上げ、クレタ島の岸に沿って進んだ。
14:しかし、間もなく「エウラキロン」と呼ばれる暴風が、島の方から吹き降ろ して来た。
15:船はそれに巻き込まれ、風に逆らって進むことができなかったので、わたし たちは流されるにまかせた。
16:やがて、カウダという小島の陰に来たので、やっとのことで小舟をしっかり と引き寄せることができた。
17:小舟を船に引き上げてから、船体には綱を巻きつけ、シルティスの浅瀬に乗 り上げるのを恐れて海錨を降ろし、流されるにまかせた。
18:しかし、ひどい暴風に悩まされたので、翌日には人々は積み荷を海に捨て始 め、
19:三日目には自分たちの手で船具を投げ捨ててしまった。
20:幾日もの間、太陽も星も見えず、暴風が激しく吹きすさぶので、ついに助か る望みは全く消えうせようとしていた。
21:人々は長い間、食事をとっていなかった。そのとき、パウロは彼らの中に 立って言った。「皆さん、わたしの言ったとおりに、クレタ島から船出していなければ、こんな危険や損失を避けられたにちがいありません。
22:しかし今、あなたがたに勧めます。元気を出しなさい。船は失うが、皆さん のうちだれ一人として命を失う者はないのです。
23:わたしが仕え、礼拝している神からの天使が昨夜わたしのそばに立って、
24:こう言われました。『パウロ、恐れるな。あなたは皇帝の前に出頭しなけれ ばならない。神は、一緒に航海しているすべての者を、あなたに任せてくださったのだ。』
25:ですから、皆さん、元気を出しなさい。わたしは神を信じています。わたし に告げられたことは、そのとおりになります。
26:わたしたちは、必ずどこかの島に打ち上げられるはずです。」
27:十四日目の夜になったとき、わたしたちはアドリア海を漂流していた。真夜 中ごろ船員たちは、どこかの陸地に近づいているように感じた。
28:そこで、水の深さを測ってみると、二十オルギィアあることが分かった。も う少し進んでまた測ってみると、十五オルギィアであった。
29:船が暗礁に乗り上げることを恐れて、船員たちは船尾から錨を四つ投げ込 み、夜の明けるのを待ちわびた。
30:ところが、船員たちは船から逃げ出そうとし、船首から錨を降ろす振りをし て小舟を海に降ろしたので、
31:パウロは百人隊長と兵士たちに、「あの人たちが船にとどまっていなけれ ば、あなたがたは助からない」と言った。
32:そこで、兵士たちは綱を断ち切って、小舟を流れるにまかせた。
33:夜が明けかけたころ、パウロは一同に食事をするように勧めた。「今日で十 四日もの間、皆さんは不安のうちに全く何も食べずに、過ごしてきました。
34:だから、どうぞ何か食べてください。生き延びるために必要だからです。あ なたがたの頭から髪の毛一本もなくなることはありません。」
35:こう言ってパウロは、一同の前でパンを取って神に感謝の祈りをささげてか ら、それを裂いて食べ始めた。
36:そこで、一同も元気づいて食事をした。
37:船にいたわたしたちは、全部で二百七十六人であった。
38:十分に食べてから、穀物を海に投げ捨てて船を軽くした。

◆難破する
39:朝になって、どこの陸地であるか分からなかったが、砂浜のある入り江を見 つけたので、できることなら、そこへ船を乗り入れようということになった。
40:そこで、錨を切り離して海に捨て、同時に舵の綱を解き、風に船首の帆を上 げて、砂浜に向かって進んだ。
41:ところが、深みに挟まれた浅瀬にぶつかって船を乗り上げてしまい、船首が めり込んで動かなくなり、船尾は激しい波で壊れだした。
42:兵士たちは、囚人たちが泳いで逃げないように、殺そうと計ったが、
43:百人隊長はパウロを助けたいと思ったので、この計画を思いとどまらせた。 そして、泳げる者がまず飛び込んで陸に上がり、
44:残りの者は板切れや船の乗組員につかまって泳いで行くように命令した。こ のようにして、全員が無事に上陸した。


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<>使 徒言行録 第28

◆マルタ島で
 1:わたしたちが助かったとき、この島がマルタと呼ばれていること が分かった。
 2:島の住民は大変親切にしてくれた。降る雨と寒さをしのぐために たき火をたいて、わたしたち一同をもてなしてくれたのである。
 3:パウロが一束の枯れ枝を集めて火にくべると、一匹の蝮が熱気の ために出て来て、その手に絡みついた。
 4:住民は彼の手にぶら下がっているこの生き物を見て、互いに言っ た。「この人はきっと人殺しにちがいない。海では助かったが、『正義の女神』はこの人を生かしておかないのだ。」
 5:ところが、パウロはその生き物を火の中に振り落とし、何の害も 受けなかった。
 6:体がはれ上がるか、あるいは急に倒れて死ぬだろうと、彼らはパ ウロの様子をうかがっていた。しかし、いつまでたっても何も起こらないのを見て、考えを変え、「この人は神様だ」と言った。
 7:さて、この場所の近くに、島の長官でプブリウスという人の所有 地があった。彼はわたしたちを歓迎して、三日間、手厚くもてなしてくれた。
 8:ときに、プブリウスの父親が熱病と下痢で床についていたので、 パウロはその家に行って祈り、手を置いていやした。
 9:このことがあったので、島のほかの病人たちもやって来て、いや してもらった。
10:それで、彼らはわたしたちに深く敬意を表し、船出のときには、わたしたち に必要な物を持って来てくれた。

◆ローマ到着
11:三か月後、わたしたちは、この島で冬を越していたアレクサンドリアの船に 乗って出航した。ディオスクロイを船印とする船であった。
12:わたしたちは、シラクサに寄港して三日間そこに滞在し、
13:ここから海岸沿いに進み、レギオンに着いた。一日たつと、南風が吹いて来 たので、二日でプテオリに入港した。
14:わたしたちはそこで兄弟たちを見つけ、請われるままに七日間滞在した。こ うして、わたしたちはローマに着いた。
15:ローマからは、兄弟たちがわたしたちのことを聞き伝えて、アピイフォルム とトレス・タベルネまで迎えに来てくれた。パウロは彼らを見て、神に感謝し、勇気づけられた。
16:わたしたちがローマに入ったとき、パウロは番兵を一人つけられたが、自分 だけで住むことを許された。

◆パウロ、ローマで宣教する
17:三日の後、パウロはおもだったユダヤ人たちを招いた。彼らが集まって来た とき、こう言った。「兄弟たち、わたしは、民に対しても先祖の慣習に対しても、背くようなことは何一つしていないのに、エルサレムで囚人としてローマ人の 手に引き渡されてしまいました。
18:ローマ人はわたしを取り調べたのですが、死刑に相当する理由が何も無かっ たので、釈放しようと思ったのです。

19:しかし、ユダヤ人たちが反対したので、わたしは皇帝に上訴せざるをえませ んでした。これは、決して同胞を告発するためではありません。
20:だからこそ、お会いして話し合いたいと、あなたがたにお願いしたのです。 イスラエルが希望していることのために、わたしはこのように鎖でつながれているのです。」
21:すると、ユダヤ人たちが言った。「私どもは、あなたのことについてユダヤ から何の書面も受け取ってはおりませんし、また、ここに来た兄弟のだれ一人として、あなたについて何か悪いことを報告したことも、話したこともありません でした。
22:あなたの考えておられることを、直接お聞きしたい。この分派については、 至るところで反対があることを耳にしているのです。」
23:そこで、ユダヤ人たちは日を決めて、大勢でパウロの宿舎にやって来た。パ ウロは、朝から晩まで説明を続けた。神の国について力強く証しし、モーセの律法や預言者の書を引用して、イエスについて説得しようとしたのである。
24:ある者はパウロの言うことを受け入れたが、他の者は信じようとはしなかっ た。
25:彼らが互いに意見が一致しないまま、立ち去ろうとしたとき、パウロはひと 言次のように言った。「聖霊は、預言者イザヤを通して、実に正しくあなたがたの先祖に、
26:語られました。『この民のところへ行って言え。あなたたちは聞くには聞く が、決して理解せず、/見るには見るが、決して認めない。
27:この民の心は鈍り、/耳は遠くなり、/目は閉じてしまった。こうして、彼 らは目で見ることなく、/耳で聞くことなく、/心で理解せず、立ち帰らない。わたしは彼らをいやさない。』
28:だから、このことを知っていただきたい。この神の救いは異邦人に向けられ ました。彼らこそ、これに聞き従うのです。」

29>:パウロがこのようなことを語ったところ、ユダヤ人たちは大いに論 じ合いながら帰って行った。
    (底本に節が欠けている個所の異本による訳文)
30:パウロは、自費で借りた家に丸二年間住んで、訪問する者はだれかれとなく 歓迎し、
31:全く自由に何の妨げもなく、神の国を宣べ伝え、主イエス・キリストについ て教え続けた。


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旧 約聖書

ダニエル書 第1章

 

◆バビロンの宮廷でのダニ エル

1:ユダの王ヨヤキムが即 位して三年 目のことであった。バビロンの王ネブカドネツァルが攻めて来て、エルサレムを包囲した。

2:主は、ユダの王ヨヤキ ムと、エル サレム神殿の祭具の一部を彼の手中に落とされた。ネブカドネツァルはそれらをシンアルに引いて行き、祭具 類は自分の神々の宝物倉に納めた。

3:さて、ネブカドネツァ ル王は侍従 長アシュペナズに命じて、イスラエル人の王族と貴族の中から、

4:体に難点がなく、容姿 が美しく、 何事にも才能と知恵があり、知識と理解力に富み、宮廷に仕える能力のある少年を何人か連れて来させ、カル デア人の言葉と文書を学ばせた。

5:王は、宮廷の肉類と酒 を毎日彼ら に与えるように定め、三年間養成してから自分に仕えさせることにした。

6:この少年たちの中に、 ユダ族出身 のダニエル、ハナンヤ、ミシャエル、アザルヤの四人がいた。

7:侍従長は彼らの名前を 変えて、ダ ニエルをベルテシャツァル、ハナンヤをシャドラク、ミシャエルをメシャク、アザルヤをアベド・ネゴと呼ん だ。

8:ダニエルは宮廷の肉類 と酒で自分 を汚すまいと決心し、自分を汚すようなことはさせないでほしいと侍従長に願い出た。

9:神の御計らいによっ て、侍従長は ダニエルに好意を示し、親切にした。

10:侍従長はダニエルに 言った。 「わたしは王様が恐ろしい。王様御自身がお前たちの食べ物と飲み物をお定めになったのだから。同じ年ごろの 少年に比べてお前たちの顔色が悪くなったら、お前たちのためにわたしの首が危うくなるではないか。」

11:ダニエルは、侍従長 が自分たち 四人の世話係に定めた人に言った。

12:「どうかわたしたち を十日間試 してください。その間、食べる物は野菜だけ、飲む物は水だけにさせてください。

13:その後、わたしたち の顔色と、 宮廷の肉類をいただいた少年の顔色をよくお比べになり、その上でお考えどおりにしてください。」

14:世話係はこの願いを 聞き入れ、 十日間彼らを試した。

15:十日たってみると、 彼らの顔色 と健康は宮廷の食べ物を受けているどの少年よりも良かった。

16:それ以来、世話係は 彼らに支給 される肉類と酒を除いて、野菜だけ与えることにした。

17:この四人の少年は、 知識と才能 を神から恵まれ、文書や知恵についてもすべて優れていて、特にダニエルはどのような幻も夢も解くことがで きた。

18:ネブカドネツァル王 の定めた年 数がたつと、侍従長は少年たちを王の前に連れて行った。

19:王は彼らと語り合っ たが、この ダニエル、ハナンヤ、ミシャエル、アザルヤと並ぶ者はほかにだれもいなかったので、この四人は王のそばに 仕えることになった。

20:王は知恵と理解力を 要する事柄 があれば彼らに意見を求めたが、彼らは常に国中のどの占い師、祈祷師よりも十倍も優れていた。

21:ダニエルはキュロス 王の元年ま で仕えた。

 

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ダニエル書  第2章

 

◆巨大な像の夢

1:ネブカドネツァル王が 即位して二 年目のことであった。王は何度か夢を見て不安になり、眠れなくなった。

2:王は命令を出して、占 い師、祈祷 師、まじない師、賢者を呼び出し、自分の夢を説明させようとした。彼らが王の前に進み出ると、

3:王は言った。「夢を見 たのだが、 その夢の意味を知りたくて心が落ち着かない。」

4:賢者たちは王にアラム 語で答え た。「王様がとこしえまでも生き永らえられますように。どうぞ僕らにその夢をお話しください。解釈を申し上 げます。」

5:王は賢者たちに答え た。「いい か、わたしの命令は絶対だ。もしお前たちがわたしの見た夢を言い当て、その解釈をしてくれなければ、お前た ちの体を八つ裂きにし、お前たちの家も打ち壊す。

6:しかし、もしわたしの 見た夢を言 い当て、正しく解釈してくれれば、ほうびとして贈り物と大いなる名誉を授けよう。だから、その夢を言い当 て、解釈してみよ。」

7:彼らは繰り返し答え た。「王様、 どうぞその夢をお聞かせください。僕らはその解釈をいたしましょう。」

8:王は言った。「思った とおりだ。 わたしの命令が必ず実行されることを知っているので、時間を稼ごうとしているのだ。

9:その夢を話して聞かせ ることがで きなければ、お前たちに下される判決は今言ったとおりだ。だから、わたしの前でうそをついたり、いいかげ んなことを述べ立てたりして、わたしの考えが変わるまで時を稼ごうとしているにちがいない。さあ、夢を話してみよ。そうすれば、解釈できるかどうかも分か るだろう。」

10:賢者たちは王に答え た。「王様 のお求めに応じることのできる者は、この地上にはおりません。大王や支配者の中のだれも、そのようなこと を占い師、祈祷師、賢者に求めたことはございません。

11:王様のお求めになる ことは難し く、これに応じることのできるのは、人間と住まいを共になさらぬ神々だけでございましょう。」

12:王は激しく怒り、憤 慨し、バビ ロンの知者を皆殺しにするよう命令した。

13:知者を処刑する定め が出された ので、人々はダニエルとその同僚をも殺そうとして探した。

14:バビロンの知者を殺 そうと出て 来た侍従長アルヨクにダニエルは思慮深く賢明に応対し、

15:この王の高官アルヨ クに尋ね た。「どうして王様はこのような厳しい命令を出されたのですか。」アルヨクはダニエルに事情を説明した。

16:ダニエルは王のもと に行って、 願った。「しばらくの時をいただけますなら、解釈いたします。」

17:ダニエルは家に帰 り、仲間のハ ナンヤ、ミシャエル、アザルヤに事情を説明した。

18:そして、他のバビロ ンの賢者と 共に殺されることのないよう、天の神に憐れみを願い、その夢の秘密を求めて祈った。

19:すると、夜の幻に よってその秘 密がダニエルに明かされた。ダニエルは天の神をたたえ、

20:こう祈った。「神の 御名をたた えよ、世々とこしえに。知恵と力は神のもの。

21:神は時を移し、季節 を変え/王 を退け、王を立て/知者に知恵を、識者に知識を与えられる。

22:奥義と秘義を現し/ 闇にひそむ ものを知り/光は御もとに宿る。

23:わたしの父祖の神 よ、感謝と賛 美をささげます。知恵と力をわたしに授け/今、願いをかなえ/王の望むことを知らせてくださいました。」

24:それから、ダニエル はバビロン の知者皆殺しの命を受けていたアルヨクのもとに行って、こう言った。「バビロンの知者を殺さないでくださ い。わたしを王様のもとに連れて行ってくだされば、王様に解釈を申し上げます。」

25:そこで、アルヨクは おそるおそ るダニエルを王のもとに連れて出て、こう言った。「ユダの捕囚の中に、一人の男が見つかりました。王様に 解釈を申し上げると言っております。」

26:王はベルテシャツァ ルの名を持 つダニエルに尋ねた。「わたしの見た夢を言い当て、それを解釈してくれると言うのか。」

27:ダニエルは王に答え た。「王様 がお求めになっている秘密の説明は、知者、祈祷師、占い師、星占い師にはできません。

28:だが、秘密を明かす 天の神がお られ、この神が将来何事が起こるのかをネブカドネツァル王に知らせてくださったのです。王様の夢、お眠り になっていて頭に浮かんだ幻を申し上げましょう。

29:お休みになって先々 のことを思 いめぐらしておられた王様に、神は秘密を明かし、将来起こるべきことを知らせようとなさったのです。

30:その秘密がわたしに 明かされた のは、命あるものすべてにまさる知恵がわたしにあるからではなく、ただ王様にその解釈を申し上げ、王様が 心にある思いをよく理解なさるようお助けするためだったのです。

31:王様、あなたは一つ の像を御覧 になりました。それは巨大で、異常に輝き、あなたの前に立ち、見るも恐ろしいものでした。

32:それは頭が純金、胸 と腕が銀、 腹と腿が青銅、

33:すねが鉄、足は一部 が鉄、一部 が陶土でできていました。

34:見ておられると、一 つの石が人 手によらずに切り出され、その像の鉄と陶土の足を打ち砕きました。

35:鉄も陶土も、青銅も 銀も金も共 に砕け、夏の打穀場のもみ殻のようになり、風に吹き払われ、跡形もなくなりました。その像を打った石は大 きな山となり、全地に広がったのです。

36:これが王様の御覧に なった夢で す。さて、その解釈をいたしましょう。

37:王様、あなたはすべ ての王の王 です。天の神はあなたに、国と権威と威力と威光を授け、

38:人間も野の獣も空の 鳥も、どこ に住んでいようとみなあなたの手にゆだね、このすべてを治めさせられました。すなわち、あなたがその金の 頭なのです。

39:あなたのあとに他の 国が興りま すが、これはあなたに劣るもの。その次に興る第三の国は青銅で、全地を支配します。

40:第四の国は鉄のよう に強い。鉄 はすべてを打ち砕きますが、あらゆるものを破壊する鉄のように、この国は破壊を重ねます。

41:足と足指は一部が陶 工の用いる 陶土、一部が鉄であるのを御覧になりましたが、そのようにこの国は分裂しています。鉄が柔らかい陶土と混 じっているのを御覧になったように、この国には鉄の強さもあります。

42:足指は一部が鉄、一 部が陶土で す。すなわち、この国には強い部分もあれば、もろい部分もあるのです。

43:また、鉄が柔らかい 陶土と混じ り合っているのを御覧になったように、人々は婚姻によって混じり合います。しかし、鉄が陶土と溶け合うこ とがないように、ひとつになることはありません。

44:この王たちの時代 に、天の神は 一つの国を興されます。この国は永遠に滅びることなく、その主権は他の民の手に渡ることなく、すべての国 を打ち滅ぼし、永遠に続きます。

45:山から人手によらず 切り出され た石が、鉄、青銅、陶土、銀、金を打つのを御覧になりましたが、それによって、偉大な神は引き続き起こる ことを王様にお知らせになったのです。この夢は確かであり、解釈もまちがいございません。」

46:これを聞いたネブカ ドネツァル はひれ伏してダニエルを拝し、献げ物と香を彼に供えさせた。

47:王はダニエルに言っ た。「あな たがこの秘密を明かすことができたからには、あなたたちの神はまことに神々の神、すべての王の主、秘密を 明かす方にちがいない。」

48:王はダニエルを高い 位につけ、 多くのすばらしい贈り物を与え、バビロン全州を治めさせ、バビロンの知者すべての上に長官として立�トた。

49:ダニエルは王に願っ て、シャド ラク、メシャク、アベド・ネゴをバビロン州の行政官に任命してもらった。ダニエル自身は王宮にとどまっ た。

 

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ダニエル書  第3章

 

◆燃え盛る炉に投げ込まれ た三人

1:ネブカドネツァル王は 一つの金の 像を造った。高さは六十アンマ、幅は六アンマで、これをバビロン州のドラという平野に建てた。

2:ネブカドネツァル王は 人を遣わし て、総督、執政官、地方長官、参議官、財務官、司法官、保安官、その他諸州の高官たちを集め、自分の建て た像の除幕式に参列させることにした。

3:総督、執政官、地方長 官、参議 官、財務官、司法官、保安官、その他諸州の高官たちはその王の建てた像の除幕式に集まり、像の前に立ち並ん だ。

4:伝令は力を込めて叫ん だ。「諸 国、諸族、諸言語の人々よ、あなたたちに告げる。

5:角笛、横笛、六絃琴、 竪琴、十三 絃琴、風琴などあらゆる楽器による音楽が聞こえたなら、ネブカドネツァル王の建てられた金の像の前にひれ 伏して拝め。

6:ひれ伏して拝まない者 は、直ちに 燃え盛る炉に投げ込まれる。」

7:それで、角笛、横笛、 六絃琴、竪 琴、十三絃琴の音楽が聞こえてくると、諸国、諸族、諸言語の人々は皆ひれ伏し、ネブカドネツァル王の建て た金の像を拝んだ。

8:さてこのとき、何人か のカルデア 人がユダヤ人を中傷しようと進み出て、

9:ネブカドネツァル王に こう言っ た。「王様がとこしえまでも生き永らえられますように。

10:御命令によります と、角笛、横 笛、六絃琴、竪琴、十三絃琴、風琴などあらゆる楽器の音楽が聞こえたなら、だれでも金の像にひれ伏して拝 め、ということでした。

11:そうしなければ、燃 え盛る炉に 投げ込まれるはずです。

12:バビロン州には、そ の行政をお 任せになっているユダヤ人シャドラク、メシャク、アベド・ネゴの三人がおりますが、この人々は御命令を無 視して、王様の神に仕えず、お建てになった金の像を拝もうとしません。」

13:これを聞いたネブカ ドネツァル 王は怒りに燃え、シャドラク、メシャク、アベド・ネゴを連れて来るよう命じ、この三人は王の前に引き出さ れた。

14:王は彼らに言った。 「シャドラ ク、メシャク、アベド・ネゴ、お前たちがわたしの神に仕えず、わたしの建てた金の像を拝まないというのは 本当か。

15:今、角笛、横笛、六 絃琴、竪 琴、十三絃琴、風琴などあらゆる楽器の音楽が聞こえると同時にひれ伏し、わたしの建てた金の像を拝むつもり でいるなら、それでよい。もしも拝まないなら、直ちに燃え 盛る炉に投げ込ませる。お前たちをわたしの手から救い出す神があろうか。」

16:シャドラク、メシャ ク、アベ ド・ネゴはネブカドネツァル王に答えた。「このお定めにつきまして、お答えする必要はございません。

17:わたしたちのお仕え する神は、 その燃え盛る炉や王様の手からわたしたちを救うことができますし、必ず救ってくださいます。

18:そうでなくとも、御 承知くださ い。わたしたちは王様の神々に仕えることも、お建てになった金の像を拝むことも、決していたしません。」

19:ネブカドネツァル王 はシャドラ ク、メシャク、アベド・ネゴに対して血相を変えて怒り、炉をいつもの七倍も熱く燃やすように命じた。

20:そして兵士の中でも 特に強い者 に命じて、シャドラク、メシャク、アベド・ネゴを縛り上げ、燃え盛る炉に投げ込ませた。

21:彼らは上着、下着、 帽子、その 他の衣服を着けたまま縛られ、燃え盛る炉に投げ込まれた。

22:王の命令は厳しく、 炉は激しく 燃え上がっていたので、噴き出る炎はシャドラク、メシャク、アベド・ネゴを引いて行った男たちをさえ焼き 殺した。

23:シャドラク、メシャ ク、アベ ド・ネゴの三人は縛られたまま燃え盛る炉の中に落ち込んで行った。

24:間もなく王は驚きの 色を見せ、 急に立ち上がり、側近たちに尋ねた。

「あの三人の男は、縛った まま炉に投 げ込んだはずではなかったか。」彼らは答えた。「王様、そのとおりでございます。」

25:王は言った。「だ が、わたしに は四人の者が火の中を自由に歩いているのが見える。そして何の害も受けていない。それに四人目の者は神の 子のような姿をしている。」

26:ネブカドネツァル王 は燃え盛る 炉の口に近づいて呼びかけた。「シャドラク、メシャク、アベド・ネゴ、いと高き神に仕える人々よ、出て来 なさい。」すると、シャドラク、メシャク、アベド・ネゴは炉の中から出て来た。

27:総督、執政官、地方 長官、王の 側近たちは集まって三人を調べたが、火はその体を損なわず、髪の毛も焦げてはおらず、上着も元のままで火 のにおいすらなかった。

28:ネブカドネツァル王 は言った。 「シャドラク、メシャク、アベド・ネゴの神をたたえよ。彼らは王の命令に背き、体を犠牲にしても自分の神 に依り頼み、自分の神以外にはいかなる神にも仕えず、拝もうともしなかったので、この僕たちを、神は御使いを送って救われた。

29:わたしは命令する。 いかなる 国、民族、言語に属する者も、シャドラク、メシャク、アベド・ネゴの神をののしる者があれば、その体は八つ 裂きにされ、その家は破壊される。まことに人間をこのように救うことのできる神はほかにはない。」

30:こうして王は、シャ ドラク、メ シャク、アベド・ネゴをバビロン州で高い位につけた。

 

◆大きな木の夢

31:ネブカドネツァル王 は、全世界 の諸国、諸族、諸言語の住民に、いっそうの繁栄を願って、挨拶を送る。

32:さて、わたしはいと 高き神がわ たしになさったしるしと不思議な御業を知らせる。

33:この神のしるしは、 いかに偉大 であり/不思議な御業は、いかに力あることか。その御国は永遠の御国であり、支配は代々に及ぶ。

 

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ダニエル書  第4章

 

1:わたしネブカドネツァ ルは、健康 に恵まれ、王宮で心安らかに過ごしていた。

2:一夜、わたしは夢を見 た。眠りの 中に恐ろしい光景が現れ、わたしは頭に浮かんだ幻に悩まされた。

3:わたしは命令を下して バビロンの 知者を全員召集し、夢の解釈をさせようとした。

4:占い師、祈祷師、賢 者、星占い師 らが来たので、わたしは夢の話をしたが、だれひとり解釈ができなかった。

5:最後にダニエルが来 た。これはわ たしの神にちなんでベルテシャツァルという名を与えた者で、彼には聖なる神の霊が宿っていた。わたしは彼 に夢の話をして、こう言った。

6:「占い師の長ベルテ シャツァル よ、お前には聖なる神の霊が宿っていて、どんな秘密でも解き明かせると聞いている。わたしの見た夢はこう だ。解釈をしてほしい。

7:眠っていると、このよ うな幻が頭 に浮かんだのだ。大地の真ん中に、一本の木が生えていた。大きな木であった。

8:その木は成長してたく ましくなり /天に届くほどの高さになり/地の果てからも見えるまでになった。

9:葉は美しく茂り、実は 豊かに実っ て/すべてを養うに足るほどであった。その木陰に野の獣は宿り/その枝に空の鳥は巣を作り/生き物はみ な、この木によって食べ物を得た。

10:更に、眠っている と、頭に浮か んだ幻の中で、聖なる見張りの天使が天から降って来るのが見えた。

11:天使は大声に呼ば わって、こう 言った。『この木を切り倒し、枝を払い/葉を散らし、実を落とせ。その木陰から獣を、その枝から鳥を追い 払え。

12:ただし、切り株と根 は地中に残 し/鉄と青銅の鎖をかけて、野の草の中に置け。天の露にぬれるにまかせ/獣と共に野の草を食らわせよ。

13:その心は変わって、 人の心を失 い/獣の心が与えられる。こうして、七つの時が過ぎるであろう。

14:この宣告は見張りの 天使らの決 定により/この命令は聖なる者らの決議によるものである。すなわち、人間の王国を支配するのは、いと高き 神であり、この神は御旨のままにそれをだれにでも与え、また、最も卑しい人をその上に立てることもできるということを、人間に知らせるためである。』

15:これが、わたしネブ カドネツァ ル王の見た夢だ。さて、ベルテシャツァル、その解釈を聞かせてほしい。この王国中の知者はだれひとり解き 明かせなかったのだが、聖なる神の霊が宿っているというお前ならできるであろう。」

16:しかし、ベルテシャ ツァルと呼 ばれるダニエルは驚いた様子で、しばらくの間思い悩んでいた。王�ヘ彼に、「ベルテシャツァル、この夢とそ の解釈を恐れずに言うがよい」と言った。彼は答えた。「王様、この夢があなたの敵に、その解釈があなたを憎む者にふりかかりますように。

17:御覧になったその 木、すなわ ち、成長してたくましくなり、天に届くほどの高さになり、地の果てからも見え、

18:葉は美しく茂り、実 は豊かに 実ってすべてを養うに足り、その木陰に野の獣は宿り、その枝に空の鳥は巣を作る、

19:その木はあなた御自 身です。あ なたは成長してたくましくなり、あなたの威力は大きくなって天にも届くほどになり、あなたの支配は地の果 てにまで及んでいます。

20:また、王様は聖なる 見張りの天 使が天から降って来るのを御覧になりました。天使はこう言いました。この木を切り倒して滅ぼせ。ただし、 切り株と根を地中に残し、これに鉄と青銅の鎖をかけて野の草の中に置け。天の露にぬれるにまかせ、獣と共に野の草を食らわせ、七つの時を過ごさせよ、と。

21:さて、王様、それを 解釈いたし ましょう。これはいと高き神の命令で、わたしの主君、王様に起こることです。

22:あなたは人間の社会 から追放さ れて野の獣と共に住み、牛のように草を食べ、天の露にぬれ、こうして七つの時を過ごすでしょう。そうし て、あなたはついに、いと高き神こそが人間の王国を支配し、その御旨のままにそれをだれにでも与えられるのだということを悟るでしょう。

23:その木の切り株と根 を残すよう に命じられているので、天こそまことの支配者であると悟れば、王国はあなたに返されます。

24:王様、どうぞわたし の忠告をお 受けになり、罪を悔いて施しを行い、悪を改めて貧しい人に恵みをお与えになってください。そうすれば、引 き続き繁栄されるでしょう。」

25:このことはすべて、 ネブカドネ ツァル王の上に起こった。

26:十二か月が過ぎたこ ろのことで ある。王はバビロンの王宮の屋上を散歩しながら、

27:こう言った。「なん とバビロン は偉大ではないか。これこそ、このわたしが都として建て、わたしの権力の偉大さ、わたしの威光の尊さを示 すものだ。」

28:まだ言い終わらぬう ちに、天か ら声が響いた。「ネブカドネツァル王よ、お前に告げる。王国はお前を離れた。

29:お前は人間の社会か ら追放され て、野の獣と共に住み、牛のように草を食らい、七つの時を過ごすのだ。そうしてお前はついに、いと高き神 こそが人間の王国を支配する者で、神は御旨のままにそれをだれにでも与えるのだということを悟るであろう。」

30:この言葉は直ちにネ ブカドネ ツァルの身に起こった。彼は人間の社会から追放され、牛のように草を食らい、その体は天の露にぬれ、その毛 は鷲の羽のように、つめは鳥のつめのように生え伸びた。

31:その時が過ぎて、わ たしネブカ ドネツァルは目を上げて天を仰ぐと、理性が戻って来た。わたしはいと高き神をたたえ、永遠に生きるお方を ほめたたえた。その支配は永遠に続き/その国は代々に及ぶ。

32:すべて地に住む者は 無に等し い。天の軍勢をも地に住む者をも御旨のままにされる。その手を押さえて/何をするのかと言いうる者はだれも いない。

33:言い終わると、理性 がわたしに 戻った。栄光と輝きは再びわたしに与えられて、王国の威光となった。貴族や側近もわたしのもとに戻って来 た。こうしてわたしは王国に復帰し、わたしの威光は増し加わった。

34:それゆえ、わたしネ ブカドネ ツァルは天の王をほめたたえ、あがめ、賛美する。その御業はまこと、その道は正しく、驕る者を倒される。

 

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ダニエル書  第5章

◆壁に字を書く指の幻

1:ベルシャツァル王は千 人の貴族を 招いて大宴会を開き、みんなで酒を飲んでいた。

2:宴も進んだころ、ベル シャツァル は、その父ネブカドネツァルがエルサレムの神殿から奪って来た金銀の祭具を持って来るように命じた。王や 貴族、後宮の女たちがそれで酒を飲もうというのである。

3:そこで、エルサレムの 神殿から 奪って来た金銀の祭具が運び込まれ、王や貴族、後宮の女たちがそれで酒を飲み始めた。

4:こうして酒を飲みなが ら、彼らは 金や銀、青銅、鉄、木や石などで造った神々をほめたたえた。

5:その時、人の手の指が 現れて、と もし火に照らされている王宮の白い壁に文字を書き始めた。王は書き進むその手先を見た。

6:王は恐怖にかられて顔 色が変わ り、腰が抜け、膝が震えた。

7:王は大声をあげ、祈祷 師、賢者、 星占い師などを連れて来させ、これらバビロンの知者にこう言った。「この字を読み、解釈をしてくれる者に は、紫の衣を着せ、金の鎖を首にかけて、王国を治める者のうちの第三の位を与えよう。」

8:宮廷の知者たちは皆、 集まって来 たが、だれもその字を読むことができず、解釈もできなかった。

9:ベルシャツァル王はい よいよ恐怖 にかられて顔色が変わり、貴族も皆途方に暮れた。

10:王や貴族が話してい るのを聞い た王妃は、宴会場に来てこう言った。「王様がとこしえまでも生き永らえられますように。そんなに心配した り顔色を変えたりなさらないでくださいませ。

11:お国には、聖なる神 の霊を宿し ている人が一人おります。父王様の代に、その人はすばらしい才能、神々のような知恵を示したものでござい ます。お父上のネブカドネツァル王様は、この人を占い師、祈祷師、賢者、星占い師などの長にしておられました。

12:この人には特別な霊 の力があっ て、知識と才能に富み、夢の解釈、謎解き、難問の説明などがよくできるのでございます。ダニエルという者 で、父王様はベルテシャツァルと呼んでいらっしゃいました。このダニエルをお召しになれば、その字の解釈をしてくれることでございましょう。」

13:そこで、ダニエルが 王の前に召 し出された。王は彼に言った。「父王がユダから捕らえ帰ったユダヤ人の捕囚の一人、ダニエルというのはお 前か。

14:聞くところによる と、お前は神 々の霊を宿していて、すばらしい才能と特別な知恵を持っているそうだ。

15:賢者や祈祷師を連れ て来させて この文字を読ませ、解釈させようとしたのだが、彼らにはそれができなかった。

16:お前はいろいろと解 釈をしたり 難問を解いたりする力を持つと聞いた。もしこの文字を読み、その意味を説明してくれたなら、お前に紫の衣 を着せ、金の鎖を首にかけて、王国を治める者のうち第三の位を与えよう。」

17:ダニエルは王に答え た。「贈り 物など不要でございます。報酬はだれか他の者にお与えください。しかし、王様のためにその文字を読み、解 釈をいたしましょう。

18:王様、いと高き神 は、あなたの 父ネブカドネツァル王に王国と権勢と威光をお与えになりました。

19:その権勢を見て、諸 国、諸族、 諸言語の人々はすべて、恐れおののいたのです。父王様は思うままに殺し、思うままに生かし、思うままに栄 誉を与え、思うままに没落させました。

20:しかし、父王様は傲 慢になり、 頑に尊大にふるまったので、王位を追われ、栄光は奪われました。

21:父王様は人間の社会 から追放さ れ、心は野の獣のようになり、野生のろばと共に住み、牛のように草を食らい、天から降る露にその身をぬら し、ついに悟ったのは、いと高き神こそが人間の王国を支配し、その御旨のままに王を立てられるのだということでした。

22:さて、ベルシャツァ ル王よ、あ なたはその王子で、これらのことをよくご存じでありながら、なお、へりくだろうとはなさらなかった。

23:天の主に逆らって、 その神殿の 祭具を持ち出させ、あなた御自身も、貴族も、後宮の女たちも皆、それで飲みながら、金や銀、青銅、鉄、木 や石で造った神々、見ることも聞くこともできず、何も知らないその神々を、ほめたたえておられます。だが、あなたの命と行動の一切を手中に握っておられる 神を畏れ敬おうとはなさらない。

24:そのために神は、あ の手を遣わ して文字を書かせたのです。

25:さて、書かれた文字 はこうで す。メネ、メネ、テケル、そして、パルシン。

26:意味はこうです。メ ネは数える ということで、すなわち、神はあなたの治世を数えて、それを終わらせられたのです。

27:テケルは量を計るこ とで、すな わち、あなたは秤にかけられ、不足と見られました。

28:パルシンは分けると いうこと で、すなわち、あなたの王国は二分されて、メディアとペルシアに与えられるのです。」

29:これを聞いたベル シャツァル は、ダニエルに紫の衣を着せ、金の鎖をその首にかけるように命じ、王国を治める者のうち第三の位を彼に与え るという布告を出した。

30:その同じ夜、カルデ ア人の王ベ ルシャツァルは殺された。

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ダニエル書  第6章


◆獅子の洞窟に投げ込まれたダニエル
1:さて、王国を継いだのは、メディア人ダレイオスであった。彼は既ハ に六十二歳であった。
2:ダレイオスは、王国に百二十人の総督を置いて全国を治めさせるこハ とにし、
3:また、王に損失がないようにするため、これらの総督から報告を受ハ ける大臣を三人、その上に置いた。ダニエルはそのひとりであった。
4:ダニエルには優れた霊が宿っていたので、他の大臣や総督のすべてハ に傑出していた。王は彼に王国全体を治めさせようとした。
5:大臣や総督は、政務に関してダニエルを陥れようと口実を探した。ハ しかし、ダニエルは政務に忠実で、何の汚点も怠慢もなく、彼らはハ 訴え出る口実を見つけることができなかった。
6:それで彼らは、「ダニエルを陥れるには、その信じている神の法にハ 関してなんらかの言いがかりをつけるほかはあるまい」と話し合い、
7:王のもとに集まってこう言った。「ダレイオス王様がとこしえまでハ も生き永らえられますように。
8:王国の大臣、執政官、総督、地方長官、側近ら一同相談いたしましハ て、王様に次のような、勅令による禁止事項をお定めいただこうとハ いうことになりました。すなわち、向こう三十日間、王様を差し置ハ いて他の人間や神に願い事をする者は、だれであれ獅子の洞窟に投ハ げ込まれる、と。
9:王様、どうぞこの禁令を出し、その書面に御署名ください。そうすハ れば、これはメディアとペルシアの法律として変更不可能なものとハ なり、廃止することはできなくなります。」
10:ダレイオス王は、その書面に署名して禁令を発布した。
11:ダニエルは王が禁令に署名したことを知っていたが、家に帰るといハ つものとおり二階の部屋に上がり、エルサレムに向かって開かれたハ 窓際にひざまずき、日に三度の祈りと賛美を自分の神にささげた。
12:役人たちはやって来て、ダニエルがその神に祈り求/めているのをハ 見届け、
13:王の前に進み出、禁令を引き合いに出してこう言った。「王様、向ハ こう三十日間、王様を差し置いて他の人間や神に願い事をする者がハ あれば、獅子の洞窟に投げ込まれるという勅令に署名をなさったのハ ではございませんか。」王は答えた。「そのとおりだ。メディアとハ ペルシアの法律は廃棄されることはない。」
14:彼らは王に言った。「王様、ユダヤからの捕囚の一人ダニエルは、ハ あなたさまをも、署名なさったその禁令をも無視して、日に三度祈ハ りをささげています。」
15:王はこれを聞いてたいそう悩み、なんとかダニエルを助ける方法はハ ないものかと心を砕き、救おうとして日の暮れるまで努力した。
16:役人たちは王のもとに来て言った。「王様、ご存じのとおり、メデハ ィアとペルシアの法律によれば、王による勅令や禁令は一切変更しハ てはならないことになっております。」
17:それで王は命令を下し、ダニエルは獅子の洞窟に投げ込まれることハ になって引き出された。王は彼に言った。「お前がいつも拝んでいハ る神がお前を救ってくださるように。」
18:一つの石が洞窟の入り口に置かれ、王は自分の印と貴族たちの印でハ 封をし、ダニエルに対する処置に変更がないようにした。
19:王は宮殿に帰ったが、その夜は食を断ち、側女も近寄らせず、眠れハ ずに過ごし、
20:夜が明けるやいなや、急いで獅子の洞窟へ行った。
21:洞窟に近づくと、王は不安に満ちた声をあげて、ダニエルに呼びかハ けた。「ダニエル、ダニエル、生ける神の僕よ、お前がいつも拝んハ でいる神は、獅子からお前を救い出す力があったか。」
22:ダニエルは王に答えた。「王様がとこしえまでも生き永らえられまハ すように。
23:神様が天使を送って獅子の口を閉ざしてくださいましたので、わたハ しはなんの危害も受けませんでした。神様に対するわたしの無実がハ 認められたのです。そして王様、あなたさまに対しても、背いたこハ とはございません。」
24:王はたいそう喜んで、ダニエルを洞窟から引き出すように命じた。ハ ダニエルは引き出されたが、その身に何の害も受けていなかった。ハ 神を信頼していたからである。
25:王は命令を下して、ダニエルを陥れようとした者たちを引き出させ、ハ 妻子もろとも獅子の洞窟に投げ込ませた。穴の底にも達しないうちハ に、獅子は彼らに飛びかかり、骨までもかみ砕いた。
26:ダレイオス王は、全地に住む諸国、諸族、諸言語の人々に、次のよハ うに書き送った。「いっそうの繁栄を願って挨拶を送る。
27:わたしは以下のとおりに定める。この王国全域において、すべてのハ 民はダニエルの神を恐れかしこまなければならない。この神は生けハ る神、世々にいまし/その主権は滅びることなく、その支配は永遠。
28:この神は救い主、助け主。天にも地にも、不思議な御業を行い/ダハ ニエルを獅子の力から救われた。」
29:こうしてダニエルは、ダレイオスとぺルシアのキュロスの治世を通ハ して活躍した。

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ダニエル書  第7章

◆四頭の獣の幻
ハ1:バビロンの王ベルシャツァルの治世元年のことである。ダニエルは、 眠っているとき頭に幻が浮かび、一つの夢を見た。彼はその夢を記 録することにし、次のように書き起こした。
ハ2:ある夜、わたしは幻を見た。見よ、天の四方から風が起こって、大 海を波立たせた。
ハ3:すると、その海から四頭の大きな獣が現れた。それぞれ形が異なり、
ハ4:第一のものは獅子のようであったが、鷲の翼が生えていた。見てい ると、翼は引き抜かれ、地面から起き上がらされて人間のようにそ の足で立ち、人間の心が与えられた。
ハ5:第二の獣は熊のようで、横ざまに寝て、三本の肋骨を口にくわえて いた。これに向かって、「立て、多くの肉を食らえ」という声がし た。
ハ6:次に見えたのはまた別の獣で、豹のようであった。背には鳥の翼が 四つあり、頭も四つあって、権力がこの獣に与えられた。
ハ7:この夜の幻で更に続けて見たものは、第四の獣で、ものすごく、恐 ろしく、非常に強く、巨大な鉄の歯を持ち、食らい、かみ砕き、残 りを足で踏みにじった。他の獣と異なって、これには十本の角があ った。
ハ8:その角を眺めていると、もう一本の小さな角が生えてきて、先の角 のうち三本はそのために引き抜かれてしまった。この小さな角には 人間のように目があり、また、口もあって尊大なことを語っていた。
ハ9:なお見ていると、/王座が据えられ/「日の老いたる者」がそこに 座した。その衣は雪のように白く/その白髪は清らかな羊の毛のよ うであった。その王座は燃える炎/その車輪は燃える火
10:その前から火の川が流れ出ていた。幾千人が御前に仕え/幾万人が 御前に立った。裁き主は席に着き/巻物が繰り広げられた。
11:さて、その間にもこの角は尊大なことを語り続けていたが、ついに その獣は殺され、死体は破壊されて燃え盛る火に投げ込まれた。
12:他の獣は権力を奪われたが、それぞれの定めの時まで生かしておか れた。
13:夜の幻をなお見ていると、/見よ、「人の子」のような者が天の雲 に乗り/「日の老いたる者」の前に来て、そのもとに進み
14:権威、威光、王権を受けた。諸国、諸族、諸言語の民は皆、彼に仕 え/彼の支配はとこしえに続き/その統治は滅びることがない。
15:わたしダニエルは大いに憂い、頭に浮かんだこの幻に悩まされた。
16:そこに立っている人の一人に近づいてこれらのことの意味を尋ねる と、彼はそれを説明し、解釈してくれた。
17:「これら四頭の大きな獣は、地上に起ころうとする四人の王である。
18:しかし、いと高き者の聖者らが王権を受け、王国をとこしえに治め るであろう。」
19:更にわたしは、第四の獣について知りたいと思った。これは他の獣 と異なって、非常に恐ろしく、鉄の歯と青銅のつめをもち、食らい、 かみ砕き、残りを足で踏みにじったものである。
20:その頭には十本の角があり、更に一本の角が生え出たので、十本の 角のうち三本が抜け落ちた。その角には目があり、また、口もあっ て尊大なことを語った。これは、他の角よりも大きく見えた。
21:見ていると、この角は聖者らと闘って勝ったが、
22:やがて、「日の老いたる者」が進み出て裁きを行い、いと高き者の 聖者らが勝ち、時が来て王権を受けたのである。
23:さて、その人はこう言った。「第四の獣は地上に興る第四の国/こ れはすべての国に異なり/全地を食らい尽くし、踏みにじり、打ち 砕く。
24:十の角はこの国に立つ十人の王/そのあとにもう一人の王が立つ。 彼は十人の王と異なり、三人の王を倒す。
25:彼はいと高き方に敵対して語り/いと高き方の聖者らを悩ます。彼 は時と法を変えようとたくらむ。聖者らは彼の手に渡され/一時期、 二時期、半時期がたつ。
26:やがて裁きの座が開かれ/彼はその権威を奪われ/滅ぼされ、絶や されて終わる。
27:天下の全王国の王権、権威、支配の力は/いと高き方の聖なる民に 与えられ/その国はとこしえに続き/支配者はすべて、彼らに仕え、 彼らに従う。」
28:ここでその言葉は終わった。わたし�_ニエルは大層恐れ悩み、顔色 も変わるほどであった。しかし、わたしはその言葉を心に留めた。
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ダニエル書  第8章

◆定めの七十週
ハ1:ダレイオスの治世第一年のことである。ダレイオスはメディア出身 で、クセルクセスの子であり、カルデア人の国を治めていた。
ハ2:さて、わたしダニエルは文書を読んでいて、エルサレムの荒廃の時 が終わるまでには、主が預言者エレミヤに告げられたように七十年 という年数のあることを悟った。
ハ3:わたしは主なる神を仰いで断食し、粗布をまとい、灰をかぶって祈 りをささげ、嘆願した。
ハ4:わたしは主なる神に祈り、罪を告白してこう言った。「主よ、畏る べき偉大な神よ、主を愛しその戒めに従う者には契約を守って慈し みを施される神よ、
ハ5:わたしたちは罪を犯し悪行を重ね、背き逆らって、あなたの戒めと 裁きから離れ去りました。
ハ6:あなたの僕である預言者たちが、御名によってわたしたちの王、指 導者、父祖、そして地の民のすべてに語ったのに、それに聞き従い ませんでした。
ハ7:主よ、あなたは正しくいます。わたしたちユダの者、エルサレムの 住民、すなわち、あなたに背いた罪のために全世界に散らされて、 遠くにまた近くに住むイスラエルの民すべてが、今日のように恥を 被っているのは当然なのです。
ハ8:主よ、恥を被るのはわたしたちであり、その王、指導者、父祖なの です。あなたに対して罪を犯したのですから。
ハ9:憐れみと赦しは主である神のもの。わたしたちは神に背きました。
10:あなたの僕である預言者たちを通して与えられた、律法に従って歩 むようにという主なる神の声に聞き従いませんでした。
11:イスラエルはすべて、あなたの律法を無視し、御声に耳を傾けませ んでした。ですから、神の僕モーセの律法に記されている誓いの呪 いが、わたしたちの上にふりかかってきたのです。あなたに対して 罪を犯したからにほかなりません。
12:わたしたちにも、わたしたちを治めた指導者にも告げられていた主 の御言葉は成就し、恐ろしい災難が襲いました。エルサレムに下さ れたこの災難ほど恐ろしいものは、いまだ天下に起こったことはあ り/ませんでした。
13:モーセの律法に記されているこの恐ろしい災難は、紛れもなくわた したちを襲いました。それでもなお、わたしたちは罪を離れて主な る神の怒りをなだめることをせず、またあなたのまことに目覚める こともできませんでした。
14:主はその悪を見張っておられ、それをわたしたちの上に下されまし た。わたしたちの主なる神のなさることはすべて正しく、それに対 して、わたしたちは御声に聞き従いませんでした。
15:わたしたちの神である主よ、強い御手をもって民をエジプトから導 き出し、今日に至る名声を得られた神よ、わたしたちは罪を犯し、 逆らいました。
16:主よ、常に変わらぬ恵みの御業をもってあなたの都、聖なる山エル サレムからあなたの怒りと憤りを翻してください。わたしたちの罪 と父祖の悪行のために、エルサレムもあなたの民も、近隣の民すべ てから嘲られています。
17:わたしたちの神よ、僕の祈りと嘆願に耳を傾けて、荒廃した聖所に 主御自身のために御顔の光を輝かしてください。
18:神よ、耳を傾けて聞いてください。目を開いて、わたしたちの荒廃 と、御名をもって呼ばれる都の荒廃とを御覧ください。わたしたち が正しいからではなく、あなたの深い憐れみのゆえに、伏して嘆願 の祈りをささげます。
19:主よ、聞いてください。主よ、お赦しください。主よ、耳を傾けて、 お計らいください。わたしの神よ、御自身のために、救いを遅らせ ないでください。あなたの都、あなたの民は、御名をもって呼ばれ ているのですから。」
20:こうしてなお訴え、祈り、わたし自身とわたしの民イスラエルの罪 を告白し、わたしの神の聖なる山について、主なるわたしの神に嘆 願し続けた。
21:こうして訴え祈っていると、先の幻で見た者、すなわちガブリエル が飛んで来て近づき、わたしに触れた。それは夕べの献げ物のころ のことであった。
22:彼は、わたしに理解させようとしてこう言った。「ダニエルよ、お 前を目覚めさせるために来た。
23:お前が嘆き祈り始めた時、御言葉が出されたので、それを告げに来 た。お前は愛されている者なのだ。この御言葉を悟り、この幻を理 解せよ。
24:お前の民と聖なる都に対して/七十週が定められている。それが過 ぎると逆らいは終わり/罪は封じられ、不義は償われる。とこしえ の正義が到来し/幻と預言は封じられ/最も聖なる者に油が注がれ る。
25:これを知り、目覚めよ。エルサレム復興と再建についての/御言葉 が出されてから/油注がれた君の到来まで/七週あり、また、六十 二週あって/危機のうちに広場と堀は再建される。
26:その六十二週のあと油注がれた者は/不当に断たれ/都と聖所は/ 次に来る指導者の民によって荒らされる。その終わりには洪水があ り/終わりまで戦いが続き/荒廃は避けられない。
27:彼は一週の間、多くの者と同盟を固め/半週でいけにえと献げ物を 廃止する。憎むべきものの翼の上に荒廃をもたらすものが座す。そ してついに、定められた破滅が荒廃の上に注がれる。」

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ダニエル書  第9章

◆定めの七十週

1:ダレイオスの治世第一 年のことで ある。ダレイオスはメディア出身で、クセルクセスの子であり、カルデア人の国を治めていた。

2:さて、わたしダニエル は文書を読 んでいて、エルサレムの荒廃の時が終わるまでには、主が預言者エレミヤに告げられたように七十年という年数のあることを悟った。

3:わたしは主なる神を仰 いで断食 し、粗布をまとい、灰をかぶって祈りをささげ、嘆願した。

4:わたしは主なる神に祈 り、罪を告 白してこう言った。「主よ、畏るべき偉大な神よ、主を愛しその戒めに従う者には契約を守って慈しみを施される神よ、

5:わたしたちは罪を犯し 悪行を重 ね、背き逆らって、あなたの戒めと裁きから離れ去りました。

6:あなたの僕である預言 者たちが、 御名によってわたしたちの王、指導者、父祖、そして地の民のすべてに語ったのに、それに聞き従いませんでした。

7:主よ、あなたは正しく います。わ たしたちユダの者、エルサレムの住民、すなわち、あなたに背いた罪のために全世界に散らされて、遠くにまた近くに住むイスラエルの民すべてが、今日のよう に恥を被っているのは当然なのです。

8:主よ、恥を被るのはわ たしたちで あり、その王、指導者、父祖なのです。あなたに対して罪を犯したのですから。

9:憐れみと赦しは主であ る神のも の。わたしたちは神に背きました。

10:あなたの僕である預 言者たちを 通して与えられた、律法に従って歩むようにという主なる神の声に聞き従いませんでした。

11:イスラエルはすべ て、あなたの 律法を無視し、御声に耳を傾けませんでした。ですから、神の僕モーセの律法に記されている誓いの呪いが、わたしたちの上にふりかかってきたのです。あなた に対して罪を犯したからにほかなりません。

12:わたしたちにも、わ たしたちを 治めた指導者にも告げられていた主の御言葉は成就し、恐ろしい災難が襲いました。エルサレムに下されたこの災難ほど恐ろしいものは、いまだ天下に起こった ことはあり/ませんでした。

13:モーセの律法に記さ れているこ の恐ろしい災難は、紛れもなくわたしたちを襲いました。それでもなお、わたしたちは罪を離れて主なる神の怒りをなだめることをせず、またあなたのまことに 目覚めることもできませんでした。

14:主はその悪を見張っ ておられ、 それをわたしたちの上に下されました。わたしたちの主なる神のなさることはすべて正しく、それに対して、わたしたちは御声に聞き従いませんでした。

15:わたしたちの神であ る主よ、強 い御手をもって民をエジプトから導き出し、今日に至る名声を得られた神よ、わたしたちは罪を犯し、逆らいました。

16:主よ、常に変わらぬ 恵みの御業 をもってあなたの都、聖なる山エルサレムからあなたの怒りと憤りを翻してください。わたしたちの罪と父祖の悪行のために、エルサレムもあなたの民も、近隣 の民すべてから嘲られています。

17:わたしたちの神よ、 僕の祈りと 嘆願に耳を傾けて、荒廃した聖所に主御自身のために御顔の光を輝かしてください。

18:神よ、耳を傾けて聞 いてくださ い。目を開いて、わたしたちの荒廃と、御名をもって呼ばれる都の荒廃とを御覧ください。わたしたちが正しいからではなく、あなたの深い憐れみのゆえに、伏 して嘆願の祈りをささげます。

19:主よ、聞いてくださ い。主よ、 お赦しください。主よ、耳を傾けて、お計らいください。わたしの神よ、御自身のために、救いを遅らせないでください。あなたの都、あなたの民は、御名を もって呼ばれているのですから。」

20:こうしてなお訴え、 祈り、わた し自身とわたしの民イスラエルの罪を告白し、わたしの神の聖なる山について、主なるわたしの神に嘆願し続けた。

21:こうして�iえ祈っ ていると、 先の幻で見た者、すなわちガブリエルが飛んで来て近づき、わたしに触れた。それは夕べの献げ物のころのことであった。

22:彼は、わたしに理解 させようと してこう言った。「ダニエルよ、お前を目覚めさせるために来た。

23:お前が嘆き祈り始め た時、御言 葉が出されたので、それを告げに来た。お前は愛されている者なのだ。この御言葉を悟り、この幻を理解せよ。

24:お前の民と聖なる都 に対して/ 七十週が定められている。それが過ぎると逆らいは終わり/罪は封じられ、不義は償われる。とこしえの正義が到来し/幻と預言は封じられ/最も聖なる者に油 が注がれる。

25:これを知り、目覚め よ。エルサ レム復興と再建についての/御言葉が出されてから/油注がれた君の到来まで/七週あり、また、六十二週あって/危機のうちに広場と堀は再建される。

26:その六十二週のあと 油注がれた 者は/不当に断たれ/都と聖所は/次に来る指導者の民によって荒らされる。その終わりには洪水があり/終わりまで戦いが続き/荒廃は避けられない。

27:彼は一週の間、多く の者と同盟 を固め/半週でいけにえと献げ物を廃止する。憎むべきものの翼の上に荒廃をもたらすものが座す。そしてついに、定められた破滅が荒廃の上に注がれる。」

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ダニエル書  第10章

1:ペルシアの王キュロスの治世第三年のことである。ベルテシャツァルと呼ばれるダニエルに一つの言葉が啓示された。この言葉は真実であ り、理解す るのは非常に困難であったが、幻のうちに、ダニエルに説明が与えられた。

2:そのころわたしダニエ ルは、三週 間にわたる嘆きの祈りをしていた。

3:その三週間は、一切の 美食を遠ざ け、肉も酒も口にせず、体には香油も塗らなかった。

4:一月二十四日のこと、 チグリスと いう大河の岸にわたしはいた。

5:目を上げて眺めると、 見よ、一人 の人が麻の衣を着、純金の帯を腰に締めて立っていた。

6:体は宝石のようで、顔 は稲妻のよ う、目は松明の炎のようで、腕と足は磨かれた青銅のよう、話す声は大群衆の声のようであった。

7:この幻を見たのはわた しダニエル ひとりであって、共にいた人々は何も見なかったのだが、強い恐怖に襲われて逃げ出し、隠れてしまった。

8:わたしはひとり残って その壮大な 幻を眺めていたが、力が抜けていき、姿は変わり果てて打ちのめされ、気力を失ってしまった。

9:その人の話す声が聞こ えてきた が、わたしは聞きながら意識を失い、地に倒れた。

10:突然、一つの手がわ たしに触れ て引き起こしたので、わたしは手と膝をついた。

11:彼はこう言った。 「愛されてい る者ダニエルよ、わたしがお前に語ろうとする言葉をよく理解せよ、そして、立ち上がれ。

わたしはこうしてお前のと ころに遣わ されて来たのだ。」

こう話しかけられて、わた しは震えな がら立ち上がった。

12:彼は言葉を継いだ。 「ダニエル よ、恐れることはない。神の前に心を尽くして苦行し、 神意を知ろうとし始めたその最初の日から、お前の言葉は聞き入れられており、お前の言葉のためにわたしは来た。

13:ペルシア王国の天使 長が二十一 日間わたしに抵抗したが、大天使長のひとりミカエルが助け/に来てくれたので、わたしはペルシアの王たちのところにいる必要がなくなった。

14:それで、お前の民に 将来起こる であろうことを知らせるために来たのだ。この幻はその時に関するものだ。」

15:こう言われてわたし は顔を地に 伏せ、言葉を失った。

16:すると見よ、人の子 のような姿 の者がわたしの唇に触れたので、わたしは口を開き、前に立つその姿に話しかけた。

「主よ、この幻のためにわ たしは大層 苦しみ、力を失いました。

17:どうして主の僕であ るわたしの ような者が、主のようなお方と話すことなどできましょうか。力はうせ、息も止まらんばかりです。」

18:人のようなその姿 は、再びわた しに触れて力づけてくれた。

19:彼は言った。「恐れ ることはな い。愛されている者よ。平和を取り戻し、しっかりしなさい。」こう言われて、わたしは力を取り戻し、こう答えた。「主よ、お話しください。わたしは力が出 てきました。」

20:彼は言った。「なぜ お前のとこ ろに来たか、分かったであろう。 今、わたしはペルシアの天使長と闘うために帰る。わたしが去るとすぐギリシアの天使長が現れるであろう。

21:しかし、真理の書に 記されてい ることをお前に教えよう。お前たちの天使長ミカエルのほかに、これらに対してわたしを助ける者はないのだ。

 

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ダニエル書  第11章

1:彼はわたしを支え、力 づけてくれ る。

2:さて、お前に真理を告 げよう。見 よ、ペルシアになお三人の王が立つ。

次に、第四の王はだれにも まさって富 み栄え、富の力をもってすべての者を動員し、ギリシア王国に挑戦する。

3:そこに、勇壮な王が起 こり、大い に支配し、ほしいままに行動する。

4:その支配が確立するや いなや、こ の王国は砕かれて、天の四方向に分割される。

彼の子孫はこれを継がず、 だれも彼の ような支配力を持つ者はない。

この王国は根こそぎにさ れ、子孫以外 の支配者たちに帰する。

5:このうち、南の王と なった者は強 くなるが、将軍の一人が王をしのぐ権力を取り、大いに支配する。

6:何年か後、二国は和睦 し、南の王 の娘は北の王に嫁ぎ、両国の友好を図る。だが、彼女は十分な支持を得ず、その子孫も力を持たない。

やがて、彼女も、供の者 も、彼女の子 らも、その支持者らも裏切られる。

7:だが、彼女の実家から 一つの芽が 出て支配の座に着き、北の王の城塞に攻め入ってこれを破り、勝利を得る。

8:彼は戦利品として、鋳 物の神像や 金銀の財宝をエジプトに運び去る。その後何年か、北の王に対して手を出さない。

9:北の王は南の王国に向 かって行く が、自分の国に引き揚げる。

10:その子らは奮い立っ て進軍し、 洪水/のような一進一退の後、敵の城塞に攻め寄せる。

11:南の王は激怒して出 陣し、北の 王と戦う。北の王は大軍を集めて立ち向かうが、彼らは敵の手に陥る。

12:この大軍を捕らえて 南の王は大 いに高ぶり、幾万人もの兵を殺すが、決定的に勝つことはできない。

13:北の王は再び前回に まさる大軍 を集め、数年の後に強力な軍隊の軍備を整えて進軍する。

14:その時には、多くの 者が南の王 に対して立ち上がる。お前の民の中からも、暴力に頼る者らが幻を成就させようとして立ち上がるが、失敗する。

15:北の王は進軍し、堡 塁を築き、 砦に守られた町を占領する。南の王はこれに抵抗する力を持たず、えり抜きの軍勢も立ち向かうことができない。

16:敵は意のままに行動 し、対抗す る者はない。あの『麗しの地』に彼は支配を確立し、 一切をその手に収める。

17:彼は南の王国全体を 支配しよう と望み、和睦を図り、娘を与え、それによってこの国を滅ぼそうとするが、娘の力は続かず、役に立たない。

18:次に、彼は島々に目 を向け、そ の多くを占領するが、ある軍人が彼の悪行にとどめを刺し、その悪行に報いる。

19:この軍人は自国の城 塞に帰る が、そこで失墜し、倒れて消えうせる。

20:彼に代わって立つ者 は、王国の 栄光のためにと、税を取る者を巡回させる。しかし、幾日もたたないうちに、怒りにも戦いにも遭わずに滅び去る。

21:代わって立つ者は卑 しむべき者 で、王としての名誉は与えられず、平穏な時期に現れ、甘言を用いて王権を取る。

22:洪水のような勢力も 彼によって 押し流され、打ち破られ、契約の君も破られる。

23:この王は、僅かの腹 心と共に悪 計を用いて多くの者と同盟を結び、勢力を増し、強大になって行く。

24:平穏な時期に彼は最 も豊かな地 方を侵略し、先祖のだれもしたことのないようなことを行い、戦利品や財宝を分配する。

また、諸方の砦に対して計 略を練る が、それは一時期のことである。

25:やがて彼は力と勇気 を奮い起こ し、南の王に対して大軍を整える。南の王も非常に強大な軍勢をもってこれと戦うが、計略にかかり、 勝つことができない。

26:すなわち、南の王の 禄を食む者 ら自身が彼を打ち破る。その軍勢は押し流され、多くの者が傷つき倒れる。

27:これら二人の王は、 互いに悪意 を抱きながら一つの食卓を囲み、虚言を語り合う。しかし、何事も成功しない。まだ終わりの時ではないからである。

28:北の王は莫大な富を 獲得して自 国に引き揚げる。聖なる契約に逆らう思いを抱いて、 ほしいままにふるまい、自国に帰る。

29:時が来て、彼は再び 南に攻め入 るが、これは最初でも最後でもない。

30:キティムの船隊が攻 めるので、 彼は力を失う。彼は再び聖なる契約に対し、怒りを燃やして行動し、また聖なる契/約を離れる者があることに気づく。

31:彼は軍隊を派遣し て、砦すなわ ち聖所を汚し、日ごとの供え物を廃止し、憎むべき荒廃をもたらすものを立てる。

32:契約に逆らう者を甘 言によって 棄教させるが、自分の神を知る民は確固として行動する。

33:民の目覚めた人々は 多くの者を 導くが、ある期間、剣にかかり、火刑に処され、捕らわれ、略奪されて倒される。

34:こうして倒れるこの 人々を助け る者は少なく、多くの者は彼らにくみするが、実は不誠実である。

35:これらの指導者の何 人かが倒さ れるのは、終わりの時に備えて練り清められ、純白にされるためである。まだ時は来ていない。

36:あの王はほしいまま にふるま い、いよいよ驕り高ぶって、どのような神よりも自分を高い者と考える。

すべての神にまさる神に向 かって恐る べきことを口にし、怒りの時が終わるまで栄え続ける。定められたことは実現されねばならないからである。

37:先祖の神々を無視 し、女たちの 慕う神をも、そして他のどのような神をも尊ばず、自分を何者にもまさって偉大であると思う。

38:代わりに、先祖の知 らなかった 神、すなわち砦の神をあがめ、金銀、宝石、宝物でこれを飾り立てる。

39:強固な砦の数々を異 国の神に 頼って攻め、気に入った者には栄誉を与えて多くの者を支配させ、封土を与える。

40:終わりの時に至っ て、南の王は 彼に戦いを挑む。それに対して北の王は、戦車、騎兵、大船隊をもって、嵐のように押し寄せ、

各国に攻め入り、洪水のよ うに通過し て行く。

41:あの『麗しの地』も こうして侵 略され、多くの者が倒れる。アンモンの選ばれた者、エドム、モアブはその手を免れる。

42:彼は国から国へと手 を伸ばし、 エジプトもその手を免れえない。

43:エジプトの隠された 宝、金銀、 宝物はすべて彼の支配するところとなり、リビアとクシュは彼の進むところに従う。

44:次いで、東と北から の知らせに 危険を感じ、多くの者を滅ぼし絶やそうと、大いに激昂して進軍する。

45:海とあの『麗しの 地』の聖なる 山との間に天幕を張って、王の宿営とする。しかし、ついに彼の終わりの時が来るが、助ける者はない。


ダニエル書  第12章1−13

 

1:その時、大天使長ミカ エルが立 つ。彼はお前の民の子らを守護する。

その時まで、苦難が続く/ 国が始まっ て以来、かつてなかったほどの苦難が。

 しかし、その時には救わ れるであろ う/お前の民、あの書に記された人々は。

2:多くの者が地の塵の中 の眠りから 目覚める。ある者は永遠の生命に入り/

 ある者は永久に続く恥と 憎悪の的と なる。

3:目覚めた人々は大空の 光のように 輝き/多くの者の救いとなった人々は/

 とこしえに星と輝く。

4:ダニエルよ、終わりの 時が来るま で、お前はこれらのことを秘め、

 この書を封じておきなさ い。多くの 者が動揺するであろう。そして、知識は増す。」

5:わたしダニエルは、な お眺め続け ていると、見よ、更に二人の人が、

 川の両岸に一人ずつ立っ ているのが 見えた。

6:その一人が、川の流れ の上に立 つ、あの麻の衣を着た人に向かって、

「これらの驚くべきことは いつまで続 くのでしょうか」と尋ねた。

7:すると、川の流れの上 に立つ、あ の麻の衣を着た人が、左右の手を天に差し伸べ、

 永遠に生きるお方によっ てこう誓う のが聞こえた。

「一時期、二時期、そして 半時期たっ て、聖なる民の力が全く打ち砕かれると、

 これらの事はすべて成就 する。」

8:こう聞いてもわたしに は理解でき なかったので、尋ねた。

 「主よ、これらのことの 終わりはど うなるのでしょうか。」

9:彼は答えた。「ダニエ ルよ、もう 行きなさい。

 終わりの時までこれらの 事は秘めら れ、封じられている。

10:多くの者は清めら れ、白くさ れ、練られる。逆らう者はなお逆らう。

逆らう者はだれも悟らない が、目覚め た人々は悟る。

11:日ごとの供え物が廃 止され、憎 むべき荒廃をもたらすものが立てられてから、

 千二百九十日が定められ ている。

12:待ち望んで千三百三 十五日に至 る者は、まことに幸いである。

13:終わりまでお前の道 を行き、憩 いに入りなさい。時の終わりにあたり、

 お前に定められている運 命に従っ て、お前は立ち上がるであろう。」

  

 

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