高橋淑郎牧師
ユダヤ人キリスト者たちはステファノの遺体を引き取って涙ながらに葬りましたが、ステファノの殉教と葬儀を引き金に、ユダヤ教徒のキリスト教会に対する迫害は一層残酷なものとなりました。エルサレム教会のキリスト者たちは激しい迫害の為に住み慣れた家を捨て、町を離れ、職業を失うことになりました。明日からどうして食べていけばよいのかと不安なはずです。しかし彼らが落ち延びた土地で最初にしたことは、生活の基盤を立て直すことよりも、「福音を告げ知らせながら巡り歩いた」というのです。
キリストの教会はペトロやヨハネやパウロなど有名な使徒たちの祈りと働きによって誕生し、成長していったように思いがちですが、実際にはこうした多くの無名の信徒たちが住む家を失い、職業を奪われ、或いはホームレスのような寄留の生活を余儀なくされながら、行く先々で福音を告げ知らせた、一途で純粋な信仰に負うところ大です。
教会はまた内なる敵である誘惑とよく戦いました。フィリポが散らされ（実は遣わされ）て行った先はサマリヤ地方でした。彼は力強く、大胆にイエス・キリストの福音を宣べ伝え、主の御業に忠実であったため、町の人々は彼の話に聞き入っていました。その中に魔術で人の目をくらましていたシモンという人もフィリポの目覚しい活動とメッセージにすっかり感動してイエスを信じてバプテスマを受けました。
愛する兄弟姉妹。あなたも行く手を遮るさまざまな妨害に悩むことでしょう。また心揺さぶる誘惑を感じることがあるでしょう。しかし、イエス・キリストを信じる信仰は必ずあなたを勝利に導きます。心乱さず、神に委ねることを忘れないでください。
高橋淑郎牧師
ステファノ事件をきっかけにエルサレムの教会に対する大迫害が起こりました。そのために、信徒たちはユダヤとサマリヤ地方に散らされてしまいました。もはや教会としての機能を果たすことができなくなったように見えます。しかし、実際はそうではありません。キリストの教会はたやすく滅びることはありません。こうした大変な状況の中にも神は、かすかに点るろうそくのともし火のような教会を守ってくださいました。どのように守ってくださったか、ご一緒にみ言葉に聞いてまいりましょう。
第一に、教会は外から襲ってくる迫害によく耐え忍びました。「信仰深い人々」と言いますから、敬虔なユダヤ人キリスト者のことでしょう。彼らはステファノの遺体を引き取って涙ながらに葬りました。ステファノは律法に違反したという罪名で石打ち刑にされたのです。そのような死刑囚の遺体を葬り、追悼することは、ミシュナーというユダヤ教の律法（モーセの律法を解説するタルムードの第一部を構成する口伝律法）では厳しく禁じています。まさに命がけのお葬式でした。
この葬儀のこともきっかけの一つでしょうが、若き律法学者サウロのキリスト教会に対する迫害を一層残酷なものにしました。こうした状況の下、著者ルカはエルサレムに踏みとどまった使徒たちの奮戦振りを紹介する代わりに、散らされて行った信徒の動向に注目しています。エルサレム教会のキリスト者たちは激しい迫害の為に住み慣れた家を捨て、町を離れ、職業を失うことになりました。明日からどうやって食べていけばよいのかと不安なはずです。しかし彼らが落ち延びた土地で最初にしたことは、生活の基盤を立て直すことよりも、「福音を告げ知らせながら巡り歩いた」というのです。
キリストの教会はペトロやヨハネやパウロなど有名な使徒たちの祈りと働きによって誕生し、成長していったように思いがちですが、実際はこうした多くの無名の信徒たちが住む家を失い、職業を奪われ、或いはホームレスのような寄留の生活を余儀なくされながらも、行く先々で福音を告げ知らせた、一途で純粋な信仰に負うところ大です。
第二に、教会は内なる敵である誘惑とよく戦いました。フィリポがその一人です。この人もステファノ同様、初代エルサレム教会に仕えた七人の執事のひとり（６：５）です。フィリポが散らされ（実は遣わされ）て行った先はサマリヤ地方でした。もともとユダヤ人とサマリヤ人は犬猿の仲ですが、ギリシャ系ユダヤ人のフィリポにはそのような先入観はありません。こだわりもありません。彼は力強く、大胆にイエス・キリストの福音を宣べ伝え、主の御業に忠実であったため、町の人々は彼の話に聞き入っていました。ところがその中に魔術で人の目をくらましていたシモンという人もフィリポの目覚しい活動とメッセージにすっかり感動してイエスを信じてバプテスマを受けました。しかし、彼はフィリポという人間に惚れ込みましたが、肝心要のイエス・キリストとの霊的関係が不十分でしたから、彼の中にしっかりとした救いの確信が根付いていなかったのです。このことは３０日の礼拝でじっくり学びましょう。
大体魔術師を名乗る人は、その人自身、世間に注目されたいという名誉欲の魔術に心を奪われてしまっているのです。それにしてもサマリヤの人々は、どうしてこうも易々と魔術師シモンに心奪われてしまったのでしょうか。これについて、またわたしの母のことをお話しすることをお許しください。母はわたしが物心ついた頃から占いというものに頼る傾向がありました。あすのお米も買えないという極端に貧しいときでさえわたしの手を引いて、道を歩きながら、行きずりの占い師に手相を見て貰ったり、人生相談に通う人でした。向こうもそれが商売ですから、当たるも八卦、当たらぬも八卦と適当なことを言うのですが、「あの占い師さんはどうしてあんなにわたしの家のことがわかるのか不思議だ」と、しきりに感心していました。しかしわたしは子ども心に、当たるはずだと思ったものです。本人は占い師の術中にはまっていますから気付かないのですが、占いと称して手を変え、品を変えていろいろな質問をします。母は正直にそれに答えます。実はそうしながら自分から家族構成、家庭の事情、一人一人の生年月日など、何から何まで喋ってしまっているのですから、当たらないほうが不思議です。黙って座ればお金が転がり込む、よい商売です。子どものわたしはそのとき思ったものです。「ボクも大きくなったら占い師になろうかな」と。しかし残念ながら、今は一番稼ぎの悪いキリスト教の牧師です。
以上のように、教会の歴史は、外からの迫害と内側を襲う誘惑との戦いの歴史です。いつの時代も神に逆らう力が働き、その力がキリスト教会を迫害して苦しめます。いつの時代も魔術師シモンのように、超能力に憧れる人間の心を悪用してキリストの教会に揺さぶりをかけてきます。聖書の神は言われます。人はみな死すべき者です。永遠に生きられないのです（創世記５章）。人は陶工師の手にある粘土のように神の手の中で造られた者であり、生かされているのです（エレミヤ書１８章）。この世は全て神の前に罪びとです。善を行う者は一人もいないのです（詩編の第１４編）。
この世は悪人を偉大な人と呼び、神を畏れる人を悪人と決め付けて迫害し、殉教させてしまいます。エルサレムに始まった主イエス・キリストの教会は邪悪な人々の手で散らされてしまいました。しかし、この迫害は教会をさらに大きく成長させるきっかけとなりました。なぜなら教会は迫害され、散らされながらも主イエスを証し続けたのです。
愛する兄弟姉妹。あなたも行く手を遮るさまざまな妨害に悩むことでしょう。また心揺さぶる誘惑を感じることがあるでしょう。しかし、イエス・キリストを信じる信仰は必ずあなたを勝利に導きます。心乱さず、神に委ねることを忘れないでください。 祈りましょう。
天の父なる神さま。あなたのお名前を心より讃美します。
初代の教会に始まり、キリスト教会の歴史は外からの迫害と内側に蝕む誘惑と戦う歴史でした。教会もまた罪びとの集まりだからです。
しかし、清くありたいと願いつつ祈りを怠らない心、み言葉に養われることを喜ぶ心が一人一人の信仰を豊かにし、信仰の戦いを勝利に導くことを学びました。
これはこの教会のメンバーにとっても必要なことです。この世は悪しき力が蔓延しています。どうか、この兄弟姉妹がどのような状況の中でもあなたを見失うことがありませんようにお守りください。
ステファノが、フィリポが、また多くの無名の信仰者が迫害にさらされながらも散らされたところで、主イエス・キリストを第一とすることを忘れず語り続け、それによってあの魔術師シモンもイエスを信じ受け入れました。彼の信仰が正しく成長するまでにはもう少し時間が必要でしたが、これは私たちにも言えることです。私たちの心にもともすれば、超能力を求める誘惑を感じることがあります。しかし、あなたこそ全知全能の神、全てのものを創造された主です。あなたに勝る超能力者は他にないことをいつも確信し、語り伝えるものとしてください。
救い主イエス・キリストの御名にお願いします。アーメン。